第249撃:武人
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そして、また遅くなってしまって申し訳ありません。
一真の瞳を直視した時、
ヴェイルは咄嗟に一真に左拳を叩き込もうとする。
何かを狙っての一撃ではない。
身体が勝手に動いた結果だ。
しかし、その手も一真に止められる。
両拳を一真に握られているヴェイル。
身動きが取れない。
それだけではない。
次第にヴェイルの拳が、嫌な軋みをあげ始める。
ミシミシ……。
ヴェイルは咄嗟に、蹴りを一真へと放つ。
離される両拳。
ヴェイルは即座に、一真から距離をとる。
(なんだ?なんだい?
この変化は一体……?)
先程までの相手とは、明らかに違う。
先程までの蒼い何かが、その密度を濃くしている。
(何かのスキル?)
いや、違う。
この身体に擬態したからこそ分かる。
この男は、スキルを何も持っていない。
……ならアーツは?
それならば、あり得るかもしれない。
ヴェイルはスキルはコピーできるが、アーツは無理だ。
自分が目の前の相手の使う“何か”を使えない以上、
相手のこれはアーツであると考えるしかない。
ヴェイルは必死に思考を巡らせる。
——ヴェイルは気づいていない。
先程から、自らの顔から笑みが消えていることに。
この様な状況で思考に耽ることも、
普段のヴェイルからは考えられないことであった。
それは、思い出してしまった感情から目を背けるため。
一真がヴェイルへと、ゆっくりと歩いてくる。
だが距離は縮まらない。
何故か?
ヴェイルは無意識に、後ずさりしていた。
金色に輝く一真の瞳が、ヴェイルを射抜く。
「どうした?なぜ逃げる?」
一真のその言葉で、ヴェイルは初めて後ずさりに気づく。
(!?)
(ワタシが逃げてる?)
ヴェイルは立ち止まり、笑い声を上げる。
「あはっ……アハハハハハッ……」
だがその声は何処か乾いた響きとなって、平野へと溶けていく。
ヴェイルは無理やり脚を前に出し、一真に向かって殴りかかる。
たっぷりの魔力を込めた、破壊の一撃を。
「私が逃げるわけないでしょ!
アハハハハッ♪」
轟音とともに、空気を切り裂いて一真へと迫る拳。
「封神拳・振岳拳」
静かに呟かれた言葉とともに、
一真の拳がヴェイルの拳と衝突する。
『ゴギッ!グシャ!』
拳が嫌な音を立てて、ヴェイルは吹き飛ばされる。
「————っ!!」
先程までは圧倒していたはずなのに、ヴェイルの一撃が一真に届かない。
ヴェイルは飛行魔法で制動すると、地面へと着地する。
慌てて一真を確認する。
変わらぬ速度で、ゆっくりと近づいてくる。
(先程から言っているホウシンケン?
それがこいつのアーツ?)
考えても分からない。
ヴェイルもオーラ闘法は使えるが、相手の纏う何かはオーラとは異質のものだ。
上手く感じ取れない。
——真似出来ない。
相手が使っている技は、再現不可能だ。
砕かれた左腕が痛む。
ポーションなど持ってはいない。
ヴェイルはいま、何が起こっているのか分からない。
本来擬態できないほどの、
規格外の肉体を手に入れたのに、なぜ急に通用しなくなった?
