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第269撃:綺麗じゃない

いつも読んでくださり、有難うございます!

 ——晶の異変。

 その変化は、晶の奥深くで眠りについていたエルフェリーナにも伝わった。


 危険な兆候。

 神の“領域”へと、溺れてしまいかねない変化。


 眠りから目覚めたエルフェリーナが、晶へと叫びかける。


『晶さん!!駄目です!それは“見て”はいけない世界!』

『貴方は人間なのです!神の領域へと踏み込んではいけない!』


 あまりにも切羽詰まったエルフェリーナの叫び。

 その叫びを聞いて、晶はハッとする。


「え……あ……。

 ボ、ボク……何を……?」


 気付いたら、先程までの視線は感じられなくなった。

 目を白黒させる晶。


 晶の奥底で、エルフェリーナは心が軋むのを感じていた。

 恐れていたことが起き始めてしまった。


 短期間で、治癒の力を使いすぎたのだ。

 これが他の人物なら、ここまで強い影響は出なかっただろう。


 エルフェリーナはこれまで多くの女性に宿らせてもらい、ここまで力を回復してきた。

 だがそれは、誰でも良いというわけではない。

 相性は勿論の事、相手が女性であるということ。


 そして。


 相手の女性が、成長期を終えているということ。

 エルフェリーナは、その条件を厳守してきたのだ。


 ——晶に宿るまでは。


 相手がまだ成長途中である場合、その分だけ成長過程で自分の影響を強く受けてしまう。

 それが行き過ぎてしまえば、人としての人生に影を落とす。

 それを危惧したエルフェリーナは、成人した女性に限定して宿らせてもらってきた。


 しかし晶は、正にその条件の対極と言える存在だ。

 男であり、生まれる前に宿ってしまった相手。


 結果、晶はこれまでに類を見ないほど、エルフェリーナと強く適合してしまった。

 数百年前に宿った、“癒やしの聖女”と呼ばれた勇者を遥かに超えるほどに。


 アルサリウスもエルフェリーナも、僅かだが次元を隔てた世界を観測出来る。

 もちろん、自由自在とはいかないが。


 召喚術式を編み出せたのも、その力故にだ。


 晶が今、別世界の者たちの視線を感じたのも、そういったエルフェリーナの力の影響を受けたためだろう。


 ——強すぎる。

 あまりにも結びつきが。


『……晶さん、どうか気をしっかりと』


 その言葉でようやく、晶はエルフェリーナの目覚めを把握する。


「エル……フェリーナさま?」


 一瞬、何が起きたのか分からない晶。

 だが次第に、先程までの自分の状態を理解し始める。


「あ……ボ、ボク……」


 じわじわと、恐怖が足元から這い上がってくるような錯覚を覚える。

 呼吸が早く、浅くなっていく。

 自分が自分でなくなっていくような……根源的な恐怖。

 そんな晶に対して、エルフェリーナが優しく声を掛ける。


『晶さん、大丈夫です。落ち着いて。

 貴方は貴方です。大丈夫……大丈夫』


 エルフェリーナの声を聞き、意識してゆっくりと深く呼吸をする晶。


 ——落ち着いてきた。


 晶は一度大きく息を吐くと、自らに宿るエルフェリーナへと声を掛ける。


「……もう、大丈夫です。ごめんなさい、エルフェリーナ様」


