第260撃:0.5秒の奇跡と絶望
ブックマーク、高評価、本当に有難うございます!
嬉しいです(`;ω;´)
そしてここからは、最近恒例となってしまった謝罪を。
……またまた遅くなり、ごめんなさい!
ついでに、話も長く……。
——勇者召喚。
まさかのその提案に、二人は驚愕を隠しきれない。
それも当然だろう。
ファレナを逃がすというのは、彼女を守る事はもちろん、
勇者召喚をこれ以上使わせないためでもあるのだ。
万が一にでも、エルフェリーナの魂を宿すものが召喚されないように。
それはヴァルドランも、良く分かっているはずだ。
なのに召喚を使えという。
驚くなという方が無理があるだろう。
言葉の真意が分からずに沈黙しているアリステリアの代わりに、
ファレナがヴァルドランに問いかける。
「ヴァルドラン様、なぜ……でしょうか?」
ヴァルドランはすぐには答えず、窓へと近づき外を見る。
どうやら、気配を探っているようだ。
——説明の時間があるかの確認のために。
ヴァルドランは一つ頷くと、二人に向き直った。
まだ猶予はある。
二人を順に見やると、自らの考えを説明し始めるヴァルドラン。
「……もはや我々だけでは、グラウザーンを止めることは叶わないでしょう。
奴は……強すぎる。
このまま後手に回り続ければ、いずれはグラウザーンの思い通りになってしまう」
その言葉に、二人は視線を伏せる。
異を唱えることが出来ない。
グラウザーンは本当に強い。
荒くれ者の集まりである、アビス・ケイルの囚人。
その者たちが素直に従っているのは、グラウザーンが力尽くで抑え込んでいるのだろう。
ヴァルドランは、言葉を続ける。
「確かに女神の魂を宿す者の召喚という、懸念材料はあります。
だがそれは、このままグラウザーンに負けても変わらない。
……いや、敗れた後の方が、より危険です」
それも分かる。
今のグラウザーンは、躊躇なくファレナを使い潰すだろう。
女神の魂を宿す者を、引き当てるまで。
二人の沈黙を理解と受け取ったヴァルドランは、更に自らの考えを告げる。
「もう、異界の友に……地球の方々に頼るしか無い」
それがどれほど、手前勝手な理由であろうとも。
——勝手な理由だ。
分かっている。
承諾も無くいきなり呼び出され、無理やり力を付与され……戦いに利用される。
召喚される者からすれば、たまったものでは無いだろう。
恨まれても文句は言えない。
どの様な誹りを受けても、言い返せない。
だけど。
それでも。
もう他に……方法がないのだ。
エルフェリアには、もはや余力が残されていない。
この千年で、何度も行われてきた勇者召喚。
その裏には常に、強大な邪神の眷属の影があった。
——稀に現れるのだ。
“本当に”世界が危機に瀕した時、文字通り世界を救うような力を持った勇者が。
あるいは、数百年前に一度召喚された、“癒やしの力”を持った勇者。
あるいは、強大過ぎる邪神の眷属を打ち破った、光の勇者。
滅びに瀕するような危機が、この世界には何度もあった。
それなのに今のエルフェリアの民たちは、千年前とは違い力を合わせようとしない。
もちろん“個”としての交流なら、種の垣根を越えて紡いできた者たちはいる。
だがそれが“種”としての交流となれば、まだまだ溝が深いと言わざるを得ない。
魔族の領域で危機が訪れたのなら、魔族だけの力で。
ドワーフの領域でなら、ドワーフだけで。
エルフならエルフ。
それぞれ個別に対応してきた。
そんな中で、人間は勇者に頼ってきた。
——人間は“弱い”。
他の種族と比較しても、種としては脆弱だ。
千年前と違い、他の種族に頼れない人間が縋れるのは、他の世界の人間しかいなかったのだ。
二代前の魔王であるマグナ=ゼラシアの時代から、人間との和平を模索してきたのには、
人間を救い、異世界の者たちに迷惑を掛けずに済むようにとの思いも含まれていた。
——だが。
だが、ヴァルドランは思う。
何故か思うのだ。
今、勇者召喚を行う“必要”があると。
天城紫音と千歳柚葉という二人の勇者に出会ってから、
“この世界”が、外へと助けを求めているように感じられていた。
邪神が封印されてから千年。
今、この世界の運命は——大きく動き出そうとしている。
それが滅びの運命か……はたまた救いの運命なのかは、ヴァルドランにも分からないが。
それを救いの運命として引き寄せるのならば、勇者の力を借りる必要がある。
ヴァルドランの言葉には、そんな思いが込められていた。
ヴァルドランの考えを聞いた二人は、不思議とその考えが理解できた。
これ以上勇者召喚を使ってはいけないという思いと、今こそ使う必要があるという思い。
その相反する二つの感情。
ヴァルドランが言葉にすることにより、二人もそれをハッキリと自覚する。
事態はもう、魔族だけの問題ではない。
グラウザーンだけを問題としているわけではない。
——もう、種で争っている場合ではないのだ。
——世界が救いを求めている——
そしてその救いは、今の状態では“足りない”。
アリステリアとファレナは、互いに視線を交わして頷き合う。
