第255撃:止められた刃
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元気をもらえます!
またベラボーに遅くなりました(`;ω;´)
そして長く……
一真はエルサリオン王城内の、医務室へと運び込まれた。
しかしこの世界の医療技術は、さほど高くはない。
地球に比べてもともと、文明レベルがさほど高いわけではないというのが一つ。
高級品とは言え、ポーションという薬品が流通しているというのが一つ。
それ故にエルサリオンでは、地球のような医療革命などは起きなかったのだ。
便利さゆえへの弊害。
緊急で呼ばれた医者は、一真を見て顔を青ざめさせる。
「っあ……」
医者の様子を見た城兵が、唾を飲みながら問いかける。
「せ、先生、この人は大丈夫なのか?」
医者は首を、縦にも横にも振れなかった。
自分でも分からないから。
常人なら、とっくに命を落としているだろう。
今こうして、息があることが奇跡。
一真の怪我は、そういう類のものだった。
「わ……からん。
だが、出来るだけの事はしてみよう。
君達は外へ出ていなさい」
この場に残っても、自分達に出来ることはない。
それが分かっている城兵達は、素直に医者に従う。
自分達が運んできた男。
召喚勇者である、草薙一真。
みなあれから、王による詳しい説明を受けた。
自分達が洗脳を受けている間に、どれだけの勇者を召喚したのか。
そしてその数は、そのまま死んだ勇者の数とほぼ同じ。
例外と言えば水無瀬晶、天城紫音、千歳柚葉の三人。
そして今しがた自分たちで運んできた、草薙一真という男だけだ。
その例外の内の一人も、例外ではなくなってしまうかもしれないが。
——出来ることなら助かってほしい。
草薙一真という男。
そしてかの有名なトリニティ・レギオンのオラクル、その義理の妹のリュミナ。
この三人の活躍がなければ、自分たちは未だに洗脳を受けていたままだっただろう。
いつ使い捨てられて、命を落としていたかも分からない。
自分たちにとっては恩人だ。
ふと、一人の女性城兵が言葉を漏らす。
「あのさ……相談があるんだけど」
「相談?」
「なんだよ、いきなり」
他の兵たちが耳を傾けてくれたのを確認して、女性は言葉を続ける。
————
結論から述べれば、一真は助かった。
幾つかの理由により。
まず、一真自身の生命力。
これがあまりにも、驚くべきものだったのだ。
医者は最初一真を見た時、
助かるかどうかは7・3程の確率で危険のほうが大きいと見ていた。
だが実際には、驚くべき回復力で状況を覆した。
昔の召喚勇者が伝えたとされる医療技術、医者はそれを心得てはいた。
この世界にも実は、手術や輸血などは存在するのだ。
だが一真という男は、それらの使用を必要としなかった。
骨折治療のために与えたミドルポーション数本。
それ以外は点滴のみ。
ただそれだけの治療で、一真は山を越えた。
もちろん、命の危険はないと言うだけで、暫くは要安静だが。
医者が驚いたのは、その回復力だけではない。
一瞬医者は、一真が本当に人間かどうかすら疑ったのだ。
呼吸のしかた、内臓の働き、筋肉の脈動。
それら全てが、医者が知る人のものとは違っていた。
次に一真の技。
これは医者にも知りようもないことだが、一真は神甲天衣を使い続けた。
それが一真のダメージを大きく減らしたのだ。
三つ目は臥竜崩拳。
その一撃の威力が、グラウザーンの攻撃威力を大幅に削った。
そして最後——ポーションだ。
最初は城に常備してあったポーションを使おうとした。
しかし今のエルサリオン王城には、ポーションのストックが無かった。
セレフィーネが全て、グラウザーンの元へと送っていたからだ。
そこで城の者たちは、少しずつお金を出し合って数本のミドルポーションを購入した
王も含めてである。
せめてもの恩返しとして。
助かってほしいという思いを込めて。
この城の者たちにとって、この様な考えは決して特別なものではない。
自然とそういう選択をする者たちなのだ。
これが、エルサリオンの本当の姿。
ロイが愛した、在りし日のエルサリオン城。
みんな交代で、眠る一真の様子を見に来ている。
早く目覚めて欲しいと言う願いを込めて。
◆ ◇ ◆
セレフィーネの怪我は、かなりの重症だった。
放っておけば、命を落としてしまうであろう程。
グラウザーンは自らの城にセレフィーネを連れ帰ると、
部下に命じてセレフィーネにポーションを与えた。
マスターポーションを惜しみなく。
その甲斐あってか、セレフィーネは無事に回復へと向かった。
しかしセレフィーネの顔色は、まるで死人のように悪いものだった。
グラウザーンに会いに行けない。
グラウザーンの顔を見られない。
自分が一体何をしてしまったのか。
どれだけ取り返しがつかないことになったのか
その事実がセレフィーネを苛む。
(わ、私はなんてことを……)
ガーラの死を知り、暴走した。
よりにもよって、ヴェイルを解き放った。
それだけではない。
グラウザーンの目的のためには、まだバルト王は必要だったのだ。
なのにも関わらず、エルサリオン城の奪還を敵に許した。
これにより、グラウザーンの目的を叶えるための道が狭まった。
しかもあろうことか、自分はグラウザーンの手を煩わせて、
おめおめと生き残ったのだ。
魔王派——穏健派との睨み合いの最中に。
身が千切れるような自責が、セレフィーネの心を焦がす。
一年以上ぶりの、自らの部屋。
懐かしく感じるはずのその部屋は、まるで他人の部屋のようだ。
地面にへたり込み、立ち上がることすら出来ない。
