第242撃:宿命の輪郭
高評価をしていただき、本当に嬉しいです!
有難うございます!
そして!……また遅くなっちゃいました(`;ω;´)
ごめんなさい……。
一真は慌ててしゃがみ込み、晶を抱き起こす。
すると、気を失っている晶の“長い”髪の毛が、パラリと流れた。
「!?」
それだけではない。
髪の毛の緑色の部分が増えている。
そして。
「な……んだ、これは?」
——胸元に……はっきりとした膨らみが出来ていた。
気のせい。見間違い。
そんな言葉では、すませることの出来ない変化。
確かに先程も、驚きはした。
一真の知る晶は、黒く艷やかな黒髪。
長さも、そこまで長くはなかったはずだ。
だが先程の晶は、髪は肩口まで伸びており、
髪の毛も僅かに緑色になっていた。
元々中性的な外見だったが、
一見すると女性にしか見えないような変化を遂げていたのだ。
今は?
晶が治癒の力を使ってから、晶の髪が更に長くなり緑色の割合も増えた。
更に胸まで。
今の晶を見て、男性だと分かる者は皆無だろう。
姫咲の元で様々な経験をした一真だが、これには頭が混乱する。
一真は紫音たちに向き直り、その表情を見る。
みな、痛みを抱えた表情をしてはいる。
だが……誰一人として、晶の変化を驚いている様子を見せない。
まるで、こうなることが分かっていたかのように。
一真がポツリと言葉を漏らす。
「いったい……どういう事なんだ?」
紫音と柚葉は答えられない。
まるで己の無力さに、打ちひしがれているかのように。
言葉を返したのはシルヴァ。
「俺も直接見てきたわけじゃない。
聞いただけだ。
それでも良ければ、説明しよう」
その言葉に、一真は頷きで返した。
————
それから一真たちは、意識を失っている三人を抱え、帰らずの森へと足を運ぶ。
晶たちの本来の目的が、ルナリスを迎えに行くことだったためだ。
道中、シルヴァはポツリポツリと説明を挟みながら進んでいく。
森へ入ってから、一真は仙気に威圧を込めて広げる。
今はモンスターに邪魔されたくはない。
森を進み、やがてルナリスが棲む河跡湖へとたどり着く。
一真は抱えている晶に負担にならないように、湖の底へと気配を飛ばす。
すると、湖から一つの気配が慌てて浮かんでくる。
水面から飛び出し、一真と晶の間に潜り込むように身体を擦り寄せる。
「キュー!キュー!キュイ!キュー!!」
もの凄い甘えようだ。
その身体は微かに震えている。
寂しかったのだろう。
服は僅かに濡れてしまったが、嫌な気持ちにはならない。
むしろ先程まで張り詰めていた気持ちが、解れていくような感じすらする。
一真は晶を落とさないように抱き直すと、ルナリスを器用に撫でてやる。
「ははっ、随分と待たせちまったな。
……悪かった、ルナリス」
気づいたら一真は笑っていた。
笑みを浮かべるなど、随分と久しぶりな気がする。
黙り、様子を見ていたシルヴァが口を開く。
「その子が水の聖獣か。
疑っていた訳ではないが、本当にいるとはな」
横ではルナリスを撫でたくてウズウズしている柚葉を、
紫音が必死に宥めている。
ルナリスとの再会が、張り詰めていた空気を穏やかなものにした。
一真はルナリスに視線を落とし、笑みを苦笑に変えて一言呟く。
「またお前に助けられたか」
「キュ?」
しかしルナリスは、意味がわからないという様子で、
ただ小首を傾げるのみだった。
一真たちはそれから、自分達が拠点として使っていた大木の広場へと足を運ぶ。
少し期間が空いたためか、広場はモンスターに荒らされた形跡が見られる。
しかしさほど酷いものではない。
一真たちは、軽くその場の掃除をし、
大木の根本の大穴を整えて、晶たち三人とルナリスを優しく寝かせる。
三人とも苦しんでいる様子はない。
ひとまずは安心だろう。
一真、紫音、柚葉、そしてシルヴァの四人は、
大木から少し離れた場所に焚き火を起こした。
その焚き火を囲むように、椅子代わりの丸太を人数分用意する。
マジックバッグから人数分のコップを用意して、紅茶を用意する。
その紅茶はシルヴァが自作したもの。
翠霊郷の森に実っている、ベルガモットに似た柑橘系の果物を加工した紅茶。
アールグレイを思わせる、気持ちを落ち着かせる爽やかな匂い。
四人はその紅茶を飲み、一息つく。
僅かな沈黙が森に流れる。
聞こえてくるのは、モンスターの鳴き声が少しだけ。
そのモンスターも、襲ってくることはない。
やがて一真が、意を決したように三人に問いかける。
「さて、説明してくれるか?
