第33撃:静かな決意と、二人の勇者の夜
二人は、帰らずの森への帰路の途中、小さな無人小屋で一泊することにした。
翌日の昼頃には帰らずの森の、見上げるような巨大な木がそびえる広場――二人が拠点にしていた場所へと戻れるだろう。
焚き火がパチパチと音を立て、香ばしい匂いが漂う。
一真は枝をくべながら、傍らで鉄串を握る晶を見やった。
「お、いい感じに焼けてきたな」
「はい。……そろそろ食べごろです」
焚き火の上でじっくり焼かれたロックスネークの燻製肉が、脂を落としながらこんがりと色づいていく。
二人は熱々の肉を頬張りながら、これからの話を始めた。
「さてと……やはり、エルサリオンに探りを入れなきゃならないな」
一真は噛みしめた肉を飲み込み、真剣な目で続ける。
「晶のクラスメイト――他の勇者たちがどうなったのかも気になる。それに、ビルたちが言っていた“勇者が二人脱走した”って話もな」
晶は箸を止め、わずかに顔を曇らせた。
「あ……はい……。女の子の勇者が二人、指名手配されたって……」
「ああ」一真は小さく頷く。
「昨日話した仮説が正しければ、なぜその二人だけ自由意志を保っていたのかが気になる。……俺の推測が的外れだった可能性もあるけどな」
晶は下を向き、小さな声で呟く。
「その二人……無事なんでしょうか……」
「そうだな。無事でいてくれればいいが。できれば、その二人と合流したい」
一真は火を見つめながら続ける。
「それと……ロイ爺さんが言っていたエルフの女性、“オラクル”だ。その人物とも接触しておきたい」
「じゃあ、このままエルサリオンに行くんですか?」
その問いに、一真はしばし考え込み、首を横に振った。
「……動くのは明後日にしよう。明日は食える魔物の肉や、質のいい魔石をストックしておきたい。買い物で手持ちは心許ないし、あの森の魔物の魔石は高値が付く。……それに、金だけじゃなく魔石そのものが役立つ場面もあるはずだ」
晶は暗い気持ちを振り払うように深呼吸し、力強く頷いた。
「……わかりました。焦っても仕方ないですもんね」
「そういうことだ」
一真はにっと笑い、晶の頭を軽く撫でる。
「出来る準備は、全部しておこう」
焚き火の炎が、二人の影を長く伸ばしていた――。
◆ ◇ ◆
――時は少し遡る。
一真と晶が追放されてから、わずか一日後。場所はエルサリオン王城。
天城紫音と千歳柚葉は、異世界召喚二日目の朝を迎えていた。
とはいえ、二人は一睡もしていない。
昨夜、廊下で偶然耳にした兵士たちの会話が、頭から離れなかったのだ。
「――上級勇者は戦争の道具に。中級以下は使い潰して廃棄だ」
その言葉が、何度も何度も脳裏でこだました。
暗い部屋の中、紫音が小声で問いかける。
「……柚葉、起きてるか?」
「起きてる……っていうより、寝られなかった……紫音も?」
「ああ。あんな話を聞いた後じゃな」
二人は同時にベッドから起き上がり、窓から差し込む陽光に照らされた、互いの顔を見合わせた。
紫音は苦笑混じりに呟く。
「柚葉……ひどい顔だな」
「紫音こそ……」
短い沈黙のあと、柚葉が唇を噛みしめながら言う。
「紫音……どうしよう……やっぱり昨日のこと、みんなに話したほうがいいんじゃ……?」
だが紫音は、眉間に皺を寄せて首を横に振った。
「……みんな、オレたちの話を聞いてくれるかな? 昨日から様子がおかしい。うまく言えないけど……普通じゃなかった」
「……そうだね。私も感じた。最初は異世界召喚に興奮してるだけだと思ってたけど……まるで人が変わったみたいだった。大人しかった子まで、早く戦いたいって……」
「ああ。あんなこと言う奴らじゃなかったのに」
二人はしばし黙り込んだ後、紫音が視線を逸らさずに言った。
「……オレ、やっぱりこの国……嫌いだ。柚葉、みんなを説得して、逃げよう。じゃないと、取り返しのつかないことになる」
柚葉も真剣な眼差しで頷く。
「うん。……昨日追放されたおじ様と、水無瀬君に会えないかな。あの人……不思議と信用できる気がするの」
「オレもそう思う。……それに柚葉、覚えてるか?」
「え? 何を?」
「おじさんのスキル鑑定結果……“スキル無し”じゃなくて、“確認不能・未検出”って言われてたんだ」
柚葉は目を瞬かせる。
「あ……そういえば、そんなこと言ってたかも……紫音、よく覚えてたね」
紫音は小さく笑った。
「なんか、気になって見てたんだ。言葉にできないけど……あの人、きっと強い」
柚葉は少し考え込み、そして決意を込めて頷いた。
「……うん。他にいい案も思いつかないし、みんなを説得してみよう」
「ああ!」
二人は、エルサリオンからの脱出を決意した。
必要なら、戦う覚悟すら持って――。
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