それ程にセレフィーネにとっては、グラウザーンの邪魔をしたことが耐え難かった。
たとえグラウザーンが変わってしまったとしても、自らにとってグラウザーンは全てなのだから——
◆ ◇ ◆
幼い頃セレフィーネは、ガーラと同じようにスラムで育った。
その頃のセレフィーネは弱かった。
戦う力も持たず、ユニークスキルにも目覚めていなかったのだ。
セレフィーネは気づいたときには共にいた、幼馴染のヴェイルの後をピッタリとついて回る女の子だった。
その頃から、ヴェイルは既に強かった。
怖いスラムでも、ヴェイルの傍なら恐さが和らいだ。
だが、そんな日々も終わりを告げる。
ヴェイルの心が、どんどんと変わっていったために。
いや……変わったわけではないのだろう。
“隠さなくなった”。
憧れていた姉のような存在は、いつしかスラム以上の恐怖へと変わっていた。
何故ならば、ヴェイルはユニークスキルに目覚めたのを機に、
自らの姿を捨て去ったのだ。
セレフィーネから見れば憧れの強さであっても、ヴェイルにとっては不満だったのだろう。
人の姿を奪い、更に強い肉体に乗り換える。
そうして、誰かを蹂躙することに喜びを見出す。
やがてセレフィーネは、ヴェイルと長い別れを迎えることとなる。
恐怖に耐えられなくなり、ヴェイルの元を離れたのだ。
ヴェイルは、いなくなったセレフィーネを探そうとはしなかった。
ヴェイルにとっては、自らの周りを彷徨っていた少女がいなくなったところで、
大して気にもならなかったのだろう。
たとえ物心つく頃から、共にいた相手であっても。
二人が再開するのは、それから十数年後のこととなるが、それはまた別の話だ。
セレフィーネはヴェイルと別れてから、地獄のような日々を送ることとなる。
スキルもない。
戦う力も持たない。
生来の性格ゆえか、スラムの子供が当たり前のように行っている、盗みも苦手だった。
無法のスラムにおいて、力も持たぬ少女が一人で生きていくという事がどういう事かは、
言うまでもないだろう。
それでもそれまでは、騙し騙しどうにか生きてきた。
だがある時、そんな生活すら音を立てて崩れ去った。
スラムの男に襲われそうになったのだ。
振り払おうとしても、相手はびくともしない。
逃げることすら許されない。
周りで見ていた大人たちは、下卑た笑いを浮かべるか無関心。
誰も手を差し伸べはしない。
セレフィーネの瞳から、光が消えていく。
そんな時だった。
燃えるような赤い髪を持った男が、セレフィーネを助けてくれたのだ。
薄暗いスラムで生きてきたセレフィーネには、その男はまるで太陽のように映った。
後に知ることになるが、その人物の名はグラウザーン=ゼラシア。
魔王の血族であった。
グラウザーンに救われたセレフィーネだが、最初は萎縮した。
自らにとって、大人とは恐怖の対象でしか無かったからだ。
この世は恐怖で溢れている。
セレフィーネにとって生きるということは、
恐怖にその身を晒し続けるという事と同義であった。
常に怯え、俯き続けるセレフィーネを見て、グラウザーンは悩んだ。
どうすればこの子は、心を開いてくれるのか。
ある日の事だ。
グラウザーンは一組の親子を目撃する。
幼い子供が、父親の髭を触って喜んでいる姿。
その様子を見たその日から、グラウザーンは髭を伸ばし始めた。
最初は周りから変だと言われたが、それでも伸ばし続けた。
しばらく忙しくて、セレフィーネに会えなかったグラウザーン。
久しぶりに再会したときには、口と顎には立派な髭が生え揃っていた。
セレフィーネは、最初はやはり萎縮していた。
だが、セレフィーネにも憧れがあったのだ。
父に甘えるという憧れが。
町を歩いた時に横目で見た、父に甘える自分と同い年ほどの子供。
その子を見たときの、羨ましいという感情がセレフィーネの背中を押す。
——さわさわ——ジョリジョリ——
恐る恐るグラウザーンの髭を触るセレフィーネ。
グラウザーンは嬉しそうに、そんなセレフィーネの頭を撫でる。
生まれてから今まで、一度も感じたことのない感情が胸に溢れる。
その時はまだ、名前すら知らない感情。
——涙が……流れた。
知らない涙。
辛い涙じゃない。痛い涙じゃない。
とっても——温かい涙。
その日からだろう。
グラウザーンが自分にとって、父のような存在になり始めたのは。
ゆっくりと、大人に対する恐怖も薄れていく。
グラウザーンの事が父のような存在から、一人の男として映り始めるまで……
さほど時間は必要なかった。
◆ ◇ ◆
セレフィーネはスクロールを取り出すと、しまい込んでいた一本の黒剣を取り出す。
ガーラの亡骸から回収された黒剣。
時空間魔法による、収納魔法。
その剣は、自らがガーラに与えた剣。
その剣を持たせて、死地へと送り出した。
セレフィーネは剣を逆さに構え、自らの胸に押し当てる。
もう——この命に意味はない。
グラウザーン様の妨げになってまで、惜しむ命はない。
セレフィーネは手に力を込めると、自らの胸を貫かんと剣を動かした。
「……申し訳ありませんでした……グラウザーン……さま」
『ザシュ!』
……ポタ……ポタ……
赤い血が床の絨毯を染め上げる。
“セレフィーネ”は驚愕に目を見開いた。
剣の刀身を、大きな手が握りしめていたのだ。
その手から血が滴り落ちる。
軋む首を動かして、後方に振り向く。
「あっ……あっ……グラウザーン……さまっ!」
セレフィーネの瞳に映るグラウザーンの目には、かつてのように優しさが灯っていた。
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