第248撃:自分対自分
一真対ヴェイル戦。
楽しんでいただけていましたら、嬉しいです。
一真はゆっくりと、ヴェイルへ向けて歩いていく。
その瞳に慈悲はない。
だが僅かに気になることがあった。
目の前の相手は、ほとんど魔法を使っている素振りがない。
無論、自分が気づいていないだけかもしれないが。
一真は跪くヴェイルの前で立ち止まり、そのまま問いを落とす。
「貴様、先程から魔法をほとんど使っていないな。
どういうつもりだ?」
ヴェイルは呼吸を整えて、ゆっくりと立ち上がる。
そして愉快そうに笑うと、答えを返してきた。
「魔法?……ああ、攻撃魔法か。
ワタシは攻撃魔法はあまり好きじゃないんだ」
その顔は苦しそうなのに、どこがそれすらも楽しんでいるように見える。
「だって、攻撃魔法で相手を壊しちゃったらさ、
相手が壊れる瞬間が感じられないじゃないか」
——それは歪みというには、あまりにも醜悪なものだった。
ヴェイルにとっては自分以外の全てが、
楽しめるかどうかの対象でしか無いのだろう。
自分が楽しむためならば、喜んでいくらでも他者を蹂躙する。
自分より弱いものは、玩具にすぎない。
自分より強いものは、いかにその力を模倣して、新たな楽しみに繋げるかの道具。
それがヴェイルという存在。
物心ついた時から、そのように“あった”モノ。
人の姿を奪い続け、より強い力で自分を上書きする。
ヴェイルのユニークスキルである『仮面継承』は、
相手の姿形、身体能力を自らのものに出来る。
最後に擬態した相手の能力を、次に誰かに擬態するまで保持することすら可能。
そして相手に擬態した際に、
スキルを新たにコピーするかどうかすら、自分の任意で調整可能なのだ。
つまりは、気に入ったスキルを所持しつつ、より強い肉体に化けることが可能。
もはやヴェイルは、自分が何者なのかもわからない。
本当はどんな容姿だったのか。
自分が男だったのか、女だったのか。
名前すらも、本当のものかわからない。
何もわからない。
興味もない。
興味があるのは、自分が楽しむことだけ。
一真は、ボロボロになりながらも嗤うヴェイルを見て、仙気を練り始める。
この者は危険過ぎる。
地球でも何度か、この手の人物の相手をしたことがある。
決して相容れない存在。
改めて決意を固める。
こいつはここで、必ず倒す。
——油断はしていなかった。
警戒を続けていた。
それでも、次の瞬間にヴェイルがとった行動に、
一真は驚愕した。
「アハッ!アーハッハッハッ!」
いきなり高笑いを始めたかと思うと、次の瞬間——
「そぉれ!」
「!?」
ヴェイルが一真に抱きついてきたのだ。
咄嗟にヴェイルを弾き飛ばす一真。
「貴様、何のつもりだ?」
地面に倒れるヴェイル。
そのヴェイルが再び立ち上がったその時。
そこに——“ヴェイル”の姿はもうなかった。
一真の瞳に映るのは、もう一人の“自分自身”の姿。
「なに!」
ヴェイルは一真に、擬態したのだ。
しかしヴェイルは笑みを固め、一真に変わった自らの身体を見下ろし呆然とする。
「……なんだい……これ?」
異常だった。
その身体能力。
常軌を逸した鍛えられ方。
五感のすべて。
それらは、ヴェイルが知る人間のものでは断じてない。
異質と言う言葉すらも生温い、文字通り“作り変えられた”身体凶器。
そのあまりの変容に、ヴェイルは打ち震えた。
「なんで?……何でこの身体に擬態できた……?」
ヴェイルの『仮面継承』は、あまりにも隔絶した身体機能だと、模倣し切ることが出来ない。
セレフィーネと戦った時、セレフィーネに化けることが出来なかったのもそのためだ。
この人物の肉体は、セレフィーネをも上回っている。
なのにも関わらず、ヴェイルは一真に擬態できたのだ。
その異常事態にヴェイルは混乱した。
——それはヴェイル自身も知らないこと。
ヴェイルの仮面継承の本質。
“生まれ持っての身体能力”が、自分の処理限界を超える場合、
ヴェイルのスキルでは模倣しきれない。
生まれ持っての“ユニークスキル持ちの場合も”、模倣しきれない。
その場合、精々姿だけを真似るのみ。
しかし一真は体格にこそ恵まれているが、その実もとはただの人間。
その身体は、あくまでも訓練により作り上げられたものなのだ。
更にヴェイルは驚愕を重ねる。
「……?」
「君……スキルを何も……持っていない?」
さすがのヴェイルも混乱する。
あまりにもチグハグなそのあり方に、理解が追いつかない。
自分やセレフィーネに及ぶはずのない相手が、スキルもなしに自分を上回っていた。
ヴェイルは一真の顔を見る。
——ゾク。
一瞬……ほんの一瞬だけ、生まれてこの方感じたことのない感覚に襲われる。
だが次の瞬間、ヴェイルは自らの感情をこう結論付ける。
『未知の楽しみだ』
この身体に自らの力を上乗せすれば、セレフィーネにも勝てる。
ヴェイルは再び笑みを浮かべ、一真へと近づく。
「そう言えば、まだ君の名前を教えてもらってなかったよね?
