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第238撃:細い糸の上で

いつも読んでくださり有難うございます!


今回は少し、盛り上がりに欠けるかと思います。

リュミナとオラクルの魔法を受け、地面に倒れているヴェイル。


身動き一つしない。


だが、その顔には楽しそうな笑みが浮かんでいる。


ヴェイルは、自らの怪我も気にせずに起き上がる。


身体についた土埃を打ち払い、辺りを見渡すと、

ニヤリと笑みを深める。


「驚いたな。

まさか影に隠れていた、あの小さなエルフにやられるとは」


オラクルが王の私室に入ってきたとき、当然ヴェイルは気づいていた。


部屋の外の、もう一人の存在に。


本人は必死に気配を隠していたようだが、ヴェイルからすればまだまだ甘い。


だが、ヴェイルはそのエルフを戦力外と判断していた。


“面白くない”と。


それがどうだろう。


まさかあの場面で割って入り、光の精霊魔法を使ってみせたではないか。


想像すらしていなかったヴェイルは、その魔法の直撃を受けた。


もっとも、その後のオラクルの魔法は防いだが。


自らの身体が“痛む”という事すら、久しぶりの出来事。


アビス・ケイルの内と外では、こうまでも違うのか。


外の世界とはこんなにも、面白いものだったか。


「さて、どうしようかな?」


このまま追いかけて、二人を殺すも良し。


バルト王を亡き者にするというのも、面白そうだ。


だがバルト王を殺すとなると、その後が問題だ。


王を殺せば、セレフィーネが黙ってはいないだろう。


今の自分では、やはりまだセレフィーネには届かない。


それどころか、下手をすればグラウザーンが直接動きかねない。


……それは不味い。


グラウザーン——“アレ”は別格だ。

下手に敵に回せば、あっという間にこちらが殺されるだろう。


みな黒炎ばかりを恐れているが、グラウザーンの恐ろしさはそれではない。


莫大な魔力量と、フィジカルの強さ。

それに比べれば、黒炎などおまけにすぎない。


歴代最強の名は伊達ではないのだ。


(殺されるのは困る。

そうじゃなくても、アビス・ケイルに戻されるのも嫌だなぁ)


そんな事になったら、もう楽しめない。


——他人の絶望や苦痛といった愉悦を。


今すぐオラクルたちを追いかけて、絶望の表情を味わいたい。

そんな気持ちを、ヴェイルは必死に抑え込む。


(彼女も強くはあったけど、セレフィーネが警戒するほどじゃない)


つまりは、もっと楽しめる相手が来る可能性がある。


そして、そいつの姿を模せば、セレフィーネに届くかもしれない。


「しょうがない。

城に戻っておこうか」


そうと決めると、ヴェイルは素早く城へと戻っていった。


王の私室に戻ると、王の膝の上に何やら光るものが見えた。


「ん?なんだろう、これは」


ヴェイルはそれを拾い上げると、まじまじと観察する。


先程までは、こんなものはなかった。


つまりはあの二人の内の、どちらかの仕業。


ヴェイルは手に力を込め、その球体を破壊しようとしたが、

すんでのところで中断する。


これが何かは分からないが、残しておけばまた、面白いことになるかもしれない。


せっかく外の世界に出られたのだ。


たっぷりと楽しまなければならない。


「ククッ……早く誰か来ないかな。

ワタシを楽しませて——糧になれ」


ヴェイルはそう、心底楽しそうに呟いた。


◆ ◇ ◆


一真は敵軍を滅ぼした後、素早くエルサリオン王城へと向かい始めた。


距離的には、そこまで時間は掛からない。


どうにも嫌な予感が拭えない。


二人の無事を願いながら走り出して、ほんの僅かの後。


進行方向から、オラクルが歩いてくるのが見えた。


(!?)


一真はその姿を見て、目を見開く。


オラクルは全身が、ボロボロになっていた。


それだけではない。


オラクルが大切に抱き抱えている人物——リュミナ。


そのリュミナのほうが、更に酷い有様だったのだ。


一真の中で嫌な予感が、嫌な現実へと姿を変えた。


一真は速度を早め、二人の元へと駆け寄っていく。


「オラクル!リュミナ!」


どこか虚ろな表情だったオラクルは、一真の声を聞いて瞳に光が戻って来る。


「かず…ま?…かずま……一真!」


オラクルのその顔は、今にも泣き出してしまいそうな顔。


一真はオラクルの前で立ち止まると、

彼女が抱きかかえているリュミナに視線を落とす。


——酷い有様だ。


体中は血と泥に塗れ、その顔からは生気が失われている。


命はどうにかあるようだが、この分だといつまで持つか。


『メキメキ』


一真は拳を握りしめる。


自分の失態だ。


完全なる判断ミス。


だが今は、それを悔やんでいても仕方がない。


一真は無理やり感情を抑え込むと、オラクルへと問いかける。


「……セレフィーネか?

