第254撃:魔王軍最強
最初に謝らせてください。
……過去一長くなっちゃいました!(`;ω;´)
短くまとめられなかったです……。
この話、過去一難産で……。
読みづらかったらごめんなさい。
ここは魔王軍過激派、グラウザーンの居城。
その謁見の間である。
グラウザーンは玉座に座り、肘掛けに左肘を置いて頬杖をついている。
右手には酒の入ったグラス。
謁見の間には、沈黙が重く横たわっていた。
みな、グラウザーンの放つ空気に、言葉を発することが出来ないのだ。
このしばらくで、あまりにも多くの変化があった。
それもグラウザーンにとっては、決して良いとは言えない変化だ。
特に信じられないのは、セレフィーネの暴走。
セレフィーネはグラウザーンにとって、最も信を置いている部下だ。
——部下?——
それがガーラという、いくらでも替えが利くたった一人の部下の死で、
あそこまで心を乱すとは。
——替えが利く?——
——まただ。この頃こういう事が増えた。
頭に靄のようなものが掛り、思考がぼやける。
言葉にできない苛立ちが募る。
ミシミシ——パリンッ!
グラウザーンの手の中で、グラスが音を立てて砕け散る。
ビクッ!
その場の者たちは、一瞬体を震わせる。
一人の女性魔族が慌てて駆け寄り、割れたグラスと零れた酒を片付ける。
その指先は震え、顔色は青ざめていた。
グラウザーンの苛立ちの理由は他にもある。
情報伝達の遅延。
偵察用使い魔の消失により、情報が来るのが遅い。
ヴェイルを取り押さえるために送り込んだ軍。
その軍の現状を知るのにも新たに人員を割き、斥候を放つという始末。
何度自分が直接行こうかと迷ったことか。
女性魔族がグラスを片付け終わった後は、再び静寂が訪れる。
耳が痛い程の静けさ。
——唐突に、沈黙が打ち破られる。
ギィ——バタン!
「グラウザーン様!」
ドアを開け放ち、謁見の間に飛び込んでくる一人の魔族。
その場の全員が、その人物に視線を向ける。
本来ならば、咎められるべき行動。
だがその人物の放った言葉が、その場の者たちに沈黙を継続させる。
「ア、アビス・ケイルの看守長から、緊急の伝令が来ました!」
息を呑む一同。
アビス・ケイルからの伝令。
このタイミングで来るということは。
——ヴェイル。
その人物のことしか無い。
沈黙に代わり緊張が場を支配する中、グラウザーンが静かに呟く。
「……通せ」
その言葉を合図に、一人の女性魔族が謁見の間に通される。
その人物は、ガーラの部下たちと問答を行っていた女性看守。
広間に通された女性の顔色は、酷く悪い。
女性は何かに怯えるように、グラウザーンの前まで来て跪く。
そのまま短く言葉を漏らした。
「グラウザーン様……無礼をお許しください」
「……ヴェイルの生命反応が……消失しました……っ!」
女性が口にした言葉は、喧騒を呼び戻すには十分過ぎるものだった。
「ヴェイルが死んだ……?」
「バカな……人格はともかく、あいつの強さは……」
「いやまて、まだ誰かにやられたと決まったわけじゃ……」
口々に疑念が呟かれる。
だがその場の誰一人として、ヴェイルの死という事実を否定しようとはしない。
信じられないという様子を見せるだけだ。
何故か?
ヴェイルには、特殊な魔法印が刻まれていた。
万が一ヴェイルが脱走でもした時、その行方を速やかに把握するために。
その魔法印は非常に強力なものであり、ヴェイル自身にも消すことは出来ない。
その印が解ける条件はただ一つ。
——ヴェイルの死である。
『ワタシが死ねば——グラウザーンはきっと動くよ』
ヴェイルが一真に残した最後の言葉。
それにはこういった意味もあったのだ。
印の管理をしていたのは、アビス・ケイルの看守長。
その人物からの伝令となると、ヴェイルの死は疑いようがない。
そして魔王軍にとってヴェイルの死とは、看過することの出来ない事実だった。
それは……グラウザーンにとっても例外ではない。
ヴェイルは人格は破綻していたが、その力は確かなものだ。
それが誰かに殺された可能性があるとするならば——
グラウザーンがゆっくりと立ち上がる。
その姿を見て、場に再び緊張が横たわった。
グラウザーンは近衛の一人に、静かに声を飛ばす。
「……俺が直接出る。
貴様達は、アリステリアの動向から注意を逸らすな」
その言葉を受け、みなが一斉に息を呑む。
よもやグラウザーンが、直接動くなどと。
だが誰も何も言えない。
グラウザーンの目を見てしまったから。
ただ、グラウザーンの命に頷くしか出来ない。
——なにか嫌な予感がする。
セレフィーネの暴走。
ヴェイルの死。
この短期間でこのようなことが起きるか?