俺やリュミナと別れた後、一体何があったのかを」
紫音と柚葉は、視線を交わして頷き合う。
「オレたちも聞いてほしい。
一真さんと別れてから、オレたちが何を見てきたのかを」
「……私たちは、人を殺めました。
仕方がなかったのだと言えば、それまでなのかも知れません。
ですが……その言葉は使っては駄目な気がします」
そう言って二人は話し始める。
何があったのかを。
何を見てきたのかを。
そして、何をしたのかを。
——最初二人は、冷静に話をするつもりだった。
今まで見たことのないような、一真の苦しみを含んだ表情を見て、
自分たちが受け止めてあげたいと思っていた。
でも駄目だった。
一度話してしまったら、堰を切ったように感情が溢れ出してきた。
気づいたら二人は泣いていた。
生まれて初めて人を手に掛けた。
理不尽な運命に翻弄され、命を散らした者たちの想いに触れてきた。
多くの大人たちに、支えられていることを知った。
——晶が背負っている……運命を目の当たりにした。
すべてを話し終えたとき、二人は俯いて顔を上げられなかった。
自分達が、一真を支えると決意した傍からこれだ。
支えるどころか、感情をぶちまけた。
一真の痛みをこの目で見たのに、一真に感情をぶつけてしまった。
…情けない。
…恥ずかしい。
…申し訳ない。
そんな気持ちが渦巻いて、一真の顔を見れなかった。
そんな二人の頭に、大きく温かな手が添えられる。
その手に、心が優しく癒やされる。
一真が立ち上がり、二人の頭を撫でたのだ。
一真は短く。
「よく、頑張ったな。
信じていた。お前たちを」
そう、言葉を落とした。
自分だってつらい思いをしたはずだ。
自分だってあんな表情をしてたじゃないか。
なのに二人の頭を撫でる一真は——大人の顔をしていた。
紫音と柚葉は、ロイに言われた言葉を思い出していた。
『もっと大人を頼りなさい』
『子供であること、未熟であること、それを罪だと思わないでほしい』
『君達に頼ってもらえて、嬉しいんだよ』
きっと、これが大人なのだろう。
自分がどんな苦しさを背負ったとしても、
それでも子供の前では“意地”を通せる。
それがきっと、“大人”なのだ。
(なんだよ……やっぱり大人ってズルいじゃないか。
オレ、一真さんが好きだ……大好きだ!)
(一真さんにとっては、私たちは仲間であると同時に子供…なんだよね。
でも……でも諦めない!
私たちも、すぐに大人になってみせます、一真さん!)
二人の想いを知ってか知らずか、一真は再び丸太に腰掛けて話を進める。
「大体のところは分かった。
次は俺の番だな。
お前たちと別れた後、何があったのかを共有しよう」
そう言って一真は、これまでのことを話し始めた。
ラグナの村での出会い。
前世界魂律遺構での出来事。
オラクルの救出。
魔王軍との戦い。
リュミナとオラクルの——怪我の理由。
一真の話が終わったとき、それまで黙っていたシルヴァが口を開いた。
「一真、お前もとんでもない経験をしたものだな。
……まさか、噂に聞いた遺構がそんな場所だとはな」
その言葉の後、誰も口を開けない。
あまりにも情報密度が濃すぎる。
一真が特に驚いたのは。
女神エルフェリーナの魂の旅路。
封神拳のルーツ。
——晶の治癒の力。
現状において晶は、この世界で唯一の、癒やしの奇跡を使える人物。
その代償として晶は力を使うほど、男としての自分を失っていく。
そして、邪神復活の鍵となる人物でもあるということ。
晶の方に視線を向けると、静かに寝息を立てている。
一真がようやく、重い口を開いた。
「正直驚いた。
そんな事になっていたとはな。
……やはり俺は、偶然この世界に来たわけじゃなかったんだな」
これは宿命だったのかもしれない。
封神の徒としての道を選んだその日から、避けることの出来ない宿命。
善神が悪神を滅ぼす為に生み出した封神拳。
そしてその悪神は、ゼルグノスによって生み出された。
あの時——学校の前で、魔法陣の光に巻き込まれたあの瞬間。
きっと運命が動き出したのだ。
一真は自らの手のひらを見つめる。
叔母がくれた言葉が思い出される。
——あなたのこの大きな手は、きっと多くを救える手になる——
この僅かな期間で、一真は多くの者達と出会い、多くの絆を結んできた。
一真は拳を握りしめ、静かに言葉を呟いた。
「ようやく……この世界で俺がやるべきことが見えてきたな」
一真は立ち上がり、空を見上げて言葉を飛ばす。
「姫咲さん、俺は強くなれたかな」
家族に——叔母に背を押され、師匠に導かれた。
自分は決して正義の味方じゃない。
なればこそ、だからこそ。
自分の培った強さは、“自ら”が守りたい者たちのために振るおう。
一真はそう、心に誓った。
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