 その声から落ち着きを感じ取り、エルフェリーナもひとまず胸を撫で下ろす。

 しかし根本的な解決策が無い以上、晶がこれからどうなっていのかを考えるのが怖い。


『晶さん、どうかこれ以上は……治癒の力を使わないでください。

 肉体が女性になるというだけではなく、私に引っ張られすぎてしまう……どうか』


 そう言うと、エルフェリーナの存在感が再び希薄になっていく。

 再び眠りにつくのだ。


 エルフェリーナはこの千年、自らの肉体を再生しようとしてきた。

 神の体の再生には、多大な力が必要であり、自らの生命の力をフルに使う必要があった。


 そしてそれは、今も続けている。

 本来ならこの様に表に出てくるのも、かなりの無理が必要なのだ。


 緩やかに弱くなる、エルフェリーナの存在感。

 それを寂しさを覚えながら、晶は静かに見届けた。


 エルフェリーナの魂が眠りについたのを確認して、晶は立ち上がり声のする方へと向かう。

 どうやら自分は、気を失う前とは違う部屋に寝かされていたらしい。


『キィ——』


 僅かな軋みを上げて開かれるドア。

 その音に、一同は扉へと視線を向ける。


「晶!目が覚めたのか!」


「晶くん!大丈夫?無理してない?」


 紫音と柚葉が、心配そうな声を上げて晶へ近づく。


「う、うん。心配かけてごめんね。

 ボクは大丈夫だよ」


 ——嘘だ。

 本当は不安でしかたがない。

 だがその不安を、どの様に説明しろというのか。


 返事の内容に反して浮かない顔の晶を心配して、紫音と柚葉は努めて明るい声を掛ける。


「それにしても、本当に晶は優しいな。

 オレも晶に助けられたしな。

 本当に感謝してるし、凄いと思うよ」


 ——違う。


「うん。本当に凄いよ、晶くん。

 力を使えばどうなるか分かっているのに、それでも躊躇せずに使えるなんて。

 でもね、無理はしないでね?」


 ——ボクは違う……そんなに綺麗じゃない……。


 浮かない晶の表情。

 その顔を見て、紫音が心配そうに声を出す。


「晶?大丈夫か?

 やっぱりどこか苦しいのか?」


 晶はその言葉に、慌てて首を横に振って答える。


「う、ううん!そんなことないよ!

 ボクなら大丈夫だから!」


 努めて明るく振る舞う晶だが、そこに無理が含まれているのは誰の目にも明らかだった。


 晶は話題を変えようと、慌てて病室内を見渡す。

 そこには、城に来る前に別れた、ロイたち三人の姿も確認できた。


「あっ!ロイさん、オルディンさん、シルヴァさん」


 ロイたちは会話を中断して、晶へと笑顔を見せてくる。

 三人とも晶の雰囲気の変化には気づいているし、説明は受けている。

 しかしそれを、表に出すことはしない。


「晶くん、目が覚めたんだね。良かったよ」


「晶!全くお主は、無茶しおってからに」


「お前も色々と考えがあるのだろうが、程々にしておくんだ」


 普段と変わらない三人の態度。

 その態度に、晶は少しホッとする。

 今はその態度が有り難い。


 晶が無理のない笑顔で三人に答えを返すと、そこにアリステリアが近づいてきた。


「晶……さん」


 晶はアリステリアに向き直る。


「あ、アリステリアさん」


 少しの間、無言で視線を交わす二人。

 その後唐突に、アリステリアが頭を下げた。


「晶さんっ!本当に……本当にありがとうございます!

