第24撃:「封神拳の英雄、メニューに困る」
二人が料理店の扉をくぐると、店内は木造りの温もりと香ばしい香りに包まれていた。こぢんまりとした空間には、客の数も少なく、落ち着いた雰囲気が漂っている。
「いらっしゃいませ――」
カラン、と鈴の音とともに現れたのは、小さな女の子だった。栗色の髪を二つ結びにし、明るい瞳を輝かせながら顔を上げた彼女は、一真と晶を見た瞬間、ぱっと表情を明るくした。
「あっ!さっきのお姉ちゃんとおじさん!」
晶は目をぱちくりと瞬き、一真はぽんと手を打った。
「おお、君は……あのときの。怪我はなかったか?」
少女は元気よく首を縦に振る。
「うん!みなさんが守ってくれたから、全然平気だよ!」
そして今度はくるりと向きを変え、晶に向かってぺこりと頭を下げる。
「お姉ちゃん、さっきは庇ってくれてありがとうね!」
晶は頬を赤らめ、視線を泳がせながら言った。
「い、いや、ボクは……えっと……無事でよかった。でも……ボク、"お姉ちゃん"じゃなくて、"お兄ちゃん"かな……?」
その言葉に、少女の頭上に大きな疑問符が浮かんだようだった。
「……えぇ?ほんとに? でも声も優しいし、すっごく綺麗で……」
「ま、まあ……わかりにくいかもね……」晶は苦笑いを浮かべながら、小声で呟いた。
そんな和やかなやり取りの最中、奥から店の厨房を仕切っていた女性が現れた。エプロン姿で、手には布巾。どこか懐かしい雰囲気を持った女性だった。
「ナナ、あまりお客様に迷惑をかけてはだめよ?」
そう言ってから一真と晶に視線を向けた彼女の表情が、ぱっと変わる。
「あっ、あなた方は……!」
彼女の目は驚きと安堵に満ちていた。一真も思い出したように頷く。
「貴女はさっきの。怪我はもう大丈夫かい?」
女性は柔らかく微笑みながら、深く頭を下げた。
「はい。おかげさまで、もう痛みもありません。あのサラという方が、貴重なポーションをくださって……本当にありがとうございました。娘共々、命の恩人です」
彼女の言葉は真摯で、心の底からの感謝が滲んでいた。一真と晶は慌てて手を振り、恐縮したように笑う。
「頭を上げてくれ。助けが必要な人を見て、手を貸すのは当たり前のことさ…と言うより、原因は我々にあるしな」
晶も続けて「ボクなんて、何もしてませんから」と付け加えた。
ふと、一真は先ほどの言葉が気になった。
「……あの、ちょっと変なことを聞くけど、ポーションってそんなに貴重なものなのかい?俺、ちょっと田舎育ちなもんでね、そういうの疎くて」
女性は少し驚いたように眉を上げた。
「はい、とても貴重ですよ。材料の採取も難しいらしく、村に流通する量も限られています」
「なるほど……」
一真は顎に手を当て、さらに踏み込んだ質問を投げてみた。
「じゃあ、回復の魔法やスキルで治すって手は?」
その問いに、女性は首を傾げた。
「え?……いえ、私の知る限り、回復のスキルや魔法なんて存在しないと思いますが……。少なくとも、一般にはそう言われています」
一真はわずかに目を細めた。
頭の中で、いくつかの仮説が浮かんでは消えていった。
それを見ていた女性が、ふと思い出したように言った。
「もし詳しくお知りになりたいなら、アイテムショップのロイお爺さんに聞いてみては? あの方、昔は冒険者だったそうですし、知識も豊富です」
「ああ……なるほど。ありがとう。食事のあと、寄ってみるよ」
一真が礼を言うと、女性は柔らかく微笑み、二人をテーブル席へと案内してくれた。木のテーブルに、手入れの行き届いたグラスとメニューが並べられる。
「……ほう、まるで日本の小さな喫茶店みたいだな。落ち着いてて、いい雰囲気だ」
メニューを手に取り、一真と晶はそれぞれのページを開いた。
幸い、召喚時に付与された《自動翻訳》のギフトにより、記された文字は読める。だが――
「……読めるけど、料理のイメージが全然湧かん」
「ボクも……なんとなく雰囲気は分かるんですけど、『トロネ草の蒸し焼き』とか、『キルダ獣のレバー煮』とか……何だろう?」
二人は顔を見合わせて、困ったように苦笑した。
まさか、“世界最強の封神拳の使い手”が、異世界のメニューを前に迷子になるとは、誰が想像しただろうか。
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