第262撃:トリニティ・レギオン集結
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ファレナを抱え、自らの居城へと飛んでいくグラウザーン。
そのグラウザーンに並行するように、一人の部下が飛んできた。
「グラウザーン様、穏健派の者たちを三割程“処理”いたしました。
こちらの被害は、兵が一割ほど。……いかが致しましょう?」
部下の報告を聞き、反応を見せたのはファレナだった。
戦争が始まって、まだそれ程時間は経っていない。
なのにも関わらず、それ程の死者が出ている。
——胸が締め付けられる。
穏健派のみんなは、とても穏やかな者たちだった。
魔族領において、たった一人の人間であるファレナ。
だが彼らは、そんなファレナを差別したりはしなかった。
まるで、昔からずっと共にいるような。
気心の知れた相手のような。
そんな接し方をファレナにしてくれたのだ。
——その者たちが……死んだ。
あの者たちの内の……誰が……。
ファレナが必死に涙をこらえていると、
グラウザーンが信じられないことを口にする。
「予定は変わらん。鏖殺しろ」
その言葉にファレナは目を剥き、声を張り上げる。
「なっ!?どういうことですか、グラウザーン!
兵を退くという約束ですっ!」
アリステリアとヴァルドランの安全。
そして兵を撤退させること。
それが、ファレナが提示した条件。
そのために自分は、グラウザーンの手に落ちたのだ。
なのに——
「約束が違います!兵の撤退をっ!」
暴れるファレナ。
グラウザーンは眉一つ動かすこと無く、ファレナに微弱な魔力を流し込んだ。
「少し黙れ」
『バチッ!』
「あぅ!?」
意識を失い、沈黙するファレナ。
その一連の成り行きを見た部下は、額に冷たい汗を流す。
だいぶ前からグラウザーンは変わった。
だがこの進軍を決めた辺りから、更に冷たく……恐ろしくなった気がする。
行動に移ろうとしない部下に、グラウザーンは再度命令を下そうとした。
だがその時、グラウザーンの頭に鋭い痛みが走る。
「……っ!」
「“しつこい奴”だ。まだ消えていなかったか」
唐突に呟かれたグラウザーンの言葉に、部下が恐る恐る問いかける。
「グ、グラウザーン様……一体?」
グラウザーンは頭を振り、穏健派の根絶やしを命じようと口を開く。
——しかし、その口から出てきた言葉は別のものだった。
「……幹部数人とアビス・ケイルの囚人を残し、残りの兵は撤退させろ。
その者たちにも、頃合いを見て撤退しろと伝えておけ」
グラウザーンの新たな命を聞き、部下は明らかにホッとした表情を浮かべた。
これなら穏健派も、全滅を免れるかも知れない。
本心を言うと、此度の進軍は気が進まなかったのだ。
グラウザーンがなぜ、急に心変わりしたのかは分からない。
部下はグラウザーンの気が変わる前に、速やかに行動へと移っていった。
部下の気配が遠ざかるのを感じながら、グラウザーンは忌々しげに小さく呟いた。
「……いい加減に抗うな。諦めて闇に沈め」
誰一人聞くものがいないその声は、景色とともに後方へと置き去りにされた。
◆ ◇ ◆
アリステリアは涙を拭いながら、よろめき立ち上がる。
そのままヴァルドランの元へと近づくと、彼を抱き起こす。
既に彼は、意識を失っていた。
「ヴァルドラン……しっかりして。死んでは駄目……」
アリステリアはヴァルドランをしっかりと抱きしめると、空へと飛び上がる。
目指す先は、エルサリオン王国。
本当なら、ファレナを取り戻しに行きたい。
仲間を助けに行きたい。
——それをするわけにはいかない。
アリステリアは、できる限りヴァルドランに負担がかからないように飛ばす。
急がなければならない。このままだと、ヴァルドランは命を落とす。
アリステリアはポーションを持っていない。
現状穏健派には、ポーションの数に余裕はないのだ。
