第239撃:牙を剥く運命
|д゜)チラッ
また投稿遅れちゃいました……。
ごめんなさい(`;ω;´)
一真は走る。
その疾走速度は、オラクルやリュミナが呼吸を困難とするほどのもの。
(くっ!何だ!この速さはっ!
息が……っ)
苦しそうにするオラクルに視線だけを向け、
一真がポツリと言葉を落とした。
「オラクル、苦しいかもしれんが、少しのあいだ我慢してくれ」
「……まだ、風の魔法なんかを使えるだけの余力はあるか?」
唐突な一真の問いかけに、オラクルは苦しさを堪えて言葉を返す。
「くっ……。
ああ、それほど大きな魔法は無理だが、小さな魔法なら……何故だ?」
一真は小さく頷きながら、理由を答えた。
「小さな魔法で十分だ。
魔法を使い、風を鼻と口の周りに纏わせろ。
それで呼吸は確保できるはずだ」
その言葉を聞き一真の考えを理解したオラクルは、即座に魔法を発動する。
「分かった!」
まずリュミナの顔に風を纏わせる。
次に自分の顔にも纏わせた。
すると、先程より遥かに呼吸が楽になる。
リュミナの顔も、僅かだが穏やかなものになった。
エルサリオン周辺から、ロイの棲む村まではかなりの距離がある。
だが一真は、その距離をほんの僅かな時間で走破した。
驚異的な速さ。
村の手前に到着し、速度を落とす一真。
オラクルを地面へと降ろし、リュミナは自らが抱きかかえる。
一真たちは直ぐ様ロイの店へと向かい、歩を進める。
村の入口で女性の門番に一度止められそうになるが、
オラクルの姿を見て慌てて道を空ける。
「こ、これはオラクルさん!お久しぶりです!
……そ、そのボロボロの姿は……?
それにそちらの男性が抱えている人……リュミナさん!?」
オラクルは僅かな言葉だけを返し、ロイの店へと急ぎ進む。
「すまない。
急ぎロイのもとへと行かなければならないんだ。
挨拶は後ほどに」
目の前を通り過ぎ、村の中を進むオラクルと一真。
そんな二人の背中に、女性門番の言葉が小さく投げかけられた。
「えっ?
でも今はロイさんは……」
焦る二人の耳にその言葉は届かず、虚しく響いた。
————
一真たちは、ロイの店の前で立ち止まる。
一真が抱きかかえるリュミナの顔色は、更に悪くなっていた。
オラクルも気丈に振る舞っているが、明らかに無理をしている。
店までたどり着けたことで、一真はほんの少しホッとした。
思った以上に焦っていたようだ。
呼吸を整え、体調を制御する。
——おかしい。
店の中から人の気配がしない。
嫌な予感を抑えつつ、一真がドアに手を伸ばす。
開かない。
鍵が掛けられている。
その様子を見て、オラクルも焦燥のこもった声を漏らす。
「閉じられている、のか?」
身体があげる悲鳴を無視して、オラクルも店の中の気配を探る。
……誰の気配もしない。
二人の顔の、焦燥の色が濃くなる。
そんな二人に、村人の一人が声をかけてきた。
「アンタたち大丈夫か?
かなりひどい怪我をしてるけど……」
そう言って、ロイの店の前で立ち止まっている二人の姿に、言葉を続ける。
「ロイさんに用があって来たのか?
……残念だけど、ロイさんは少し前から何処かに行っちまったよ。
なんか体格が良い、ドワーフの爺さんと一緒にさ」
そう言って村人は、気の毒そうにその場を後にする。
その言葉は、二人の心に再び焦りを灯らせる。
失敗した?
オルディンの方に向かうべきだったか?
そう考えた一真だが、先程の村人の言葉を思い出す。
「ドワーフの爺さん?
……オルディンさんのことか?」
もしそうなら、オルディンの工房まで行っても、
また無駄足となってしまう可能性がある。
そうして悩んでいる間にも、リュミナの顔色はどんどん悪くなっていく。
そしてそれは、オラクルも同じだった。
かなり苦しそうに、息を切らしている。
焦りに飲まれそうになる心を、一真は必死に抑え込んだ。
(落ち着け。焦っても何も解決しない。
次どうすれば良いか考えろ)
店のドアを破り、中からポーションを失敬するか?
もし有効なポーションがなければ、ただの破壊と不法侵入だ。
なら他の道具屋は?
一真がオラクルに視線を向けると、彼女は意を察したのか、
青ざめた表情で首を横に振る。
この村の道具屋は、ロイの店のみなのだ。
ならば行商人だ。
以前この村に来たとき、何人か行商人の姿を見た。
その者たちに頼る。
足りない料金は自らがモンスターを狩って、魔石を集めてこよう。
——いない。
一真たちが村を歩いても、行商人の姿が一人もない。
一真たちは、近くにいた村人に事情を聞いた。
返ってきた答えは、行商人たちは別の場所に、
新たな仕入れをおこないに行ったというもの。
特別というわけではなく、そういう時期だという事だった。
抱きかかえるリュミナの身体から、少しずつ温もりが抜け落ちてゆく。
一真はこの世界に来て、もっとも強い焦りを感じていた。
取り乱さないですんでいるのは、必死に心身を操作しているためだ。
どうする…どうする…どうすればいい?
その時一真の頭に、五人の冒険者の顔が思い浮かんだ。
ビル、リューネ、ザック、サラ、そしてハンク。
以前この村で、世話になった冒険者たち。
その者たちなら、有効なポーションを持っているかもしれない。
一か八か、一真はビルたちを探し始めた。
だが結果は無慈悲なものだった。
彼らと最初に会った酒場に行ったところ、そこのマスターに言われたのだ。
「ん?アンタ以前ここに来た……。
……ビルたちなら今はいないぞ。
少し遠くまで遠征に行くと言っていたからな。
いつ返ってくるかは……わからん」
酒場を出た一真たちは、途方に暮れる。
よもやここまで、全てが裏目に出ようとは。
もはや今から、他の場所を探している余裕はない。
身動ぎすらしなくなったリュミナの顔色が、それを物語っている。
オラクルもついに、言葉を発さなくなった。
——限界だ。
ここに来て、運命は一真に鋭い牙を剥いた。
少し歩いたところで、オラクルが限界を迎えて倒れそうになる。
それを一真が支えて、二人を抱きかかえて歩く。
村人は気の毒そうにこちらを見ているが、差し伸べられる手は一つもない。
面倒事に巻き込まれたくないのか。
はたまた関わったとしても、自分達には何も出来ないと思っているのか。
無力感が胸を締め付ける。
制御して抑える。
不安が浮かび上がる。
強引にねじ伏せる。
(……くそっ)
焦りを感じながらも、
抱きかかえた二人に負担がないように歩く一真。
気づいたら、村の入口とは逆方面。
村の外れまで来てしまっていた。
「……何をやっているんだ、俺は」
こんなところに来ても仕方がない。
村の中に戻ろうと、踵を返し歩き出したその瞬間。
後方から、懐かしい気配が伝わってきた。
知った気配が三つ。
知らない気配が一つ。
一真は振り返り、封神拳で感覚を強化する。
強化された視力で、遠くに見た者たち…それは。
「!?」
「晶!紫音!柚葉!」
オルディンの工房で別れた、大切な仲間たちであった。
よろしければ、ブックマークや評価をお願いします。
皆様の応援が、力になります。
感想もお気軽に聴かせてくださいね。




