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第275撃:探し続けた名

最近アップ時間がばらばらでごめんなさい!

 真っ白に塗り潰されていた意識が、現実へと戻って来る。

 緩やかに覚醒していく五感。


 姫咲は、ゆっくりと目を開いた。


 ——違和感。

 最初に感じたのはそれだった。


「……私……いったい?」


 辺りを見渡す。

 目に映るものは、先程まで見ていた日本の風景とは全くの別物。

 外にいたはずなのに、どうやら建物の中にいるようだ。


 姫咲は慌てて身体を制御する。

 深く呼吸をして、仙気を全身に巡らせる。

 そのまま感覚を外へと広げ、周囲を探る。


 一刻も早く、状況を掌握する必要がある。


 なぜこんな事になったのか。

 自分が今いるここは、一体何処なのか。

 自らの周囲に、脅威は存在するのか。


(迂闊っ!……何で私……)


 気が緩んでいた?

 ……いや、なにか違う。


 高速で回転する思考。

 いつでも動けるように、戦闘モードへ移行する肉体。


(……随分と広い建物ね。……城?

 ……この部屋には……さほど人はいないけど)


 少なくとも、探れる範囲から敵意や害意は伝わってこない。


 それでも油断せず、周りを見渡す姫咲。

 何人かの人物が流れるように目に映り、一人の人物の前で視線が止まる。


 その人物は、豪華な作りの服を纏っていた。

 頭には、眩いばかりの王冠が。


 一目でわかる、正に“王”といった出で立ち。

 姫咲の視線と、王の視線が合う。


 姫咲が声を掛けるべきか迷っていると、相手の方から声を掛けてきた。


「よく、来てくれた。地球の方よ。

 いきなりのことで混乱しているだろうが、話を聞いてほしい」


 ——地球の方。

 妙な言い方に、違和感を強める姫咲。


 目の前の人物は日本人では無いようだが、一切の違和感を感じない日本語を喋っている。


 それだけなら良い。

 日本語が流暢であるだけかもしれない。


 だが。


 目の前の人物からは、奇妙な感覚を覚える。


 生物が持つ気——生命エネルギーは感じる。

 そのエネルギーからは、淀みの様な物は感じない。

 流暢に喋っていることから見ても、悪神の眷属ではないのは分かる。


 ——今まで感じたことがない“何か”を感じるのだ。


 全くの未知の力。

 少なくとも、姫咲が生きてきた百二十年超の人生では、一度も感じたことのない何か。


 それだけでは無い。

 先程見渡した人物の中には、日本人と思しき人物も一人いたのだ。

 しかし、その人物からも言葉にできない何か不思議な力を感じた。


 それらの未知の感覚が、姫咲に気を抜くことを許さない。


 姫咲は言葉を返すべきか一瞬悩むが、それでも口を開いて言葉を返した。


「……説明を……聞かせていただきます」


 目の前の人物は一つ頷き、礼を言ってきた。


「感謝を」


 ——意思の疎通は問題ない。


 姫咲が耳を傾けていると、目の前の人物が説明を始めた。


「先ずはこの場所……いや、この“世界”のことから説明せねばなるまい」


 ◇


 そこから姫咲は、自分に何が起きたのかを説明される。


 この世界の名前は、聖魔人界エルフェリアと言うらしい。

 地球とは次元を隔てた別の——言わば異世界。


 この国は、エルサリオン王国という国であること。

 この世界には、様々な魔法やスキルが存在すること。

 自分は目の前の人物——エルサリオン国王、バルト=エルサリオンによって、この世界に召喚されたこと。

 なぜ召喚へと至ったのかということ。


 ——いま、この世界に何が起きているのかということ。


 説明は長時間に及んだ。

 バルト王やその家臣から次々と告げられる情報は、様々な経験をしてきた姫咲を持ってしても、驚きを禁じ得なかった。

 よもや本当に異世界召喚などと言うものがあるとは、思いもよらなかったのだ。


 何よりも驚いたのは。


(邪神ゼルグノス……そんなものが存在するなんて……)


 だがようやく、この世界の人物たちから感じる、不思議な力の正体が分かった。


 魔力。


 この世界の者たちは、魔力をその身に宿しているのだ。


 姫咲は、先程見た地球人へと視線を向ける。


(……?)