 貴方のお陰で、ヴァルドランの命が繋がりました。

 本当に……ありがとう……」


 深く頭を下げ続けるアリステリア。

 その身体は、小さく震えている。


 アリステリアも、晶の事情を知った。

 晶にエルフェリーナが宿っていることを。

 力を使えば、身体が女性へと変わっていくことを。


 それ故にアリステリアの心には、感謝と申し訳なさが同等に混在していた。

 晶のお陰でヴァルドランは助かった。

 だがその代わりに、晶の身体は女性と近づいたのだ。


 元の晶を見たことがないアリステリアには、今の晶がどれほど女性に近づいた状態なのかは分からない。

 それでも、初めて会った先ほどと、今の晶が明確に違うのは理解できる。

 その事実が、アリステリアの身体を震わせた。

 心が男性なのに、身体は女性へと変わっていく。

 生まれついての女性であり、違和感もない自分には、その恐怖は理解することは出来ない。


 晶はそんなアリステリアを見て、気づいたらアリステリアを抱きしめていた。

 少しでも彼女の心を、軽くしてあげたいと思ったのだ。


 驚きの声を上げるアリステリア。


「あ、晶さん……?」


 晶は優しくアリステリアの背中を撫でて、短く声を掛ける。


「アリステリアさん、良かったです。

 本当に……良かった!」


 アリステリアは、我慢ができなかった。

 自らよりも若い晶に、まるで子供のように抱きついて泣きじゃくった。


 その場にいる者たちは、そんな二人を黙って見守っていた。


 ◇


 アリステリアが落ち着いたのを見計らって、オラクルが声を掛けてくる。


「さて、晶。

 少し辛い報せがある」


 どきりと胸が跳ねる晶。


「辛い……報せ……です、か?」


 オラクルは一つ頷き説明を続けようとするが、その説明はシルヴァが引き継いだ。


「その説明は俺がしよう」


 そう言ってシルヴァは、晶達と別れてからのことを説明し始める。


 結論から言うと、一真を目覚めさせることは出来なかったということだ。


 シルヴァはエルサリオンにいるエルフから情報を収集したが、一真を助けられるような情報は得られなかった。

 ロイとオルディンは、驚いたことにハイポーションを入手してきた。

 その他にも、精神的な異常に効くとされる霊薬すらも。


 だがそれらの薬を用いても、一真が目を覚ますことはなかったのだ。


 完全なるお手上げ。

 原因がわからない以上、これ以上手が打てない。


 その話を聞き、晶は胸が苦しくなる。

 半ば無意識に、気付いたら眠る一真の横に立っていた。

 晶はその手を、一真へとかざす。


 そして。


 一真の身体に、癒やしの魔法を使う。


 ——効果なし。


 今度は魔法ではなく、エルフェリーナの力を使い始める。

 周りの者達が咄嗟に止めようとするが、結局は見守った。


 ——効果……なし。


「そんな……一真さん……」


 瀕死の者を救えるほどの、エルフェリーナの力を持ってしても一真は目覚めない。

 ——自分には……一真を救えない。


 晶は悲しみに、視線を床へと向ける。


 晶の気持ちを考えれば、気持ちを整理する時間を設けてやりたい。

 だが、そうも言ってられない状況だ。


 この城に来た、本来の目的。


 魔王軍穏健派への助っ人。


 穏健派と過激派の戦争が始まり、かなりの時間が経過している。

 あまり悠長にしている時間はない。


 みなを代表して、ロイが晶へと声を掛けてくる。


「晶くん、君とアリステリアさんはこの城に残るんだ」


 ロイの言葉に、晶は弾かれたように視線を上げる。


「えっ!」


 晶は慌ててアリステリアに視線を向けるが、アリステリアは視線を伏せている。

 既にアリステリアには、説明しているようだ。


「女神エルフェリーナの魂。そして魔王ダンダリオンの力。

 その双方が、この場に揃っている。

 ……君たち二人を、戦場へと連れて行くわけにはいかない」


 晶はロイに、慌てて食い下がろうとする。

 しかし喉元まで出た言葉は、そのまま飲み込んだ。


 ロイの意見のほうが正しい。


 事は邪神の復活に関わることだ。

 自分とアリステリアが、グラウザーンの目の届く範囲に行くのは危険過ぎる。


 晶の沈黙を見て、ロイは承諾と受け取る。


「戦場には、オルディン、オラクル、リュミナちゃん。

 それにシルヴァ、紫音ちゃん、柚葉ちゃん。……それに俺。

 この七人で行ってくる」


 そう言ってロイは、アリステリアへと視線を向けて続ける。


「晶くん、君はアリステリアさんと共に、バルト王に話をしてほしい。

 ……今一度の、勇者召喚を」


 ——勇者召喚。


 今のこの状況を打開できる、新たなる勇者の助力を得ること。

 それはヴァルドランが、アリステリアに告げた言葉であった。



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― 新着の感想 ―
     てっきり、  晶ちゃんが、一真さんを目覚めさせるものかと思っていましたがーー   『勇者召喚』ーーこの響きが気になります╰(*´︶`*)╯♡
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