第243撃:小さな棘
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今回は晶の内面に深く踏み込む回です。
“性”の揺らぎという繊細なテーマに触れています。
ですが、誰かを否定する意図は一切ありません。
彼(彼女)の葛藤として受け止めていただければ幸いです。
晶はゆっくりと目を開いた。
先程まで日中だったはずだが、辺りは薄暗い。
何が起きたのか分からずに、一瞬頭が混乱する。
頭がぼやけていて、意識がハッキリとしない。
ふと、両隣から寝息が聞こえてきた。
驚き、目を凝らしてみてみると——。
右隣にリュミナとオラクル。
左隣には、自分にペッタリとくっつくようにルナリスの姿が。
「……えっ!ルナリス!?」
驚きで一気に意識が覚醒する。
意識を失う前までの記憶が、蘇ってくる。
「ボ、ボク……そう言えば……」
晶はゆっくりと体を起こし、改めて周囲を見渡す。
どうやら自分は、何かの穴のようなものに収まっているらしい。
いや、何かではない。
自分はその場所に見覚えがある。
「ここって……帰らずの森の……大木の大穴?」
そこまで確認して、晶は慌てて隣で眠るリュミナとオラクルを確認する。
「そ、そうだ!二人の怪我!」
……大丈夫だ。
意識を失う前に見た怪我は見当たらない。
表情も穏やかで、苦しそうな様子はない。
「よ、良かったぁ」
晶は止めていた息を吐き出し、自らの胸に手を当てる。
——違和感。
自らの手と胸、双方から伝わってくる激しい違和感。
「……え?」
晶は慌てて手を離すと、恐る恐る自らの胸を見下ろす。
そこには、確かな膨らみがあった。
気を失う前までは、間違いなく無かった。
「これ……うそ……」
晶は慌てて陰部を確認する。
……まだ男だ。
一瞬ホッとするが、すぐに不安と恐怖が湧き上がってくる。
覚悟はしていた。
いや、していたつもりだった。
癒やしの力を使えば、自分の男性性がどんどん消えていく。
だが、ここまでだとは思わなかった。
ここまで一気に、女性化が進むなんて。
一真の手の傷を治した時は、気を失うこともなかったし、
少なくとも自分では、男性性が削られたような気はしなかった。
その後だ。
その後にオラクルとリュミナを治した直後、急に意識が遠のいた。
そして今に至る。
(治す怪我の重症度によって、女性化の進行速度が違う……?)
そう言えば、最初にこの力を使った時は、瀕死の紫音を治した時。
自分では覚えていないが、その直後に気を失ったと言われた。
今回も、二人とも重症だった。
——間違いない。
強い力を使えばそれに比例して、自らの男性性を多く失う。
晶は自分が男であることに、一切違和感はない。
それどころか、もっと男らしくなりたいと思っていた。
そうすれば、自分は苛められないかも知れない。
そう思って、これまで生きてきた。
それでも……それでも晶は。
誰かを癒やすためならば、
たとえ自分が男ではなくなっても構わないと、そう思っていたのだ。
自分が誰かの役に立てるのならばと。
自分が誰かを救えるならばと。
それがどうだ。
実際に、自分の身体の変化を目の当たりにしたら?
心に浮かんだ感情は——“怖い”。
まるで自分が自分でなくなってしまうような、そんな根幹的な恐怖。
(こ、怖い……怖いよ……)
体の底から。
いや、心の奥底から恐怖が侵食していく。
(ボクは……本当にまだちゃんと“ボク”?)
「晶」
唐突に名前を呼ばれ、思わず身体が跳ね上がる。
「ひっ!」
声のした方に視線を向ける。
そこには、一真が立っていた。
——ドキン——
一真の顔を見た瞬間、胸が痛いほど大きく跳ねる。
その後も鼓動は治まる様子はなく。
ドクン、ドクン、ドクン。
まるで早鐘のように、心音が体内に鳴り響く。
顔が真っ赤になるのを感じる。
心臓が口から飛び出そうだ。
晶は思わず、一真から視線を逸らす。
(な、なに?どうしちゃったの、ボク……)
気を失う前、一真に再会できて嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて、思わず抱きつきそうになってしまった。
でも……思い留まった。
だって怖かったから。
男の自分が、一真に抱きつくなんて。
気持ち悪いと言われたらどうしよう。
嫌そうな顔をされたらどうしよう。
一瞬で頭がそんな考えで埋め尽くされて、
ギリギリのところで踏みとどまったのだ。
分かっている。
一真はそんな人間じゃない。
分かっている。
一真ならきっと、優しく頭を撫でてくれただろう。
それでもフラッシュバックするのだ。
地球にいた頃に、女性のような容姿で苛められてきたことが。
男なのに、女みたいな外見で蔑まれてきた記憶が。
——なら、今の胸の高鳴りは?
晶の心に一瞬、“もしも”が浮かび上がる。
——モシモ、モシモボクガ、ホントウニオンナノコダッタラ?——
『ボクは一真さんに、抱きしめてもらえる?』
男のままでいたいという感情と、
誰かの救いになるために、男を捨てるという覚悟。
そしてもう一つの“願望”。
それらが頭で渦を巻く。
晶は一瞬浮かんだその考えを、追い出すように頭を振るう。
返事もなく、様子のおかしい晶を心配して、
一真が再び声をかけてきた。
「晶!大丈夫か?」
一真の声に、晶はハッとして言葉を返した。
努めて平静を装って。
「あ……ご、ごめんなさい、一真さん。
ボクなら大丈夫です」
にこりと笑う晶。
その笑顔を——いや、今の“晶”を見て、一瞬一真は何かを考える素振りを見せる。
しかし結局、思い浮かんだ言葉は言わずに晶の頭を優しく撫でて、
代わりに別の言葉を伝える。
「……そうか。なら良いんだ。
少し遅れちまったが、礼を言わせてくれ」
「晶、お前のおかげで助かったよ。
ありがとうな」
ありがとう。
何度も言われたはずの、一真のその言葉。
なのにも関わらず、今の晶にはそれまでとは違って聞こえた。
「い、いえ……そんな」
心が満たされる。
自分でも一真の力になれた。
そんな喜びが胸いっぱいに広がった後、先程までの感情は消え去っていた。
(……うん。
さっきのはきっと、いきなり女性化が進んだから混乱してたんだ)
「晶、立てるか?」
そう言って差し伸べられる、一真の大きな手のひら。
この世界に来た時に、自分に差し伸べてくれたのと同じ優しい手。
晶はルナリスを起こさないように、そっとその手を握ると立ち上がり、
未だ目覚めないオラクルとリュミナに視線を落とす。
(……うん!
みんな助かったんだもん。
これで良かったんだよね?)
「さて、これからどうするかを、話し合おうとしていたところだ。
向こうに行こうぜ」
そう言って、焚き火の方を指差し歩き始める一真。
晶はそんな一真の後ろを歩き始める。
「はいっ!一真さん!」
心に残った小さな棘は、気づかぬふりをして。
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