第244撃:背中の向こうへ
今回は少し静かな回ですね。
一体ここから、どうなるのでしょう。
一真は?晶は?紫音に柚葉は?
楽しんでもらえましたら、とても嬉しいです。
晶を連れて、三人が待つ焚き火へと戻る一真。
一真の後ろの晶を見て、表情を曇らせる紫音と柚葉。
「晶、その……身体……」
「晶くん……」
そんな二人を見て、晶は困ったように笑う。
「二人とも、大丈夫だよ。
ボク、まだ“男の子”でいられてるから」
一見、完全な女性にしか見えない晶。
晶がどうやって、自分がまだ男であることを確認したか。
それを一瞬想像してしまい、二人は顔を赤くする。
そんな二人を見て、晶の顔も赤くなった。
「あっ……えっと……」
三人の間に、気まずい空気が流れる。
そんな空気を変えるように、シルヴァが言葉をかける。
「気持ちは分からないでもないが、今は気持ちを切り替えろ」
その言葉に三人はハッとして、言われた通り気持ちを切り替える。
三人が落ち着きを取り戻したのを確認すると、シルヴァは一つ頷いて話を続ける。
「よし、晶も目を覚ましたことだしな。
まずは情報の整理から始めるか」
それから晶を交えて、改めて一から情報共有を始める。
————
一通り話し終わった後、最初に言葉を漏らしたのは晶だった。
「一真さん、そんな経験をしてたんですね」
——もしもエルフェリーナから話を聞いていなかったら、
頭が混乱していただろう。
だが一真から聞かされた話は、エルフェリーナの話と通じる部分が多くある。
あまりにも壮大で現実感がないが、全て本当のことなのだ。
紫音が一真に、気になったことを問いかける。
「それでその、なんちゃら共鳴核ってやつは?」
言葉を引き継ぐように、柚葉が口を開く。
「魂律共鳴核ね。
……話を聞いている限り、今手元には無いんですよね?」
その問いに一真は頷く。
「ああ。無い。
オラクルの話だとリュミナに預けたらしいが、
そのヴェイルという相手と戦った時には、既に持ってなかったらしい」
一真の肯定の言葉で、再び場が静まり返る。
現状において共鳴核は、唯一バルト王の洗脳を解ける可能性があるアイテムだ。
それが手元に無いとなると——。
そこで、紫音が思いついたように言葉を漏らした。
「……ん?あれ?
ちょっと待って?」
みんなが紫音に注目する。
「王様の解放が急務だったのは、
魔王軍にこれ以上、勇者召喚を使用されないようにだよな?
エルフェリーナ様の魂が、魔王軍に捕らわれないように」
そこまで言って、視線を晶へと移す。
「……でも、エルフェリーナ様の魂は既にさ……」
そう。
エルフェリーナの魂は、いま晶の中で眠りについている。
既に——召喚されているのだ。
紫音が慌てて言葉を追加する。
「って!だからって、
王様を放置していいって思ってるわけじゃないから!」
そんな紫音を、一真は静かに言葉をかけて宥める。
「分かっているさ。
紫音の言う通り、女神の召喚を防ぐという目的は消えた。
——だが」
「だが?」
シルヴァの短い問いに、一真は僅かに考えて答える。
「……王の洗脳解除は、最優先で継続しよう」
再びシルヴァの問いが飛ぶ。
「理由を聞かせてくれるか?」
一真は頷いて、自らの考えを話し始めた。
「今ここで俺達が急に動きを潜めたら、
魔王軍に余計に警戒を与えることになる」
「それに、このまま召喚を利用され続ければ、
余計な犠牲者が増えることになる」
晶達の表情に痛みが浮かぶ。
自分達のクラスメイト。
大部分が紫音と柚葉の前で命を落とし、
残った者たちも今どうなっているか分からない。
それだけではない。
一真は先のことを考えていた。
この世界で、やるべきことを終えた後。
——地球への帰還は可能かどうか。
それを王に聞きたかった。
可能だとすれば、召喚術を使える王族が、
鍵を握っている可能性が高いだろう。
どちらにしても、王の解放は必要なのだ。
ならば早いほうが良い。
いつ何時、自分達が想像もできないような事態が起きないとも限らない。
そして何よりも。
「何よりも、ヴェイルという魔族を放置はできん。
オラクルの話だと、相手は生きているだろうと言っていた」
人を苦しめるのを、心から楽しむ相手であると感じたとも。
そんな奴を、このまま見過ごすのはリスクが高すぎる。
一真は覚悟を秘めた瞳で、晶たちに言葉を告げる。
「ヴェイルという魔族は——俺が倒す」
その言葉で、森の空気が張り詰めたものとなる。
一真の気迫に気圧されているのか、
先程まで聞こえていたモンスターの声もピタリと止まる。
晶は咄嗟に声を上げそうになる。
——ボクも一緒に行きます!——
だが喉元まで出かかったその言葉を、必死に飲み込む。
もうこれ以上、一真と離れたくない。
一真の傍にいたい。
晶は瞳をギュッと閉じて、必死に我慢する。
自分がついて行っても、足手まといにしかならない。
それどころか、自分の中にエルフェリーナの魂が宿っていると知られたら……。
——ついて行けない。
オラクルの仲間である、オルディンの強さの一端は晶たちも見た。
無論、本気で戦ってたわけではないだろう。
それでもその強さは、確かに肌身で感じたのだ。
オラクルの強さがどれ程かは分からないが、
オルディンの強さから想像はできる。
そんなオラクルですら倒せなかった相手。
ついて行けるわけがなかった。
晶が紫音と柚葉を見ると、やはり二人も想いは同じのようだ。
二人とも自らの無力さに、唇を噛み締めている。
頭では分かっているのに、心が分かってくれない。
だってこんなに苦しいのだ。
だってこんなに寂しいのだ。
一真への想いを認めてから、二人の想いは留まることを知らない。
どんどん膨らんでいく。
ずっと傍にいたい。
紫音と柚葉もまた、晶と同じくそう思っていた。
晶は二人の表情を見て、胸がズキリと痛むのを感じた。
だが、敢えてそこから意識を逸らす。
それは考えてはいけない感情。
晶たちの様子を黙って見守っていたシルヴァが声をあげる。
「思うところはあるだろうが、
お前たちは俺と共に翠霊郷へと戻るんだ。
俺はロイからお前たちを託されている。
……分かるな?」
その言葉に晶たちは、言葉で返事をすることは出来なかった。
代わりにようやくの思いで、一つ頷きで答える。
一真は立ち上がり、三人の頭を優しく撫でると、シルヴァに向けて話しかける。
「シルヴァ、俺からも三人を頼む。
それとオラクルとリュミナ、ルナリスのこともな」
シルヴァも立ち上がり、頷きながら答える。
「任されよう」
一真とシルヴァは、僅かな笑みを交わした。
それから一行は、オラクルたちを抱えて帰らずの森を抜ける。
共に行動したのはそこまで。
ここからは再び別行動。
一真はエルサリオン王城へ。
晶達は翠霊郷へ。
別れの時間。
挨拶をすまして、一真が背を向けて歩いていく。
その背を見て、晶が我慢できずに叫びを上げた。
「ーー~~っ!」
「一真さんっ!」
一真は振り返り、優しく声を返す。
「——どうした?」
「……また、すぐに会えますよね?」
「ああ。もちろんだ」
ほんの短いやり取り。
それでも晶は、心に温もりが灯った気がした。
再び背を向けて歩き出す一真。
しばらくその背を見つめ、やがて反対方向へと歩き始める晶たち。
こうして再び、一真と晶たちの運命はすれ違ったのだった。
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