第263撃:目覚めない一真
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晶、紫音、柚葉。
ロイ、オルディン、オラクル、リュミナ。
そしてシルヴァ。
この八名が、穏健派の助力小隊となる。
……残念ながら、ルナリスはシルヴァの家で留守番だ。
流石に、戦争につれていくわけにはいかない。
八人は、翠霊郷への転移魔法陣が設置してある森を抜けるために進む。
森を抜ける道中、モンスターに襲われることはなかった。
僅か一月強の期間だったが、晶たちはシルヴァの訓練を受けた。
その成果か、晶たち三人は以前よりも、
モンスターの気配を敏感に感じ取れるようになっていた。
——怯えている。
この森のモンスターは、こちらのメンバーに怯えていた。
誰に怯えているのか。
言うまでもない。
ロイたち三人とシルヴァ。
その四人にだろう。
モンスターの気配を強く感じ取れるようになったということは、
当然ロイ達の強さも、以前よりもはっきりと感じられるようになったということだ。
ロイたちは今、モンスターを威圧するためか、普段よりも“力”を表に出している。
その威圧は、自分達に向けられている訳ではない。
なのにも関わらず、紫音は冷や汗を流していた。
晶たち三人の中で、紫音が最も感覚が鋭い。
その紫音には、晶と柚葉以上にハッキリと分かるのだろう。
(これでまだ本気じゃないのか。
トリニティ・レギオン……語り継がれるだけの事はあるってことかよ)
紫音の背中に、再び冷や汗が流れる。
以前ロイたちの戦いを見た時も驚いたが、まだまだ甘かったようだ。
一度もモンスターと戦闘をしなかったためだろう。
森を抜けるまでに、さほど時間は必要としなかった。
問題はここから魔族領までの距離。
その距離を、晶たち三人は知らない。
晶はそもそも、魔族領まで行ったことがない。
紫音と柚葉は一度行ったことがあるが、転移魔法陣を使用したために距離は分からない。
時刻はもはや夕方。
柚葉がロイたちに問いかける。
「ここから魔族領まで、どのくらいの距離なんですか?」
あまり遠いようだと、間に合わないかも知れない。
そうでなくても、移動だけで体力を消耗し過ぎるだろう。
柚葉が漏らした疑問に答えたのは、オラクルだった。
「ここから徒歩で行くのなら、寝る時間を削っても数日はかかる」
その言葉に、晶たちは焦りを覚える。
過激派の詳しい戦力は不明だが、ヴァルドランの話から察するに穏健派よりは上。
数日などかけてはいられない。
晶たちの表情から察したのか、リュミナが口を開いた。
「大丈夫だよ!このまま魔族領まで行くわけないから」
リュミナの言葉に、晶たちは表情を疑問で曇らせる。
「あの、リュミナさん。魔族領に行かないって……?」
呟かれた晶の言葉に、今度はオラクルが答える。
「我々がこれから向かうのは、エルサリオンだ」
晶たち三人の心臓が、ドキリと跳ねる。
エルサリオン。そこに行くと言ったのだ。
今エルサリオンがどうなっているかは、オラクル達の報告で知ってはいる。
——王たちの解放。
今のエルサリオンには、洗脳されている者はいない。
そして、セレフィーネも姿を消している。
これまでのことを考えると、正に奇跡のような状況だ。
——しかし。
晶たちは複雑な感情を抱いていた。
まず一つ。
魔族領に行くのに、なぜ正反対のエルサリオンへと向かうのか。
二つ目。
晶たちにとっては、とても大切な想い。
——一真はどうなったのか。
エルサリオン解放の情報を聞いた時、三人は喜ぶと共に一真の事を問いかけた。
しかしオラクルからもリュミナからも、満足のいく答えは返ってこない。
それ以降も、何度か定期報告の際に聞いてみたが、いつもはぐらかされてきた。
一つ教えてくれたのは、一真は今エルサリオンにいるということだけ。
なぜそれしか教えてくれないのか疑問に思いながらも、三人はぐっと堪えて修行を続けてきた。
だがこれから、その一真のいるエルサリオンへと向かう。
なぜエルサリオンなのか、理由は分からない。
理由は分からないが、その事を思うだけで鼓動が収まってくれない。
(あ……ボクまた……)
(くそっ……静まれ、静まれよ!……何でオレは……)
(ああ……何度も決意してるのに……私たちが支えたいって……)
何度決意しても。
何度頼ってほしいと強く思っても。
——きっと自分達は——一真に会ったら甘えてしまう。
だってこんなに恋しいのだ。
だってこんなにも愛おしいのだ。
時間が経てば、気持ちは落ち着くなんてきっと嘘。
だって——想いは大きくなるばかりなのだから。
三人が必死に鼓動を抑えようとしている様子を見て、
オラクルとリュミナは更に複雑な表情になる。
今まではどうにか誤魔化してきた。
だが、これからはそうもいかない。
エルサリオンに着けば、否が応でも分かってしまうのだ。
場の空気を動かすように、オルディンが口を開いた。
「まあ、詳しいことはよう分からんが、何か考えがあるんじゃろう」
そう言って、オラクルとリュミナに視線を向ける。
「とりあえず、エルサリオンへと向かうという事で構わん。
……道中、色々と説明してくれるんじゃろうな?」
オルディンの言葉で覚悟を決めたのか、オラクルとリュミナは頷いて歩き出した。
「ああ。分かった」
オラクルの短い声を合図に、一行はエルサリオンへと歩き出す。
◇
一行は速度を早めながら、エルサリオンへと急ぐ。
歩きながら情報を交換して。
会話の僅かな途切れ目に、リュミナが晶へと声を掛ける。
「えっと……晶くん」
「はい、なんですか?」
晶の返事を受け、リュミナは瞳を潤ませながら言葉を続ける。
「繰り返しになっちゃうけど、本当にオラクルお姉ちゃんを助けてくれてありがとう!」
リュミナの言葉に続くように、オラクルも言葉を紡ぐ。
「晶、私からも感謝を。リュミナを助けてくれて、本当に有難う」
二人の言葉を受け、晶は頬を赤くする。
「そ、そんなにかしこまらないでください。
何度もお礼は言ってもらいましたから」
そう。オラクルとリュミナは、晶に救われたと知ってから、何度も礼を繰り返してきた。
晶は気にしなくていいと言うが、それでも二人は繰り返し礼を告げる。
それだけ二人にとって、お互いが大切な存在なのだろう。
このままではきりが無いと、ロイが口を挟む。
「オラクル、リュミナちゃん、もうその辺りで」
言葉の後を引き継ぐように、シルヴァが二人に問いかける。
「さて、そろそろいいだろう。……一真はどうなっているんだ?
お前たちの様子から察するに、あまり良い状態とは言えないのだろう?」
晶たちは、冷たい手で心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚える。
——考えなかった訳じゃない。
何度一真のことを聞いても、はぐらかされる。
一真が無事なら、そんな事をする必要はないはずだ。
一真自身が何らかの考えを持って、言うなと指示を出していたとしても、
もっと違う態度をとるだろう。
オラクルは観念したのか、晶たちを順に見て口を開いた。
「……三人とも、落ち着いて聞くんだ」
一呼吸置く。
「一真はこの一月強の間……目覚めていない。
……昏睡状態だ」
その言葉は、三人の心を鋭く切り裂いた。
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