第234撃:姉と妹
一真と別れたオラクルとリュミナは、エルサリオン王城へと向かっていた。
遂にここまで来た。
エルサリオン国王、バルト=エルサリオン解放の一歩手前まで。
オラクルは逸る気持ちを必死に抑えながらも、リュミナへと注意を促す。
「リュミナ、あくまでもお前はサポートだ。
私よりも前に出るんじゃないぞ。
危険だと判断したら、即時離脱だ」
リュミナはオラクルの後ろに続きながら、頷いて返した。
「うん!分かってる!
セレフィーネって魔族とは、極力戦わないように。
だよね!」
オラクルは肯定を返しながらも、緊張感が高まるのを感じる。
本来なら、セレフィーネ不在の瞬間を狙いたいのだ。
だが自らの調べだと、セレフィーネは外へは出ない。
ならば、いつ訪れるか分からない、その機会を待つことは出来ない。
最初はどうにか、セレフィーネを誘導できないかとも考えた。
しかし良い方法が見つからない。
このままだと、いつ癒やしの力を宿したものが——
女神エルフェリーナの魂を宿したものが、召喚されてしまうかわからない。
勝負に出るしかないのだ。
本当なら、リュミナを巻き込みたくはなかった。
ここまで来る道中、何度も一人で挑もうと考えた。
だがもし、自分が失敗したら?
もし魂律共鳴核を失うことになったら?
——駄目だ。一人で挑むには、あまりにも危険性が高すぎる。
オラクルは走りながら、後方に続くリュミナに一言謝罪を告げる。
「すまない、リュミナ。
お前まで、危険に巻き込むことになってしまった」
◇
背中越しに謝られたリュミナは、笑みを浮かべて言葉を返す。
「謝らないで、オラクルお姉ちゃん!
私はね、嬉しいんだからっ!」
リュミナの声には、一切の気負いはない。
心の底から嬉しそうな声。
「私でも、お姉ちゃんの役に立てる……
このエルフェリアの平和のために、役に立てるんだもん!」
嬉しい。
嬉しくてたまらない。
エルフの里では、落ちこぼれとして疎まれてきた。
自分には何も出来ないと諦めてきた。
でも、一真が言ってくれたのだ。
才能が全てじゃない。
遅咲きの者も大勢いる。
——嬉しかった。
嬉しかった!嬉しかった!!
こんな自分でも、自身のことを諦めなくてもいいのだと。
自分を大切に思ってもいいのだと。
そう、言ってもらえたようで。
こんな自分でも……誰かの力になれるのだと。
ああ——なんて嬉しいんだろう。
何度言葉にしても足りない。
私は、この世界にいてもいいのだ。
◇
オラクルには、リュミナの気持ちが伝わっていた。
精霊が教えてくれるのだ。
たとえ普段、その感情を表に出さなくとも。
この子がどれだけ悩んでいたか。
どれだけ苦しんできたのか。
自分では、その苦しみを取り除いてやることが出来なかった。
精霊に愛してもらえた自分が何を言っても、きっとリュミナの心に影を落とす。
どうにかしてやりたい。
どうにもしてやれない。
そんな無力感を抱きながら、先日久しぶりにリュミナと再開した。
前世界魂遺構内ということもあり気を張ってたためか、最初は気付かなかった。
だが遺構を抜けてリュミナを見てみると、明らかに“変わって”いた。
後ほど聞いたことだが、リュミナは一真に伝えていたらしいのだ。
自分がエルフの里で、どのような扱いを受けていたのかを。
——驚いた。
まさかリュミナが、出会って間もない人物にそこまで心を開くなど。
それまでの人生のせいもあってか、リュミナは人見知りをする。
一度心を開けば、とてもよく懐く。
だが、滅多なことでは心は開かない。
リュミナが心を開いていたのは、自分とロイとオルディンの三人のみ。
そんなリュミナが、一真には心を開いた。
それだけではない。
一真の仲間の紫音や柚葉にも、そして晶という人物にも普通に接しているというではないか。
オルディンの事を紹介するほどに。
その変化は、ガイたちやリリーナ、バッカスと接している姿からも明らかだった。