肉体の性能は全く同じ。
自分本来の力をそこに上乗せしている。
更に魔力による肉体強化もしている。
相手も不思議な力で自分を強化しているようだが、
それでも条件はこちらが上なはずだ。
ヴェイルは気付かない。
自らが“攻撃”魔法の詠唱を行っていることを。
無事な右の手に、魔力が集中していく。
そこで初めて気がつく。
自分が何をしようとしているのかに。
「……あれ?」
ヴェイルは自らの右の手のひらを見た。
そこでは、黒い魔力が渦巻いている。
「あれれ?ワタシ、今……」
自身の手で、相手を壊すことを歓びとするヴェイルが。
攻撃魔法を嫌いだと言ったヴェイルが。
今まさに、攻撃魔法に“頼ろう”としていた。
次の瞬間、ヴェイルは笑う。
「ま、いっか♪」
——魔法が——放たれる。
「ヴォイド・クラスター!」
ヴェイルは力ある言葉とともに、掌の魔力を撃ち放つ。
黒い魔力が無数に分裂して、一真の周囲を覆い尽くす。
その魔力球が、一斉に一真に襲いかかった。
『スドドドドドドドドドッ!!』
爆音を響かせて、大量の土煙を巻き起こす。
莫大なヴェイルの魔力が込められたその魔法は、
一真を跡形もなく消し飛ばす——はずだった。
一真は歩いてきた。
爆煙を裂くように、その姿を現す。
その身体に、新たな傷はついていない。
神甲天衣。
一真は先程から、守りの要たるその技を使っていた。
無傷ではない。
だが、重傷でもない。
ポーションに頼らずとも、自然回復を望める程度の傷。
先程からのヴェイルの攻撃が作り出した——成果である。
一真の様子を見て、ヴェイルは完全に固まる。
ヴェイルは確かに、一真の肉体を完全にコピーした。
自身で驚いたように、その肉体の性能は正に異常。
だが、それだけなのだ。
一真は長年の修行により、作り変えられた自らの身体を完全に制御している。
だがヴェイルは、ただ肉体を得たのみ。
仙気も練れないし、当然封神拳も使えない。
一真の肉体を得た“だけ”では——意味がないのだ。
しかしヴェイルにはそれが分からない。
多くの者の肉体に擬態し、本当の自分を捨ててきたヴェイルには。
気づいたら、固まるヴェイルの目の前に一真は立っていた。
一真の瞳に、僅かな怒りが宿る。
一真の言葉が静かに——しかしハッキリとヴェイルの耳に届く。
「貴様を許すつもりはない」
「——死ね」
次の瞬間一真は腰を落とし、練り上げた仙気を全身に込める。
踏み込んだ大地が陥没する。
上半身と下半身を逆へと捻る。
脚から腰。
腰から胸。
胸から肩。
そして腕を通り拳へ。
圧縮された仙気が撃ち放たれる。
「封神拳——臥竜崩拳!!!」
ヴェイルは攻撃が当たる瞬間、すべての力を防御に回した。
魔力による強化。
オーラによる強化。
防御魔法。
それらを全力で行う。
しかし一真の一撃は、それら全てを打ち砕き、ヴェイルの身体を穿った。
「ごがぁ!?」
濃青の仙気が爆ぜる轟音とともに、ヴェイルの身体は吹き飛ばされる。
凄まじい勢いで地面と水平に吹き飛んでいき、遥か遠くで地面を転がる。
ヴェイルの意識は、そこで一瞬途絶えた。
——どれほど意識を失っていたのかは分からない。
言葉にできない痛みによって、ヴェイルの意識は浮上する。
まぶたを開け、目に飛び込んできたのは……自らを見下ろす一真の顔。
そこでようやくヴェイルは気づく。
「ああ、ワタシは負けたのか」
ヴェイルの姿は、“本当の”自分のものへと戻っていた。
「そっか……ワタシは死ぬんだね……」
妙に高く響くその声を受けて、一真は短く言葉を返す。
「ああ」
一真の短い肯定を聞いて、ヴェイルはまた笑う。
だがその笑みは、今までとはどこか違ったものだった。
ヴェイルは笑みを崩さぬまま、一真へと最後の言葉を告げる。
「気をつけてね?一真くん」
「ワタシは魔王軍の厄介者だけどね……
これでも昔は、幹部なんてものをやらせてもらってたんだ」
「ワタシが死ねば——グラウザーンはきっと動くよ?」
そしてヴェイルは、心底残念そうに笑みを変える。
「あーあ……残念だなぁ」
「そんな楽しそうなこと、私も経験したか……った……」
その言葉を最後に、ヴェイルは笑ったまま息を引き取った。
ヴェイルの最後を見届けて、一真は神甲天衣と修羅天躯を解除する。
「……ふぅ」
かなりの体力を消耗した。
だがまだ、やらなければならない事がある。
一真は踵を返すと、城へと向かい歩き始める。
王の様子を確認するために。
——最後に一度振り返り、ヴェイルの姿を見ると、
一真は再び歩き出した。
次話から物語は新たなステージへと進みます。
これまで毎日投稿を続けてきましたが、今後はより良いお話をお届けするため、時折お休みをいただくこともあるかもしれません。
ですが、この物語は必ず完結させます。
これからも応援していただけると嬉しいです。