ふとグラウザーンの頭に、
以前セレフィーネから届けられた報告内容が思い浮かぶ。
此度の召喚勇者の、不穏分子。
(確か……草薙一真と言ったか)
その報告の後に、空将ガズラの死も報告に上がってきた。
そして並のものなら発見すら難しいであろう、偵察用使い魔の消滅。
もしかすると、ガーラの死も無関係ではないのかもしれない。
グラウザーンは城を出ると、飛行魔法を発動する。
次の瞬間グラウザーンの姿は、城から見えないほどに遠ざかった。
とてつもない速度である。
その速度はセレフィーネよりも……そして現魔王アリステリアよりも速い。
どれ程の距離を飛んだのか。
グラウザーンは大地に、斥候として放った者達の姿を見る。
そのまま止まることなく追い越す。
それからさらに、暫く飛んだ後。
今度は地面に、戦闘跡のようなものを見つけた。
空中で止まり、地面を見下ろす。
戦闘跡と言っても、細かなものではない。
大きく抉れたような大地のへこみ。
まるで強大な一撃で、何かを吹き飛ばしたような跡。
あるのはそれだけ。
グラウザーンは、ヴェイルを抑えるために放った者たちを思い浮かべる。
「……」
証拠らしい証拠は見当たらない。
だがそれは、その者たちの“痕跡”である。
なぜかそう確信する。
グラウザーンはその場を後にしようとした——その時。
「むっ!」
これから向かおうとしている先、エルサリオン周辺で大きな魔力を感じる。
自らがよく知る者の魔力。
セレフィーネだ。
この先で戦っている。
しかも伝わってくる魔力の波長は——
(セレフィーネめ……あれを使っているのか……!)
精霊王断罪砲。
今まで数えるほどしか使ったことのない、セレフィーネの切り札。
負担が大きすぎる。
一歩間違えば、取り返しがつかない被害が出る。
故に使わない。
“使えない”。
それを使わざるを得ない相手。
意見は別れていたが、ヴェイルの死はセレフィーネの戦闘相手の仕業。
そう見て間違いないだろう。
グラウザーンはその場を後にして、再びセレフィーネの魔力がする方へと飛ぶ。
——
——
——見えた。
セレフィーネが倒れており、何者かが止めを刺そうとしている。
グラウザーンは、全速でその場に降り立った。
————
目の前の大男。
その人物を見てから、一真の冷や汗は止まらなかった。
ヴェイルは強かった。
セレフィーネは更に強い。
だがこの男は違う。
その威圧感は、かつて何度か見たことがある、
姫咲の本気の“それ”を彷彿とさせる。
姫咲と違うのは、彼女は決して一真に敵意や害意、殺意など向けることはなかった。
だがグラウザーンは、明確に敵意をぶつけて来ている。
このレベルの相手からの剥き出しの敵意。
それは一真をもってしても、初めての経験だった。
この場に立っているのが、一真ではなかったとしたら。
紫音や柚葉であったのなら——いや、オラクルのような歴戦の者であっても。
その心臓は、鼓動を刻むのを諦めてしまっていたかもしれない。
それほどの剛気。
(この男が……グラウザーン……)
果たして自分が、全快の時でも勝てたかどうか。
——だが、やるしかない。
逃げるという選択肢は、端から無い。
一真は体内で、無理やり仙気を練り始めた。
限界を超えた、封神拳の行使。
身体が悲鳴を上げる。
一真は肉体を制御し、痛覚を遮断した。
今は“必要ない”。
身体が思うように動かない。
仙気を流し、強制的に動かす。
神甲天衣、修羅天躯、静神封界。
三つの技の並列発動。
それを全力で行使する。
それを見た、グラウザーンの眉が動く。
(……こいつか。ヴェイルを殺した相手は)
確信。
目の前のこの男しかあり得ない。
得体のしれない力を纏っているが、それでも力は分かる。
目の前のこの人間は、自らの部下の誰よりも——強い。
(ヴェイルでもセレフィーネでも、勝てぬ訳だ)
グラウザーンは一真から目をそらさずに、セレフィーネへと声をかける。
「下がっていろ、セレフィーネ」
その言葉を聞いたセレフィーネは、何かを言いたげだったが、
言葉を飲み込み後方へと下がる。
グラウザーンは一言、一真へと声をかけてきた。
「名を聞いておこう」
セレフィーネが目を見開く。
グラウザーンが自ら名を聞くなど、久しく見なかった光景。
一真は短く、一言答えた。
「草薙……一真だ」
やはり草薙一真という男。
一真は練り上げた仙気を、拳に集中する。
腰を落とし、地面を足で掴む。
残された体力全てを使った、臥竜崩拳。
それに懸ける。
グラウザーンの纏う炎が——赤から黒へと変わる。
拳から黒炎の魔力が立ち上る。
睨み合う二人。
グラウザーンが静かに口を開いた。
「草薙一真。
どうやら貴様は、俺の目的には邪魔なようだ。
……死ね」
次の瞬間、“それ”は撃ち放たれた。
「魔皇砕拳!!」
黒い炎が拳に収束する。
グラウザーンの剛拳が一真に迫る。
それと同時に、一真も拳を撃ち出していた。
「はぁぁぁぁぁっ!