それとも、ヴェイルという奴か?」


一真の口からヴェイルの名が出たのを聞いて、オラクルは驚きを顕にする。


「な、なぜ貴方が奴の名を?」


確定だ。


これをやったのは、ヴェイルという人物。


——つまりはあの軍団は、ヴェイルを抑えるため、

あるいは始末するために送り込まれた兵たち。


自分がそれを、妨害してしまったのだ。

 

一真は視線を伏せ、オラクルに謝罪を告げる。


「……すまん。

どうやら俺の責任のようだ」


突然の謝罪に、オラクルは目を白黒させながら聞いてくる。


「何を急に?

一体どういう事だ?」


リュミナの事もある。あまり時間はかけられない。


僅かな時間の情報の応酬。


互いに状況を把握した後、一真は再び謝罪した。


「そういう訳だ。

俺が倒した軍は、そのヴェイルという奴を好きにさせないための、

いわば抑止的な軍だったらしい。

……すまない」


しかしオラクルは頸を横に振り、一真の責任を否定する。


「謝らないでくれ。

もともと巻き込んだのはこちらの方だ。

……それに」


その軍と自分達が鉢合わせになれば、

そいつらとも戦うことになっていたかもしれない。


何が悪かったと言うならば、運が悪かったとしか言いようがない。


そんなことよりも今は——。


「一真……このままだとリュミナが……。

ハイポーションを飲ませたから、すぐにでも危険という訳ではない。

だが、徐々にだが顔色が悪くなってきている」


それは一真も感じていた。


再会した先程より、リュミナの顔色が悪くなっている。


ハイポーションですら時間稼ぎにしかならない。


リュミナが今生きていることが、どれほど細い糸の上に乗っているか。


一真は考える。

これからどうするべきか。


リュミナが危険なのは一目瞭然。


それだけではない。

リュミナほどではないが、オラクルも相当なダメージを負っている。


ポーションが必要だ。


だが、現状の手持ちではハイポーションは買えないだろうし、

そもそも一般流通しているものでもない。


ミドルポーションなら、エルサリオンの城下町でも売っているだろうが、

やはり今の手持ちでは手が出ない。


仮に買えたとしても、ミドル以下のポーションがどれほどの効果を発揮するか。


他にポーションが手に入りそうな場所。


ラグナの村のガイの店?


駄目だ。遠すぎる。


後はロイの店か、オルディンの工房だ。


ここからなら、僅かばかりオルディンの工房のほうが近い。


オルディンなら、ミドルまでだが自身でポーションを作り出せる。


一か八か、それに懸けるか?


疲労と痛み、不安によって思考が纏まらないのか、オラクルが小さな声で名前を呼んでくる。


「……一真」


——オルディンの腕に懸けよう。


そう言おうとした瞬間、一真の中に嫌な予感が湧き上がった。


(なんだ……この感覚は?)


何故だかわからない。

自分でも理由は説明できない。


だが何故か今、オルディンの工房へと行ってはいけない気がする。


一瞬悩んだ一真だったが、次の瞬間に口に出していたのは——。


「……ロイ爺さんの店に行こう。

そこでポーションを分けてもらう」


そんな判断だった。


オラクルは、疑問を投げ掛けてはこなかった。


その代わりに口から出たのは、申し訳なさそうな声。


「……この状態だと、あそこまで持つかどうか」


その言葉に一真は、再び謝罪で言葉を返す。


「オラクル。

すまないがまた我慢して貰うぞ」


そう言って一真はオラクルとリュミナを抱きかかえる。


そして。


「時間が惜しい。

“前回”よりも飛ばすぞ」


その言葉の直後、一真は封神拳によって身体能力を上昇させ、

風を切って走り始めた。


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― 新着の感想 ―
ロイ爺さんのところへ急げ! 果たして一真さんの判断は正しいのか? 急げ一真さんε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘ リュミナちゃん。オラクルさんを守れーーー!
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