——心の壁が、崩れかけている——
オラクルは心のなかで、一真に感謝を告げる。
(ありがとう、一真。
私の大切な“妹”の心を救ってくれて)
◇
二人はエルサリオン王城の真後ろ——秘密の脱出路の出入り口にたどり着いた。
「流石に正面から乗り込むのは無謀だ。
またこの、脱出路を使わせてもらおう」
呟かれたオラクルの言葉に、リュミナは頷く。
オラクルとリュミナは、自分たちの持ち物をチェックする。
オラクルのマジックバッグには、何本かのポーション、マジックポーション。
他には、ガイから餞別として貰ったアイテムが幾つか。
気を使う必要はないと言ったのに、ガイは幾つものアイテムをオラクルに“プレゼント”してきたのだ。
ヤキモチを焼いたリリーナに、尻を捻られてたガイの顔を思い浮かべ、オラクルは自然と笑みをこぼす。
そんなオラクルの表情を見て、リュミナが不思議そうに声をかけてきた。
「お姉ちゃん?」
オラクルは、笑みを苦笑に変えて返す。
「いや、なんでもない。
いい感じに、肩から力を抜かせてもらったというだけだ」
ますます意味がわからないと言った様子で、顔に疑問符を浮かべるリュミナ。
「??」
そんなリュミナの頭を優しく撫で、オラクルは脱出路の中へと歩みを進める。
「いくぞ、リュミナ」
「うんっ!」
◇
脱出路の内部は迷路のようになっているが、オラクルは迷うこと無く進んでゆく。
完璧とは言えないが、王城の隠し扉から出入り口までの道筋は、完全に頭に入っている。
バルト王がまだ洗脳される前、オラクルはバルト王付きの冒険者をしていた。
様々な任務を受け、中にはこの脱出路を使うものもあった。
そうした経緯もあってか、いつの間にか覚えていたのだ。
二人は適度な緊張感を維持しつつも、過度に緊張しすぎないように、
言葉を交わしながら迷路を進んでいく。
道中保存食で空腹を満たしながら歩き続けると、王城内部へと通じる隠し扉へとたどり着いた。
二人はエルサリオンに近づく前辺りから、自分達の気配を抑えていた。
本来森の中で、狩猟をしながら生活をするエルフ。
気配を抑え込むのは得意なのだ。
できる限り、戦闘は避けたい。
だが果たして、どれほど上手くいくか。
城内には、セレフィーネに洗脳されている城兵が無数にいる。
それらの者たちなら、オラクルの精霊魔法でどうにかなるだろう。
問題はセレフィーネ自身と、生き残りの召喚勇者。
この者たちに、自分の力がどこまで通じるかが未知数だ。
オラクルは扉に手を掛けて、しばし悩む。
危険を覚悟で、一気にバルト王の私室まで走り抜けるか。
精霊魔法で城兵を眠らせて、あくまでも隠密性を重視して進むか。
いずれにしても、危険はある。
魔法を使えば、兵を眠らせる事ができる自信はある。
しかし、召喚勇者に効くかは未知数だし、セレフィーネに効くとは思えない。
逆に魔法を使わずに進むとなると、
セレフィーネに気づかれる危険性は減らせるが、兵に視認される危険性が大幅に高まる。
どうするべきか。
悩んだ結果、オラクルが選んだ選択は——
「リュミナ、今から精霊魔法を使う。
気配は抑えたままにしておくんだ」
その言葉だけで、リュミナにはオラクルが何をするつもりか分かった。
言葉には出さず、頷きだけで肯定を伝える。
オラクルは扉の仕掛けを動かし、解錠する。
『ガコンッ』
鈍く重い音を立て、隠し扉が開く。
オラクルは直ぐには城内には入らずに、呪文の詠唱を始めた。
「目を閉じなさい。
争いは終わり、夜は満ちた。
精霊たちよ——
彼らを、夢へ渡せ」
『夢渡の静謐』
瞬間、オラクルの呼びかけに応え、眠りの精霊が姿を現す。
「お願い。
この城の者たちを、眠りに誘ってくれ」
その言葉を受け、精霊は言葉もなく微笑んだ。
そして——
眠りの精霊が、城内を静謐なる眠りへと誘い始めた。
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ホゥホゥ♪