臥竜——崩拳!!」
一真とグラウザーンの拳が激突する。
圧縮される空気。
そして——轟音。
『ズガァァァァァァァァァァン!!!』
次の瞬間、衝突点の空間が歪んだ。
『グォン……ズドォン!!!』
グラウザーンの拳は、一真の拳を押し込みながら——
一真を吹き飛ばした。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
『ドカンッ!ズザザザザザア!』
かなりの距離を吹き飛ばされ、激しく地面に叩きつけられる一真。
暫く転がり、ようやく止まる。
濃蒼色の仙気がどんどん薄くなっていき、
やがて消える。
——動かない。
だが、グラウザーンには分かっていた。
死んでいない。
あの一撃に耐えたのだ。
(……危険だ)
(セレフィーネが、あの魔法を使った理由が分かった)
グラウザーンは、地面に横たわる一真へと近寄ろうとする。
止めを刺すために。
しかし、グラウザーンが数歩前に歩いた瞬間。
『ドサッ』
後方で何かが倒れる音。
グラウザーンが振り返ると、セレフィーネが倒れていた。
セレフィーネはグラウザーンの腕にしがみつくことにより、
どうにか立っていたのだ。
グラウザーンという支えを失った瞬間、
もはや自らの足で立つことすら出来なかった。
一瞬、グラウザーンの胸に焦燥が過る。
(む……う……っ!)
——何をしている!セレフィーネを助けろ!——
——早く草薙一真を殺せ——
頭の中で、2つの声が響いている気がした。
グラウザーンは頭を振り、一真へと近寄ろうとする。
何がなんでも、こいつは始末しなければならない。
今始末しなければ、後々取り返しがつかないことになる。
——俺は何を考えているんだ?
グラウザーンは振り返り、セレフィーネを見た。
動く様子のない、“大切な”女。
グラウザーンの頭が、激しく痛む。
「ぐっ!?……うぉぉっ!」
立ち止まり、頭を抑えるグラウザーン。
暫くその状態が続いていたが、やがて痛みは引いていく。
「……はぁはぁ」
グラウザーンは、セレフィーネと一真を交互に見やる。
そして。
——グラウザーンはセレフィーネへと近づき、彼女を抱き上げる。
そのまま背後の一真を見て、一言呟いた。
「……ふん。
放っておいても、長くはあるまい」
そう言って、グラウザーンは飛びだって行った。
————
グラウザーンが去ってから、それほど時間は経っていないだろう。
倒れ伏していた一真が、よろめきながら立ち上がる。
全身ボロボロ。
砕けた骨も、一箇所や二箇所ではない。
それでも一真は、生きていた。
ここでもまた、姫咲の教えが命を繋いだのだ。
——一真……生きて帰ってきてね——
一真はこの世界にいないはずの、姫咲の声が聞こえた気がした。
身体を引きずり、ゆっくりと歩き始める一真。
どれだけ歩いたのだろうか。
遠くから複数の人の声が聞こえてきた気がする。
しかし一真は、その声の主たちを確認できずに、地面へと倒れた。
「何だこりゃ!?
何があったらこんなに地形が変わるんだ!?」
「さっきから聞こえてきてた音は、これだったの?」
「おい!向こうに誰か倒れているぞ!
あれって、王が言っていた一真って人じゃ!?」
「た、た、大変だ……城に運ぶぞ!
ありったけのポーションを用意しろ!
医者も呼べ!」
そうして一真はエルサリオンの者たちによって、
城の医務室へと連れて行かれた。
宜しければ、ブックマークや評価をお願いします。
感想もいただけますと、とても嬉しいです。