……教えてくれる?
ワタシのものになる姿の、元の持ち主くらいは覚えておきたいからね」
嘘だ。
ヴェイルはこれまで、様々な相手の姿に成り代わってきた。
気にいった相手の名前は全て訪ねてきたが、誰一人覚えてはいない。
今回も一真を殺してこの姿を自らのものにしたら、そう遠くない内に忘れるだろう。
(理屈はよく分からないけど、この身体は気にったよ。
今日からワタシの“本当の”姿は、これでいい♪)
スキルがないのは不満だが、それ以上のものがある。
ヴェイルが一真と触れ合えるほどの距離に接近した時、
一真は名乗りを上げる。
「俺の名は一真だ。
覚える必要はない」
一真の仙気とヴェイルの魔力がぶつかり合う。
「そっか。カズマ君っていうんだね。
ありがとう、カズマくん。
この姿はワタシが貰うね。
だから今度こそ——君は壊れていいよ♪」
カズマは不敵な笑みを、ヴェイルは歓びの笑みを浮かべる。
睨み合うこと数秒。
二人とも同時に拳を打ち出した。
『ボグンッ!!』
凄まじい音が鳴り響き、弾き飛ばされたのは——一真。
先ほどとは逆の結果。
「むっ!」
宙に飛ばされた一真は仙気の足場を蹴って、ヴェイルへと肉薄する。
「はぁっ!」
一真の右拳の一撃。
しかしヴェイルは軽くしゃがんでそれを躱し、一真の腹部に拳をめり込ませる。
「ぐっ!」
身体がくの字に折れ曲がり、上空へと打ち上げられる一真。
すかさずヴェイルは飛び上がり、一真に強烈な蹴りを見舞い、一真を地面へと叩き落とす。
「それぇ!」
『ズドンッ!!』
轟音を立てて、地面へと叩きつけられる一真。
ヴェイルが地面へと降りてくる前に、素早く体勢を立て直す一真。
一真が構えをとると同時に、ヴェイルも降りてくる。
そして、拳と蹴りの応酬。
ヴェイルの魔力が込められた拳が一真の身体に突き刺さり、
一真の仙気が込められた蹴りがヴェイルを打ち据える。
だがその攻防は、明らかにヴェイルに分があった。
一真が一撃入れる間に、ヴェイルの攻撃は三発一真に当たる。
一真の身体能力に加え、ヴェイル自身の力。
そして魔力による身体強化も加わり、
今のヴェイルは過去類を見ないほどに、力が溢れるのを感じていた。
「ははっ……アハハハハハハハッ!
なんだこれは!何だ!なんだ!ナンダ!これはっ!
この力……君、本当に人間かい!?」
ヴェイルはどうにかなってしまいそうだった。
圧倒的な力により、目の前の強者を蹂躙している。
楽しい。
興奮する。
達してしまいそうだ。
ヴェイルは改めて実感する。
これこそが、自分が生まれてきた意味だ。
こうして誰かを蹂躙して、その者が壊れていくのを見ることこそが。
……ただ、興奮にどうにかなりそうなヴェイルだが、二つ不満点があった。
1つ目は、これほどまでにこちらが優勢なのに、
時折見える一真の眼光は——濁るどころか揺らいですらいなかった。
二つ目。
一真を殴っても蹴っても、どこか“感触”がおかしいのだ。
まるで、薄い膜一枚越しに殴っているような……そんな違和感。
(なんだ?
こんなに楽しいのに、この気持ちの悪い違和感)
ヴェイルはその違和感を払拭しようと、拳に魔力を込めて一真を撃ち抜こうとする。
「もういいや!壊れちゃおうかっ!!」
轟音を立てて一真に迫る、ヴェイルの右拳。
しかし。
『ガシッ』
その拳は、一真の左手によって止められていた。
「!?」
驚きに目を見開くヴェイル。
腕が……動かない。
押せども引けども、腕を動かせない。
(な、んだ?……なぜ急に)
その瞬間、ヴェイルは見た。
見てしまった。
——一真の目を。
ゾクッ!!!
再びヴェイルの背中に、得体のしれないナニカが走る。
違う。
これは未知の楽しみなんかじゃない。
——ああ——そうだ。
(ワタシはこれと同じ感覚を、かつて経験したじゃないか)
その昔、ヴェイルがグラウザーンに戦いを挑もうとした時。
その時に感じた感覚。
敢えて心の中から消し去った、あの感情。
——“恐怖”——
ヴェイルがソレを思い出した時、
一真の仙気が爆発した。
「封神拳——修羅天躯」
ヴェイルは一瞬、一真の瞳が金色に輝いた気がした。
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