第270撃:それでも召喚するという選択
いつも遅くなってしまい、申し訳ありません。
勇者召喚という言葉を聞いて、晶は驚きの表情を浮かべる。
なぜこのタイミングで?
何の目的で?
晶は、自らのクラスメイトのことを思い出した。
もうこの世にはいない、みんなのことを。
紫音と柚葉以外のクラスメイトの死。
すでにその話は聞いている。
その話を聞いた瞬間、晶の胸には言葉にできない悲しみが訪れた。
クラスメイトとは、決して良好な関係とは言えなかった。
色々と思うところもある。
それでも。
一度たりとも、死んで欲しいだなんて思ったことはない。
新たな勇者を召喚するということは、その者に——
その者たちに命を落とすかもしれない運命を背負わせると言うことだ。
特に今のエルフェリアの情勢を考えれば、危険はかなり大きいだろう。
——正直な所を言えば、晶はこれ以上勇者召喚を使ってほしくはなかった。
しかし。
晶が周りに視線を向けると、異を唱えるものは一人もいなかった。
紫音や柚葉も含めて、勇者召喚には賛成しているのだ。
晶は紫音と柚葉に問いかける。
「二人とも、召喚に賛成……なの?」
二人は複雑な表情を浮かべるが、それでも肯定で返した。
「気持ち的なことを言えばさ、反対だよ。
でも……オレも必要だと思う」
「私も、本当は召喚はしてほしくない。
ほしくないけど……」
二人はそう言って眠る一真に視線を向けると、ポツリポツリと考えを口にし始める。
——心のどこかで、一真は何があっても大丈夫なんだと考えていた。
絶対に負けないと。
誰よりも強いと。
どんな相手が現れても、すぐに倒して皆を救ってくれるスーパーヒーロー。
どこかでそんな風に思っていた。
だが話を聞けば、一真はボロボロの状態で運ばれたという。
そして傷が癒えた現在でも、一向に目覚める気配がない。
どんなに強くても。
どれだけ頼りになろうとも。
どれほど規格外でも。
——一真とて死ぬのだ。
今回は助かった。
だが次はどうか分からない。
現に今も、何をしても目覚めない。
怖くなったのだ。これから先の事が。
紫音も柚葉も、以前よりは強くなれたという実感はある。
だがそれで、自分達に一真を“守れる”かと聞かれたら……。
答えは否だ。
一真にこれほどのダメージをあたえられる相手に、自分達が勝てるとは思えない。
今はまだ、同じ戦場に立つことすら叶わないだろう。
力が欲しい。
頼れる助っ人が来てほしい。
身勝手でも、はた迷惑な話であろうとも。
たとえ召喚された者に恨まれようが。
それでも——一真を失うよりは遥かにいい。
晶は二人のそんな考えを聞き、それ以上何も言えなくなった。
なぜなら、自分も同じ気持ちなのだから。
自分勝手だろうが、藁にも縋りたい。
晶の沈黙を見て、アリステリアが声を掛けてくる。
「晶さん。勇者召喚というのは私の——正確にはヴァルドランの意見なのです」
「え?」
驚き、アリステリアを見る晶。
アリステリアは、言葉を続ける。
「ここに来る前に、ヴァルドランは言っていました。
『この世界が外に救いを求めている』と」
そして、世界に本当の危機が訪れた時、強大な力を持つ勇者が召喚されるとも。
アリステリアの言葉に、晶の胸はドクンと跳ねる。
一瞬、エルフェリーナの事が思い浮かんだ。
エルフェリーナは言っていた。
自らの勝手で、一真を呼び寄せたと。
今のエルフェリアには、余力がないと。
——世界が助けを求めている——
何故かその言葉は、自然と胸の中に落ちてきた。
一真という存在は、この世界に求められていた。
それだけ、このエルフェリアは危機に瀕しているのだろう。
晶はその言葉を、頭で何度も繰り返す。
そんな晶に、オルディンが声を掛けてきた。
「まあ、今アリステリア嬢が言った通りじゃ。
ワシらもその言葉には、思うところがあっての」
その言葉の後を、シルヴァが引き継ぐ。
「俺たちもその言葉に共感して、勇者召喚に賛同したというわけだ。
地球の者には、本当に申し訳ない事をするが……」
晶は考える。
そしてどれだけ考えても、反対の材料は見当たらなかった。
自分とアリステリアが、戦場に赴くわけにはいかない事。
