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第268撃:見られている

いつも読んでくださり、有難うございます!

 晶は今までの様に、意識を失うことはなかった。

 いや、この場合は“失えなかった”というべきかもしれない。


 何が起きているのかすら分からない、アリステリアやエルサリオンの者たちはもちろん、

 紫音や柚葉、オラクルやリュミナも、どうしていいか分からないのだ。

 触って介抱して良いのかすら分からない。


「あ、晶……」


「晶くん……」


 見ている事しか出来ない無力感。

 紫音と柚葉がその無力感に打ちひしがれていると、ようやく晶の様子が落ち着いてきた。


 徐々に呼吸も静かになり、苦しそうな様子も影を潜める。

 そのまま晶は、意識を手放す。


 痛いほどの静寂。

 目の前で起きた事に、みな声を出せない。


 その沈黙を破り、真っ先に動いたのは医者だった。


「……!

 い、いかん!こうしちゃおれん!」


 慌てて晶へ近づく医者。

 脈を取り、呼吸を聞き、眼球運動を確認する。


 ——大丈夫だ。

 生命活動に異常は見られない。

 とりあえずは安定している。


 大きく息を吐きだし、安堵する医者。


「ふぅ……大丈夫だ。異常は見られな——!?」


 そこで医者は気付く。

 晶の様子がおかしい事に。


 ——先程までとは、何かが違う。

 僅かだが、髪の毛が延びている。

 このほんの一瞬でである。


 髪の伸びる速度は、一般的には一月に1cmから1.5cmだと言われている。

 個人差や季節、環境などにより多少は上下するだろうが、

 この一瞬で目に見える程の成長は異常だった。


 それだけではない。

 体の……いや、全体的な雰囲気が先程までとは違う。

 言語化が難しいが、より女性“らしく”なったような印象を受けたのだ。


「なんだ……?

 何だ……この変化は?」


 医者は紫音と柚葉に向き直り、問いを飛ばす。


「君たち、この女性はいったい——」


 しかし医者がみなまで言う前に、柚葉が言葉を被せてきた。


「……男性です」


「……なに?」


 唐突に告げられた柚葉の言葉に、一瞬医者が呆ける。


 その様子を見て、今度は紫音が言葉を落とす。


「そいつは……男なんだよ……。

 正真正銘の」


 一瞬何を言われたか、理解できない医者。

 一拍の間を置き、“言葉として”の意味を理解する。


「……男?……この子がか?」


 乾いた笑いが、医者の口から漏れる。


「ははっ……は……本気で言っているのか?」


 紫音と柚葉の表情は、冗談を言っているようなものではない。

 医者は慌ててオラクルとリュミナも見る。


 こちらも同様だ。

 瞳に痛みを宿していて、冗談の様な軽さは無い。


 医者は再び、倒れている晶へと視線を向ける。


 この子が男?

 本当なのか?


 ——いや、なぜ自分はこれほどまでに、この子が男だと信じられないのか?


 医者も何度か見たことがある。

 男のような女性や、女のような男性。

 だが医者はそれらの者に対して、違和感などは感じたことはない。


 それはあくまでも個性。

 その者たちの在り方。


 だが。


 この横たわる子から伝わってくる感覚は、明らかに何かが違う。

 どうしても男性だとは思えないのだ。


 ……?


(男性だとは思えんだと?

 ……儂はさっきまで、この子の性別にそこまで意識を向けていたか?)


 ——否。

 そんなことはない。


 確かに最初会った時から、男には見えなかった。

 だが、その事をここまで意識などしてはいなかったはずだ。


 この子が、先程の奇跡を使って見せた後からだ。


 ——まるでこの子の、“男としての要素”が薄まっていっているような——


 そこまで考えて医者はハッとする。


「いかん、考えるのは後だ。

 まずはこの子を、介抱してやらんとな」


 そう言うと医者は晶を抱きかかえて、隣の部屋へと連れて行く。

 その部屋も医務室の一部。

 安静が必要な患者を寝かせておく、言わば入院室の代わりのような物。


 医者はその部屋のベッドの一つに、晶を優しく寝かしつける。

 そして再びバイタルチェック。


 ……大丈夫だ。

 異常は見受けられない。


 医者は笑みを浮かべると、晶に毛布を掛けてやり、元の部屋へと戻って来る。


 場は未だに、沈黙が支配している。

 その沈黙を破るように、医者は紫音たちへと問いを飛ばす。


「さて……説明してくれるかね?

