第29撃:《商談と贈り物》
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ロイは、カウンターの奥から小さな木箱を取り出した。蓋を開けると、中には黒革製のシンプルなバッグが丁寧に収められている。
「これが約束のマジックバッグさ。時間停止型で、容量はうちの店の十倍。耐久性も申し分ない品だよ」
そう言って、ロイはそのバッグを差し出した。だがそれを受け取ろうとする一真は、ふと手を止めてから、振り返って言った。
「晶。このバッグ、お前が持っていてくれるか?」
「えっ……ボクでいいんですか?」
戸惑いと驚きの入り混じった声に、一真は笑って頷いた。
「ああ。晶の方が、こういう管理は得意そうだしな。頼むよ」
晶は目を見開いたまま、一瞬だけ何かを飲み込むような表情を浮かべると、すぐに笑顔になって頷いた。
「……はいっ! 大切に預かりますね!」
その様子に目を細めたロイが、ゆっくりとバッグを晶に手渡す。
「大切に使っておくれ。……さて、話は変わるが」
ロイはカウンター越しに肘をつきながら、笑みを浮かべた。
「おたくら、まだまだ物入りなんだろ? 手持ちもあまりない様子だし。そこでちょっと相談なんだけどね。ロックスネークの燻製肉、余ってるなら売ってくれないかい?」
「いいのか? 確か、新鮮な肉なら値がつくって話だったろ? 晶が頑張って作ったとはいえ、素人の燻製肉に値段がつくのか?」
「ホッホッホ、心配いらんよ。売り物にはしないさ。儂が個人的にいただくつもりなんだよ。昔の冒険仲間と酒でも飲むときの、ちょっとした肴にねぇ」
「なるほどな……そういうことなら助かる。半分くらい、引き取ってもらえるか?」
一真はそう言って、肩から提げたボンサックを開け、そこから丁寧に包まれた燻製肉を取り出す。笹の葉のような植物で包まれ、すでに安全性は確認済みのものだ。
ロイはその量に目を丸くして呟いた。
「おお……これで半分かい。結構な量を仕込んでたんだねぇ」
「それでも全部は持ちきれなかった。結構、途中で食べちまったしな」
「ホッホッホ、それでも充分すぎる量だよ。……さて、査定は――」
ロイは小さく唸りながら少し考え、頷いた。
「金貨で二十枚。どうだい?」
「……え?」
一真は思わず言葉を詰まらせた。日本円にすれば、ざっと二十万円相当。確かにロックスネークの肉は希少らしいが、それでも素人の燻製肉にしては、破格すぎる。
「……なあ、なんで昨日会ったばかりの俺たちに、ここまでしてくれるんだ?」
ロイはしばし黙ってから、ゆっくりと微笑んだ。
「……なんでだろうねぇ。自分でもうまく説明できない。けどね、儂の勘が告げてるのさ」
その目は穏やかで、どこか懐かしむような光を宿していた。
「儂も昔は冒険者だった。命を張って旅して、色んな奴と出会って……色んな奴を見送った。そんな中で得た勘ってやつかな。あんたらは、呼ばれてきた。そんな気がしてならんのさ。このエルフェリアに、必要な存在だってね」
少し照れたように、ロイは目をそらした。
「……ま、年寄りの戯言さ」
一真と晶は、その言葉に何の裏も感じなかった。ただ、まっすぐに胸に届くものがあった。
「……じゃあ、言葉に甘えるよ。その金で、いろいろ買わせてもらう」
ロイは嬉しそうに笑い、頷いた。
それからしばらく、必要な物資の買い出しに移る。
ナイフ、水筒、寝袋、調味料、それに回復薬であるローポーション。携帯用の鍋や折り畳みの皿も購入した。ロイの店には、マジックバッグを持つ冒険者向けの商品が多く並んでおり、晶はそれらを丁寧にバッグへと収めていく。
面白いように、サイズを無視して吸い込まれていく道具の数々を見て、一真は感心した。
「なるほど……これは確かに便利なもんだな」
買い物を終え、一真はロイに笑顔で頭を下げた。
「世話になったな、ロイ爺さん。名残惜しいが、そろそろ行くよ。またこの村に来ることがあれば、立ち寄らせてもらう」
「そうかい。楽しみにしているよ」
そう言って一礼を返すロイに背を向け、一真と晶は店を後にしようとする。だが、そのとき。
「……ちょいと、待っておくれ」
背中越しにロイの声が飛んできた。
「……?」
立ち止まり、振り返る一真と晶。その視線の先で、ロイは何かを思いついたように、懐から小さな包みを取り出していた。
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