新たなる勇者の助力が、今まさに必要だということ。
晶は葛藤を無理やり飲み込んで、皆の意見に賛同を示す。
「分かり……ました。
勇者召喚……ボクも賛成します」
その言葉を聞き、ロイが一つ頷いて言葉を放つ。
「すまないね。君達の世界に、また迷惑をかけてしまう」
そう言ってロイは、話を先へと進める。
「では早速、俺たちは戦場へと向かう。
晶くんたちは王に話をして、勇者召喚を進言してほしい」
晶は頷いて了承の意を示す。
そしてその後すぐ、気になることを問いかけた。
「あ、そう言えば。
この場所から魔族領へって、どうやって行くんですか?」
翠霊郷から魔族領までは、普通に向かえば数日かかる。
それを解消する方法が、このエルサリオンにあると言う話で来たのだ。
だが晶は、その方法を聞いていない。
結局話が逸れてしまい、オラクルやリュミナからは聞けていないのだ。
このエルサリオンは、魔族領からは正反対に位置する。
翠霊郷からは、真逆に進んで来てしまっているのになぜ。
晶の疑問に答えたのは、柚葉だった。
「晶くん、このエルサリオンの地下にはね、魔族領まで通じている転移魔法陣があるの」
柚葉の言葉に、晶は驚きの声を上げる。
「え!?転移魔法陣!?」
紫音が言葉を続ける。
「以前オレたちは、この城の魔法陣を使って魔族領……魔王城の近くまで転移したことがあるんだよ」
紫音の言葉で、晶は思い出す。
以前帰らずの森で再会した紫音たちと、情報交換をした時の事を。
その時に聞いたこと。
転移陣を使い、魔王城へと攻め込んだということ。
確かにそれを使えば、一瞬にして魔王城の近くまで行ける。
大幅な時間短縮だろう。
——だが晶は、そこで疑問を覚える。
この城の地下に転移陣があるというのはいい。
恐らくだがセレフィーネか、過激派の何者かが仕込んだのだろう。
だがそれを、穏健派の者たちが放置するだろうか?
もしも晶が同じ立場なら、転移陣を破壊するか閉じるかするだろう。
そう思い、アリステリアに視線を向ける晶。
その視線の意味を汲み取ったアリステリアが、頷いて答えを言ってきた。
「晶さんが今考えている通りです。我々は、あの後に転移陣を閉じました」
アリステリアの言葉を聞き、晶はますます分からなくなる。
転移陣が使えなくなっているのなら、なぜみんなこんなに?
今度はその疑問に答えたのは、リュミナだった。
「その転移陣の封印をね、私とお姉ちゃんが解いてきたのっ!」
今度こそ晶は、驚きの顔になった。
いつの間にそんな事を……。
「魔族間の睨み合いが激化しそうだったのは分かったからな。
密かに魔族領へと侵入して、封印を解いておいた。
万が一の事態に備えてな」
いずれにしても、ファレナ姫は助けに行くつもりだったのだ。
転移陣は使えるにこしたことはなかった。
それがまさか、この様な形で役に立つことになるとは思わなかったが。
ようやく晶も、理解が追いついてきた。
自分たちが封印を解いたからこそ、オラクルとリュミナはここに来ると言ったのだろう。
確かに転移陣が使えるのなら、ここから飛んだほうが遥かに早い。
晶の理解を持ってして、いよいよ一行は行動へと移る。
晶とアリステリアは王の元へ。
紫音たち七人は転移陣を使い魔族領へ。
晶たちはもう一度一真の顔を見ると、医者に一真のことを頼む。
そして部屋の外へと。
途中の分かれ道。
片方は地下へ。
もう片方——直進の道は謁見の間へ。
その分かれ道で、晶たちは互いに声を掛け合う。
「それじゃあ紫音、柚葉。それにロイさんたちも……気をつけてくださいね。
……絶対に……生きて帰ってきて!」
晶の言葉に、紫音と柚葉が答える。
「ああ!分かってる!
ちゃんと帰ってくるよ」
「晶くんも、陛下の説得をお願いね」
紫音が手を差し出す。
その手に柚葉が手を重ねる。
一瞬躊躇するが、晶も赤くなりながら、その手に自分の手を重ねた。
「「「みんな生きて再会しよう!」」」
その言葉を合図として、晶たちは別れたのだった。
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