第241撃:奇跡と代償と
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一真はオラクルとリュミナの負担にならないように、
ゆっくりと晶たちの下へと歩いてゆく。
なぜ三人がこんな所に?
それにもう一人いるエルフは何者か?
そういった疑問は強い。
だがそれ以上に気になるのは、晶の変容だった。
オルディンの工房で別れる前とは、明らかに変わっている。
元々女の子みたいな子ではあった。
だが今は、“みたい”などという話ではない。
髪の一部も、色が変わっている。
(どういう事だ?
この短時間で起きるような変化じゃないぞ。
一体何があった?)
見た感じ苦しそうな様子はないので、
何か緊急性があるようなことではないと信じたい。
やがて一真と晶たち三人は、会話ができるほどの距離まで近づく。
——何かを喋りたい。
でも、何から喋ったら良いか分からない。
話したいこと、聴いてほしいことは沢山あるのに、
いざ一真を目の前にしたら、三人とも言葉が出てこなかった。
代わりに溢れ出すのは激情。
目の前に一真がいる。
手を伸ばせば、触れられる距離にいる。
その事実が、三人の胸を温かいもので満たしてゆく。
——涙が溢れそうだ。
(……ボク…ボクっ!)
(もうダメだ…やっぱり誤魔化せない。
オレは…一真さんのこと…)
(一真さんが近くにいてくれるだけでこんなにも。
私はもう…一真さんのいない人生は…)
先程までは、支えたいと思っていた。
力になりたいと、寄りかかって欲しいと。
それがどうだろうか。
一真を目の前にした途端、こんなにも彼に甘えたい。
三人がどうにか言葉を探しているとき、先に一真が口を開いた。
その声には、焦りを抑えた様子が滲んでいる。
「驚いたぞ。お前達、何でここに?」
その言葉に声を返したのは、追いついてきたシルヴァだった。
「お前が草薙一真か?
……なるほど、“普通”じゃないな」
シルヴァは一真をひと目見た瞬間、常軌を逸した鍛錬の上にのみ成り立つ、
まさに異常とも言うべき肉体強度を感じ取った。
その言葉に一真は、苦笑を浮かべてシルヴァへと視線を向ける。
「普通じゃないとは言ってくれるな。
アンタは?」
シルヴァも苦笑を浮かべて答える。
「ふっ。確かに失礼な物言いだったな。
すまない、詫びよう」
「俺の名前はシルヴァという。
ロイからこの三人を預かっている」
——ロイから預かっている。
オルディンからではなく?
三人の様子を見て察してはいたが、やはり何かがあったらしい。
何があったのかは気になる。
気にはなるが、今は優先しなければならないことがある。
一真は、シルヴァや晶たちに問いを飛ばす。
“頼む”という思いを込めて。
「色々と話したいことはあるんだが、その前に聞きたい。
四人とも、ハイポーションを持ってはいないか?
出来れば二つ欲しい」
その言葉に、シルヴァは先程から気になっていたことを問いかける。
「……その担いでいる二人のためにか?
見たところ、かなりのダメージを負っているようだが」
シルヴァの言葉に、一真の胸に鋭い痛みが走る。
一真は近くの草地の上に、ゆっくりと二人を横たえた。
その二人を見て、紫音が驚きの声を上げる。
「なっ!?
オ、オラクルさん!リュミナさん!」
青ざめた柚葉の口からも、小さく言葉が漏れた。
「ひ、酷い。
二人ともボロボロ……
一体何が……」
誰が信じられるだろうか。
二人の傷がたった一人の魔族の、たった一撃で負った傷だとは。
二人の様子を見て、シルヴァの表情も固くなる。
「これは……思ったよりも酷いな。
一人はオラクルと言ったな?
トリニティ・レギオンのオラクルか?」
一真は無言で頷いて返す。
シルヴァはしゃがみ込み、
オラクルとリュミナの状態を確認し始める。
その表情は、段々と険しいものになっていった。
「……一真、結論から言おう。
俺が持っているのはミドルポーションまでだ。
そしてもはや、それでは間に合わない」
シルヴァの言葉は、鋭く一真の胸を抉った。
「なんてことだ……俺のせいだ。
俺の考えの甘さが、この様な事態を招いた」
横たわる二人の顔色は、かなり酷いものとなっている。
特にリュミナは、生きているのが奇跡だろう。
もう間に合わない。
今から他の方法を探している時間は——ない。
握りしめた一真の拳から、血が滴り落ちる。
その血は地面へと染み込んでいった。
一真は今まで何度も経験してきた。
取り返しがつかない事態を。
身が千切れるような後悔を。
だが何度経験しようと、その苦しみ、その無力感は慣れるものではない。
『ブシュ』
更に強く握りしめられた、一真の拳から血が吹き出る。
激しい自噴が、一真にそうさせる。
——ふと一真は、その拳が温かなもので包まれる感覚をおぼえた。
ハッとして自らの手を見下ろすと、そこには晶の手が添えられていた。
晶の手から出ている温かく優しい光が、一真の手を優しく包み込む。
すると、どうだろうか。
手からの出血は止まり、痛みもみるみる引いていく。
驚きに目を見開く一真。
「晶……お前……」
一真の顔を見上げ、にこりと微笑む晶。
やがて一真の手の傷は、跡形もなく消え去っていた。
信じられないものを見るように、自らの手のひらを見つめる一真。
いま晶が使ったのは、紛れもなく治癒の力。
晶は一真の傷が治ったのを確認すると、オラクルとリュミナの横へと跪く。
その様子を見た紫音と柚葉が、慌てて叫びを上げた。
「晶っ!」
「晶くん!」
シルヴァも複雑な表情を浮かべる。
何が起きているのか分からないのは、一真ひとりだけ。
(何だ!何が起きている!?)
晶はほんの少し悲しそうに微笑むが、それでも気丈に言葉を紡ぐ。
「ボクなら大丈夫だよ」
そういった晶は、リュミナへと手をかざす。
「エルフェリーナ様……力を貸してください」
誰に教わったわけでもない。
なのになぜか、晶はその力の使い方が分かっていた。
かざした手から、優しい光が溢れ出す。
傷つき横たわる、リュミナを温かく包み込む。
晶が僅かにうめきを漏らす。
「んっ……」
その手が微かに震えている。
次の瞬間、リュミナの血色がどんどん良くなっていく。
呼吸も深く、確かなものに。
致命的かと思われていたリュミナの怪我は——跡形もなく消え去っていた。
頬には朱が差しており、胸も規則正しく上下している。
完全に治癒したのだ。
一真はそれを見て、言葉を失っていた。
(なお、した……?
それに、エルフェリーナだと?)
晶は続けて、オラクルにも力を使う。
光に包まれたオラクルは、リュミナと同じく傷が癒やされていく。
その様子を見て、一真の理解がようやく追いついた。
(晶……だったのか……。
エルフェリーナの魂を宿している者は……)
——最初から、すぐ傍にいたのか。
理解した瞬間、様々なピースが線で繋がっていく。
会うものが口を揃えて言っていた、不思議な気配の正体。
ルナリスの異様な懐き様。
定期的に晶から感じていた、温かな安らぎ。
やがて、オラクルの傷も完治する。
二人の命は、ここに繋がった。
——なのに、紫音、柚葉、シルヴァの表情は複雑なものだった。
オラクルたちが助かったことを、喜んでいないわけではない。
三人の表情から感じるものは、もっと別のもの。
一真が三人に、その違和感を問おうとしたその時。
ドサッ。
晶が瞳を閉じて倒れた。
「晶っ!」
それを見た瞬間、一真は晶へ駆け寄った。
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