 その視線を受け、不安そうに小首を傾げる少年。

 その様子を見て、更に姫咲は驚きを深めた。


(この子が……男の子……)


 ざっと説明を受けただけだが、この女性にしか見えない人物は男性だという。

 この世界を創った二柱の神の片割れ、女神エルフェリーナの魂を宿すもの。

 現状この世界で、生命の奇跡を使えるただ一人の人物。


 ——そして、邪神復活の鍵となる人物。


 これまで受けた説明は、にわかには信じがたいものだった。

 だがしかし、姫咲の強化された感覚がそれを証明している。


 バルト王たちの説明は本当のことなのだと。


 必死に情報を整理している姫咲に、バルト王が謝罪を告げてくる。


「地球の方よ、我々の事情に巻き込んでしまったこと、本当にすまないと思っている。

 どの様な誹りも甘んじて受けよう。

 だが……どうか力を貸してはくれまいか?

 この世界を……そこに住まう命を……救ってはくれないだろうか?」


 姫咲は迷った。

 それも当然だろう。

 いきなり異世界へと召喚されて、唐突に救って欲しいと言われているのだ。

 迷うなという方が無理というものだ。


 だが、見捨てるという選択肢は選びたくない。

 バルト王やその家臣たちから、ひしひしと伝わってくるのだ。

 力を貸してほしいという思い以上に、申し訳ないという感情の揺れが。


 話によると、千年前から幾度となく召喚を行ってきたという。

 その度に、この様な感情を抱いてきたというのなら……。


 それだけこの国に……いや、この世界には余裕がないのだろう。

 ——罪悪感を抱きながらも、異世界へと頼らざるを得ないほどに。


 色々と思うところはあるが、いずれにしても知らぬ存ぜぬでは済まされないだろう。

 元の世界に戻れるかどうかも、聞かなければならない。


 今こうしている間にも、地球では悪神との戦いは続いているのだ。


(……先生)


 地球で戦っている源十郎が心配だ。

 京牙の気まぐれが、良い方に向いてくれれば助かるが……。


 姫咲が地球へと思いを馳せていると、この国の神官と思しき人物が驚きの声を上げる。


「なっ!?こ、これは!」


 慌ててそちらに視線を向ける姫咲。

 神官は何やら魔法を使ったのか、空中に光のウインドウのようなものが浮かび上がっている。


(あれが魔法。本当に魔法が存在するのね)


 神官はバルト王へと近づき、鑑定魔法の結果を告げる。


「陛下……この結果を……」


 バルトは姫咲に断りを入れ、ステータスウインドウへと目を通す。


「地球の方よ、すまぬがスキルを確認させてもらいたい」


 ウインドウに視線を落とすバルト王。


「ふむ、月城姫咲殿と申すのか。……むっ!?こ、これは!」


 バルト王の表情にも、神官と同じ驚きの表情が浮かぶ。


 姫咲が怪訝そうな顔をしていると、バルト王の口からポツリと言葉が落とされる。


「スキル、確認不能……未検出……」


 その言葉を聞いて真っ先に反応したのは、女性にしか見えない少年——晶だ。


「えっ!うそ!?姫咲さん!?……それにその鑑定結果……一真さんと同じ結果……」


 晶の口から放たれた言葉に、今度は姫咲がすぐさま反応する。


「一真!?一真ですって!?」


 姫咲は慌てて、離れた所にいた晶へと駆け寄る。


 間違いなく一真と言った。

 それだけなら、同名の別人の可能性もあるだろう。

 だがこの少年は、自分の名前も知っていたのだ。


 姫咲と一真。

 その二つの名前に反応して、全くの偶然だなんてあり得ない。


 驚きに固まっている晶に詰め寄る姫咲。

 その瞳は、今にも涙が溢れそうなほどに揺らいでいる。


「君!晶くんだったわよね!いま……いま一真って……っ」


 晶は姫咲の瞳を見て、胸の奥がちくりと痛む。


(この人……本当に姫咲さん……。

 この瞳……姫咲さんも一真さんのこと……)


 あまりの感情の揺らぎに、晶の様子に気付けない姫咲。

 縋るように晶の肩に手を置き、願うように問いかける。


「お願いっ!教えて……くださいっ!

 一真って、草薙……一真?」


 晶は無言で、こくりと頷く。


 その様子を見た姫咲の瞳から、涙が一筋零れ落ちる。


「一真が……この世界に?……ああ……かずまぁ!」


 探しても探しても見つからなかった。

 求めても求めても会えなかった。


 そんな愛おしい人が……ようやく見つかった。


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― 新着の感想 ―
 ようやく一真さんが見つかってよかった(T . T)  姫咲様ーー( ;∀;)一真さんを救って〜♡  
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