第245撃:孤独と狂気
最近は謝ってばかりですね。
それでも……投稿遅くなってゴメンさなさい!(`;ω;´)
一真はエルサリオンに向かい歩く中、
背中の気配が遠ざかるのを感じる。
平野の静けさが、妙に耳に痛く感じた。
「ああ、そうか。
この世界に来て以降、完全に一人と言うのは今が初めてだったな」
妙に周りが、風通し良く感じる。
一真は苦笑を浮かべて歩を進める。
中国にいた頃は、多くの時間を一人で過ごした。
その時は、今のような“涼しさ”など感じることは無かったのだ。
思えば自分の隣には、常に誰かがいてくれていた気がする。
家族。叔母の綾女。姫咲。
この世界に来てからは、
晶。紫音。柚葉。
リュミナ。オラクル。
家族を失った後、綾女が母になってくれた。
綾女と死に別れた後の二十年程は、姫咲が傍にいてくれた。
中国にいた頃は寂しいこともあったが、
その気になれば姫咲に会えるという心の拠り所があった。
この世界に来てからは、ずっと晶が一緒だった。
紫音と柚葉も合流して、ルナリスとも出会えた。
他にも、多くの者たちと出会うことができた。
——孤独とは“毒”である。
心を蝕み、いずれは殺すこともある。
一真はそんな毒から、多くの者達に守ってもらっていたのかも知れない。
——今さっき晶たちと別れたばかりだというのに、
妙に周りが風通し良く感じる。
一真は怒っていた。
静かに……しかし強く。
紫音も柚葉も、リュミナもオラクルも。
みんな魔王軍に、その生命を脅かされた。
エルフェリーナの魂がその身に宿る以上、晶も危険を避け得まい。
一真は知っている。
孤独という毒が、どれほど心を壊すのかを。
一真は瞳を閉じた。
思い出されるのは、オラクルから聞いたヴェイルの特徴。
戦うことを——いや、相手をいたぶることを、心の底から楽しんでいる者の目。
一真が絆を結んだ者たちを、悪戯に殺そうとした相手。
深く息を吸い、ゆっくりとそれを吐き出す。
そうして開いた一真の瞳には、獰猛なる怒りの炎が燃え盛っていた。
「ヴェイルだったな。
そんなに楽しみたければ、俺が相手をしてやろう」
その言葉は静かなのに、低く平野へと響いた。
◆ ◇ ◆
ヴェイルはファレナ王女の私室に戻っていた。
バルト王のことは放置である。
“楽しみたい”が、今の自分がグラウザーンを敵に回すのはよろしくない。
だから楽しむならば、セレフィーネが警戒する何者かが来た時だ。
リュミナと呼ばれていたあの小さなエルフと、
元トリニティ・レギオンのオラクルも楽しめた。
だがセレフィーネが警戒する程かと問われれば、迷うことなく否と答えられる。
セレフィーネが自分を解放する以上、何か確信のようなものがあるのだ。
“手をうっておかなければ、不味いことになる”という確信が。
それを待つ。
その何かが来たら、我慢した分だけ楽しませてもらおう。
十分に楽しんでそいつが有用な者ならば、
そいつの全てを模倣して、今度はセレフィーネで楽しめばいい。
バルト王にさえ手を出さなければ、グラウザーンもすぐには動くまい。
ならばゆっくりと時間をかけて、より有用な力の持ち主の姿を盗んでいく。
それを繰り返していけば、いずれはグラウザーンにも届くかも知れない。
そうしたら、今度はグラウザーンで楽しめる。
ヴェイルは頬を赤く染め、恍惚とした表情で呟く。
「ああ……たまらない。
セレフィーネやグラウザーンは、どんな声で哭いてくれるんだろう」
舌なめずりをしながら、天井を仰いで言葉を漏らす。
「いい声で哭いて、ワタシを楽しませてね」
◆ ◇ ◆
セレフィーネは、試しの洞窟の前へとたどり着いていた。
しかしセレフィーネに、洞窟の中に入ることは出来ない。
洞窟は、ユニークスキル持ちを弾く。
彼女が持つ“支配の魔眼”と“魂縛の血”のユニークスキルが、
洞窟に立ち入ることを許さない。
「……ガーラ」
愛おしい弟の名を呼び、洞窟の入口へと手を伸ばすセレフィーネ。
その手は洞窟の“拒絶”により弾かれる。
——はずだった。
「!?」
セレフィーネは驚きに目を見開く。
自らの手が阻まれることなく、洞窟の闇へと吸い込まれた。
「なんですって?
私が入れる……?」
恐る恐る、身体を洞窟内へと滑り込ませるセレフィーネ。
……やはり阻まれない。
二対一体の強力なユニークスキルを持つ自分が、洞窟内へと入れたのだ。
どういう事だかわからない。
噂は間違いだった?
一瞬躊躇するセレフィーネ。
だが次の瞬間には、手のひらを前に出して呪文を唱えていた。
「イルミネート」
瞬間、魔法の光球が出現し、洞窟内を明るく照らす。
理由は分からないが、入れるならば好都合。
セレフィーネは洞窟を進み、ガーラの部下から聞いた戦場跡へと歩を進めた。
洞窟を進み始めて僅か。
後ろを振り返ればまだ、外の明かりが見える距離。
——そこにあった。
戦いの痕跡が。
岩壁のあちらこちらは崩れ落ち、地面には焼け焦げた痕も。
そしてそんな中、胴体が二つに分たれた遺体がそこにはあった。
上半身は焼け焦げて原型がない。
下半身だけは形を保っているが、それはむしろ残酷な現実を突きつけてくる。
セレフィーネが震える視線を彷徨わせると、遺体の近くに黒い剣が落ちていた。
それはガル=ヴァルドが作り出した、魔鋼製の剣。
自らがガーラへと託した物。
セレフィーネは跪くと、その剣を拾い上げた。
ゆっくりと胸に掻き抱き、嗚咽を漏らす。
「おお……おおおおお……。
ガーラ……ガーラぁ……」
あるいは心の何処かで、望んでいたのかも知れない。
報告が何かの間違いであるということを。
だからわざわざ、オルディンの工房よりも先にここに来た。
だが来なければよかった。
こんなものを見ることになるならば。
セレフィーネはしばらくそうしていたが、やがて立ち上がって洞窟の外へと歩き始める。
次はオルディンの棲むという工房だ。
——絶対に逃さない。
天城紫音と千歳柚葉は、必ず殺す。
「待っててね、ガーラ。
私が必ず敵を討ってあげるから」
◆ ◇ ◆
一真は気配を殺し、エルサリオンへとたどり着いた。
怒りは抱いているが、冷静さは欠いてはいない。
一真は気配は感じ取れるが、魔力は感じられない。
逆に相手はどうかわからない。
最悪、こちらが把握する前に、敵に感知されるかもしれない。
「以前戦った空軍のように、わかりやすい相手なら良かったんだがな」
油断はできない。
だが許すつもりもない。
一真は仙気を全身に巡らせると、それを維持したまま気配を消す。
一真の存在感が希薄になった。
再びゆっくりと歩き出す。
向かうは城下町を抜けた先——エルサリオン王城。
一真はついに、魔王軍の幹部だった者と戦うこととなる。
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