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第28撃:《魔石と空間の対価》

ロイはカウンター越しに、手の中のロックスネークの魔石を転がしながら言った。


「グランスライムほどじゃないが、ロックスネークの魔石も十分良いものさ。そもそも、多くの魔石は燃料としてしか使えないからねぇ。それ以外の用途に使える魔石は貴重だよ」


そう言いつつ、ロイは手元のルーペめいた器具で、魔石の表面をじっくりと観察する。その眼差しは職人のそれだった。


「おたくら、ロックスネークの鱗とかは持っていないのかい? あれも良い武具の素材になる。魔石とセットなら、その分、高値もつけられるんだがねぇ」


「あー……それは持ってないな」一真は苦笑して答えた。「魔石以外だと、肉を取って燻製にして保存食にしたくらいだ」

(……吹き飛ばしちゃったしな)


「そうかい。残念だねぇ」ロイは頷きながらも、声にはどこか楽しげな響きがあった。「肉も新鮮なら、良い値がつくよ」


そう言ってふとロイは、一真が肩から提げていたボンサックに視線を向けた。


「ふむ? お前さんのそのバッグ、マジックバッグじゃないんだねぇ」


「マジックバッグ?」一真が聞き返すと、ロイは笑ってうなずいた。


「ああ、そのあたりも、最初の日に説明しておくべきだったねぇ」


そう前置きしながら、ロイは説明を始めた。


「マジックバッグってのはね、高度な魔法によって内部の空間を拡張したバッグさ。見た目は普通のバッグでも、中は何倍、何十倍って広さを持っている」


「マジックバッグ……この世界にもあるんですね! そういうの。本当にファンタジーな世界なんだぁ」

晶は目を輝かせ、感嘆の声を漏らした。


その反応を見て、ロイは楽しげに笑う。


「ふふっ。昔、何度か召喚された勇者と会ったことがあるけど、みんな君みたいな反応だったよ」


晶は少し顔を赤らめ、はにかんだ笑みを浮かべる。


ロイは続けた。


「マジックバッグと言っても色々あってね。容量だけでなく、内部の時間を止める機能がついた高級品もある。そういうのは、中のものが腐らなかったり、温かいまま保存できたりするんだよ」


「時間に干渉するような魔法もあるのか?」一真が少し驚いたように聞いた。


「ああ。あるにはあるさ。ただし、生きてる生物には効果がない。しかも、時間や空間に干渉できるような魔法を扱える者は、ほんの一握りだ。だから、マジックバッグは高級品になる。特に、容量が大きかったり、時間停止の機能があるものは……もう桁が違う」


一真はうなずきながらバッグを見下ろした。


「なるほどな。俺のバッグは普通のやつだ。召喚された時に持っていた、地球製のバッグだよ」


それを聞いたロイは少し考え込むように眉を寄せると、ぽんと手を打った。


「ふむ……こうしようか。おたくらも、この先、普通のバッグだけだと何かと不便だろう? そこで提案だ」


一真と晶は自然と身を乗り出す。


「この2つの魔石…ロックスネークとグランスライムの分を合わせて、大金貨で110枚分といったところだ。それを2つで大金貨100で売ってくれるなら、その大金貨100枚で中型サイズのマジックバッグを渡そう。もちろん、時間停止の加工済み。容量はこの店の10倍ってところかな」


その言葉に、一真と晶は言葉を失う。


「……え、100枚で、店の10倍……?」

晶が目を丸くして言葉を繋ぐ。「す、すごい……金貨に換算すると1000枚……日本円なら……1000万円……」


ロイはその様子を見て、くすりと笑った。


「まぁ、そういうことになる。内容物の保存ができて、大容量で、出し入れも自由。高いには理由があるってことさ」


一真は内心で考える。この世界の相場をまだよく知らない自分にとって、これが破格なのか、損なのか、判断しきれないのが正直なところだ。けれど——


(この老人……ロイ爺さんは、俺たちに嘘をつくような人間じゃない。そんな気がする)


長年の戦いと修行の中で培った、研ぎ澄まされた直感が告げていた。今この人間は、自分たちに対して誠実だと。


一真は晶の方を見た。晶も視線だけで言いたいことを察したのか、静かに、しかし力強く頷いた。


「……ああ、それで構わない」

一真は笑顔で答える。「そのバッグ、買うよ」


ロイはにっこりと満足げに笑った。


「いい取引だよ。きっと、役に立つはずさ」


そしてその瞬間から、一真たちの旅は、新たな道具とともに、次のステージへと歩み始めていた。


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