 一体……何が起きたのかを。……あれは紛れもなく……治癒の力だ」


 今のエルフェリアには、存在するはずのない力。


 最初紫音たちは、言い淀んでいた。

 ここで話しても良いものなのか。


 晶の安全は?

 この人たちも、危険に巻き込むのでは?


 そんな感情が、胸を満たしていた。


 しかし、ここまで来たら誤魔化すことは出来ない。

 何よりも、アリステリアは知っておいたほうがいいだろう。


 そう判断して、紫音と柚葉。それにオラクルにリュミナは、一つ頷き合う。


 その様子を黙ってみていた門兵が、慌てて部屋を退室しようとする。

 自分は知らないほうがいいと判断したのだろう。


「……気にはなりますけど……元の仕事へと戻ります。

 これはきっと……俺が知っちゃいけないことだから……」


 そう言って最後に部屋を出る前に。


「……なにか力になれそうなことがあれば、遠慮なく声を掛けてください。

 自分に何が出来るかは分かりませんが」


 そう言って、部屋を後にした。


 門兵の気遣いに心で感謝を伝えつつ、紫音たちは説明を始める。


 晶に何が起こっているのかを。

 なぜ……治癒の力を使えるのかを——。


 ◇


 どれくらい意識を失っていたのか、やがて晶はベッドの上で目を覚ます。


「あ、れ?……ボク……一体……」


 慌ててベッドから起き上がろうとする晶。

 しかし、どこか体のバランスが取れずに、そのまま床へとへたり込む。


「え?あれ?」


 ——違和感。

 続いて湧き上がる恐怖。


「ま、まさかっ!」


 慌てて自分の身体を確認する晶。


 ……まだ“男”だ。


 晶は息を吐いてホッとする。

 良かった。まだ男でいられてる。

 ——ナンダ……マダ“アル”ンダ……ミレンガマシイ——


 ……自分はいつまで男でいられるのだろう?

 どれほど力を使えば、女になるのだろう?

 ——ハヤクステテシマイナヨ?——


 ——ふと、晶の頭に思い浮かぶ感情。

 今まで何度も考えては、頭の外に追いやってきた考え。


(もし本当に、ボクが女の子になっちゃったら……一真さんにはどう映るのかな?)


 怖い。

 とても怖い。

 今までの自分が、居なくなってしまいそうだ。


 でも——


『仕方ないよね』

『ボクが望んで、女の子になる訳じゃないもんね』

『これは、誰かを“救う”ためなんだから』


 その結果として女の子になるのなら、これはどうしようもないことなんだよね?


 怖い。

 とても怖い。

 怖い……筈なのに……。


 ——オンナノコニナレバ……カズマサンニアイシテモラエル——


 気付くと晶の顔には、笑みが浮かんでいた。

 見る者の心を乱すような、十代の少年とは思えない笑顔。


 ——ふと——晶はどこかから無数の視線を感じる。


「え?……なに?……誰かに見られてるの?」


 キョロキョロと辺りを見渡す晶。

 だがその部屋には、自分以外に誰も居ない。


 それでも消えない視線。


 晶は探る。

 視線の位置を。

 誰が、どこから自分を見ているのかを。


 晶は一つの場所を見つめて、動きを止める。


 はるか“上空”から、自分を見下ろす無数の視線。


 再び晶の顔に、笑みが浮かぶ。

 淫靡で……蠱惑的な笑み。


 晶は“こちら”へと向けて、声を飛ばしてくる。


「あはっ♪見られちゃってるの?ボクのこと」


 その笑みが深められる。


「ボクの事を見ているのは……『貴方?』それとも『貴女?』」


 そう呟く晶の表情は、壊れてしまいそうな程に——美しかった。

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
ようやく最新話まで読みに来れました〜(*^^*) 息をつく間の無い緊迫シーンの連続 刻々と変化する情勢、それぞれの想いや事情… 様々な要素が複雑に絡んで、ドキドキします! そして晶くんの変化と戸惑いと…
 違う世界を見始めた晶ちゃん。  晶ちゃんの中の彼女ーー  女神エルフェリーナの存在が強く出ていた印象です。  次を楽しに待ちます(╹◡╹)♡
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