魔族領の多くのポーションは、過激派が集めてしまっている。
そもそも仮に手持ちがあったとしても、ヴァルドランの怪我はハイポーションでも治せない。
上質のマスターポーションが必要だ。
しかし穏健派が持っていたのは、ヴァルドランが所持していた一つのみ。
それは、アリステリア自身が使ってしまった。
激しい自責の念が浮かび上がる。
その感情に無理やり蓋をして、アリステリアは飛ばす。
バルト王の協力が得られることを願って。
エルサリオンに——マスターポーションがあることを願って。
◆ ◇ ◆
晶達は、翠霊郷の外へと出ていた。
魔族領に向かい、穏健派の力になるために。
この判断を行ったのは、紫音と柚葉だった。
二人は穏健派が、心優しき者たちであることを知っている。
故に戦争が起こったと聞いた時、居ても立ってもいられなくなったのだ。
二人は最初、自分たちだけで向かうと提案した。
これは自分たちの我儘であると。
晶やシルヴァに、迷惑は掛けられないと。
だが晶もシルヴァも、首を縦には振らなかった。
当然だろう。
そんなものは、二人を死地へと送り込むに等しい。
この僅か一月少々で、晶たち三人は驚くほど強くなった。
今や紫音も柚葉も、スキルに頼らずともかなりの戦いができる。
しかし本当に凄いのは、晶だった。
晶は見ている方が心配になるほど、必死になって自らを鍛えた。
足手まといになりたくないと。
少しでもいいから、みんなの力になりたいと。
結果として晶は、アーツとして魔法を使えるまでになったのだ。
普通なら、年単位の修練を必要とするはずなのに、だ。
驚きだったのは、晶が回復魔法が使えるということ。
どういう訳か、魔法を習得した晶には、回復魔法が使えることが分かった。
一度試しに回復魔法を使ってみたところ、
エルフェリーナの力を直接使うよりも、肉体の女性化が起きにくかったのだ。
これには晶は喜んだ。
みんなの役に立てると。
今の晶たち三人ならば、帰らずの森でも生き残ることが出来るかも知れない。
——紫音と柚葉が、スキルを使えばの話だが。
短期間でこれほどまでの成長。
これにはシルヴァも舌を巻いた。
シルヴァの見立てでは、ここまで来るのに早くても半年以上はかかると踏んでいたからだ。
——だが。
だからといって、紫音と柚葉の二人だけで行かせる訳にはいかない。
四人はしばらく問答を繰り返した結果、全員で行くこととなったのだ。
翠霊郷の外に出た四人だが、そこで驚きの事態が起きる。
行方知れずだったロイとオルディンが、このタイミングで帰ってきたのだ。
それだけではない。
偵察から戻ってきた、オラクルとリュミナも合流した。
最初はみんな、驚きを顕にした。
翠霊郷に潜んでいるはずの晶たちが外に出ていたのだ。当然だろう。
だが事情を説明したところ、不承不承ながら全員協力してくれることになった。
「子供たちだけに、危険な真似はさせられないさ」
「全くお主たちは、呆れてものも言えんわい」
「久しぶりに会ったと思ったら、なんとも無茶をする」
口々に苦言を漏らすロイたち三人。
だがその顔には、嬉しそうな色が浮かんでいた。
危険ではあるが、異世界の住人である晶たちが、
この世界の住人のことを考えてくれているのが嬉しいのだ。
全員で装備を確認する。
——不足なし。
「では早速向かうとしようか」
ロイはそう言って、オラクルとオルディンに視線を向ける。
「二人とも、覚悟は良いか?」
「ああっ!」
「無論じゃ!」
オラクルとオルディンに続くように、リュミナも声を上げる。
「私も忘れないでよぉ!
私だって戦えるんだからっ!」
その声を聞いて、ようやく全員の顔に笑みが灯る。
この局面において、ようやく運命は晶たちに少しだけ微笑んだ。
ここに、三騎当千——トリニティ・レギオンが集結した。
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