そしてヴァルドランに向き直ると、ファレナが口を開く。
「……分かりました。ヴァルドラン様。
エルサリオンへと戻ったら、皆に説明して召喚術を行います」
その言葉に続くように、アリステリアも口を開いた。
「ヴァルドラン。
私はこれから、ファレナとエルサリオンに向かいます。
後を、頼みます」
後を頼む。
この状態においてその言葉は……命を捨てろという言葉に他ならない。
それでもヴァルドランは、顔に笑みを浮かべて答えた。
ただ一言短く「おまかせを」……と。
三人は頷き合い、行動を開始する。
荷物は最低限。
エルサリオンまで持てばいい。
敵の数は多く、凶悪な者も多い。
それでも穏健派の者たちは、アリステリアを守るために命を懸けている。
特にグラウザーンの足止めには、穏健派でも実力者である者たちがあたってくれているらしい。
三人は城の外へと出ると、辺りを警戒する。
——大丈夫だ。まだ敵はここまでは来ていない。
「ではアリステリア様、ファレナ姫、どうかご無事で」
アリステリアはヴァルドランの言葉を受けて頷くと、ファレナを抱えて飛行魔法を使おうとする。
エルサリオンまではかなりの距離があるが、
アリステリアならファレナを抱えてでも、日を跨ぐこと無く辿り着けるだろう。
最後に一言、自らの兄のような存在であるヴァルドランに、声を掛けようと振り向いたその時。
——ソレは高速で近付いてきた。
「「!?」」
アリステリアとヴァルドランは、即座にその魔力と気配に気づく。
自分たちがよく知る魔力の持ち主。
『ゴォォォォォ——ズザァ!』
空から舞い降り、地を滑るように現れた男。
アリステリアと同じ、燃えるような赤い髪を持った偉丈夫。
黒炎公・グラウザーン=ゼラシア。
黒き焔の魔力を纏い、その男はアリステリアの前へと立った。
「アリステリアよ……何処に行くつもりだ?」
——速すぎる。
二人が存在に気付ける距離に入った直後に、グラウザーンは目の前に降り立ったのだ。
アリステリアが震える声で、グラウザーンに問いかける。
「おじ、さま……なぜ……ここへ……」
グラウザーンの足止めをしていたのは、穏健派でも指折りの実力者たち。
みな、命を捨てる覚悟で足止めを買って出てくれた。
——なのに、グラウザーンは今ここにいる。
グラウザーンが低く重い声を漏らす。
「なぜ?」
「“羽虫”を払って、俺はここに来た。
それに何か疑問があるのか?」
本当に何でもないような様子で、グラウザーンはそう言い放った。
アリステリアの血が冷えていく。
そして次の瞬間には、その血が逆流したような錯覚に襲われる。
「グラウザァァァァンっ!!貴様はっ!!」
目の前が真っ赤に染まり、冷静さなど保てない。
この男は、自分の大切な仲間を羽虫と呼んだのだ。
許せるわけがない。
アリステリアはファレナを下ろし、グラウザーンに殴りかかろうとする。
——だが次の瞬間。
ヴァルドランの声が、アリステリアの頭を冷やさせた。
「王域結界・緩衝展開!」
ヴァルドランから魔力が迸る。
「ロイヤル——ディレイフィールドっ!!」
ヴァルドランの力ある言葉とともに、“それ”は発動された。
彼のオリジナル魔法。
時空間に干渉して、自らが敵と認識した相手だけを“遅延”させる魔法。
時間にしては、僅か0.5秒。
されど生死を分ける、0.5秒の時間の歪。
本来時空間魔法は、直接生物に掛けることは出来ない。
それは、攻撃としては使用できないように“決められている”のだ。
だが抜け道はある。
“攻撃”に使わなければ良いのだ。
時空間魔法で直接攻撃をしなければ、それは人間にも使うことが出来る。
針の穴を通すような、ギリギリの制御。
世界を欺く、奇跡の魔法構築。
ヴァルドランは、転移魔法やマジックバッグに使われている魔法を解析、応用して、
長年を掛けてこの魔法を作り出した。
——世界の時間が歪む——
「アリステリア様!早く離脱を!」
そう言うとヴァルドランは、腰の黒剣を抜き放ってグラウザーンへと斬り掛かった。
「うぉぉぉぉぉっ!魔装剣・収束斬!!」
魔力を一点に集中する斬撃。
結界の中でのみその威力を増す、ヴァルドランの切り札。
その一撃は、ドラゴン種すらも斬り裂く威力を持っている。
……しかし。
グラウザーンは“問題なく”動いた。
遅延効果が——効かない。
右手の手刀に、黒炎の魔力を纏わせて振るう。
「黒炎覇断」
グラウザーンが放った一撃は、ヴァルドランが振るった黒剣——
ガル=ヴァルド作の業物を——容易く“焼き斬った”。
そしてその一撃は止まらない。
『ジュ!……ジジッ……ボトッ』
魔力による強化と魔法による強化。
二重に強化を施してあったはずのヴァルドランの右腕が——肩から地面に落ちた。
「ぐぉぉぉあぁぁぁっ!」
ヴァルドランの苦悶の悲鳴が響き渡る。
アリステリアもファレナも、ただただ目の前の光景が信じられなかった。
「ヴァルド……ラン?」
アリステリアの口から零れた言葉が、虚しく戦場に溶けて消える。
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