第233撃:戦うべきではなかった
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黒鋼断罪・ザル=グラディオル。
夜哭の魔奏姫・セレア=ノクティルナ。
虚無演算者・ヴァル=エクリド。
この三人は、魔王軍過激派の中では新参者だ。
しかし三人は最近では珍しく、確かな実力と、
グラウザーンに対する偽りのない忠誠を併せ持った、数少ない人物たちであった。
また、魔族領における貴族という出自も、
三人の将来性を裏付けるものとなっていた。
三人は幼い頃から自らのことを鍛え続けてきた。
血筋による才能に自惚れること無く、憧れていたグラウザーンの元で仕えるために、
努力を続けて今ここに至る者たち。
いつしか人々は、三人を称して『ノクス・トリオン』と呼ぶようになる。
此度の任務はそんな三人にとっては、よりグラウザーンへと近づく為の足がかり。
——そうなるはずだった。
ヴァルは能力を全力で行使して戦況の逆転を狙いながらも、
血がだんだんと冷めていき、凍りつくのではという錯覚に陥っていた。
どう演算しても、目の前の男に勝てる道筋が視えないのだ。
秒刻みで相手の動きを先読みして、それらの情報を他の兵に共有する。
これだけでも、とんでもない負担を強いられる。
そもそも離れた者たちと思考を繋ぐ。
これが出来る者は魔族領広しと言えど、そうそう居ない。
これだけの才を持ち、努力も続けてきた。
ようやく力を認められ、グラウザーン配下の末席に加われた。
憧れのグラウザーンの元で、栄光の未来が待っているはずだった。
——なのに何だこれは?
幼き頃から共に研鑽を続けてきた二人の友。
ザルとセレア。
その二人も今や、顔面蒼白となっている。
ザルは全力で剣戟を浴びせようとしている。
セレアは味方の狂化を継続しつつ、敵への精神干渉を試し続けている。
二人ともかなり無理をして、力を使っているようだ。
まるで力の行使をやめてしまったら、その時点で自分達の命運が尽きてしまうかのように。
……一切通じている気配がない。
あまりにも脳に負荷をかけすぎたのか、ヴァルの鼻から血が流れ落ちる。
(何だ?なんだなんだ何なんだ!?
この化け物は一体何だ!!!)
目の前の敵からは、一切の魔力を感じない。
使っているのは、見たことも聞いたこともない技のみ。
得体が知れない。
現実感が薄れていく。
何もかも諦めて、今すぐ逃げ出したい。
そんな感情が、ヴァルの心に僅かに浮かんだとき。
敵の様子が変わる。
(な、何をするつもりだ!?)
ヴァルは咄嗟に、ザルとセレアに声を飛ばした。
「ザル!セレア!様子がおかしい!気をつけろ!!」
——————
一真は仙気を強く練り上げ、体中に充満させる。
消耗は激しいが、これ以上時間を掛けたくない。
先程敵が呟いた名前——ヴェイル。
その名前がどうにも気になる。
オラクル、リュミナと別れた際の、“嫌な予感”が再び浮かび上がる。
(こういう時は、たいてい碌な事が起きん。
オラクル、リュミナ、無事でいろよ)
仙気が練り上がり、一真は“それ”を発動する。
「はぁぁぁぁぁっ!
封神拳——修羅天躯!」
封神拳における、瞬間的な攻撃力上昇技。
身体の負担は大きいが、その分威力は絶大。
一真の身体を包む仙気が、蒼から濃蒼へと変わる。
次の瞬間、一真の姿が消えた。
いや、実際に消えたわけではない。
単純に素早すぎて、敵の目には捉えられないのだ。
目の前からいきなり、一真が消えたように見えたザルが、驚愕の声を漏らす。
「なっ!?どこにいった!」
辺りを見渡せど、一真の姿が見えない。
一切捉えることが出来ない。
ザルは、自らの後ろで何かが動く気配を感じる。
慌ててザルがそちらへ振り向こうとするが、その前に軍団の一人が吹き飛ばされてきた。
「!?」
ザルが動けずにいると、四方八方から味方が吹き飛んでくる。
「ぐぁぁぁぁっ!」
「がはぁ!?」
「いやぁ!!」
吹き飛ばされた軍団員は、全て一箇所に集められる。
今までの一真を見ていれば、わざわざそんな事をしなくても殺せるだろうに。
理解を超えた一真の行動に、遂にはセレアは歌を維持できなくなる。
今にも泣き出しそうな顔で、叫び声を上げた。
「なに!?何なのよ!一体何をしているの!!」
ふと、静寂が訪れる。
今までが嘘のような静けさだ。
殆どの者が、何が起きているのか分からない。
だが、ヴァルの演算スキルだけは、“それ”が分かった。
いや……分かってしまった。
ヴァルが慌てて上を見上げる。
空中には、一真が“立っていた”。
ヴァルは喉が張り裂けんばかりの叫び声を上げる。
「全員退避しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
——しかしもう遅い。
一真の準備は終わっている。
一真は一箇所に集めた、敵の“塊”に狙いを定める。
両手に練り上げた仙気を集中する。
そして。
「封神拳・双掌仙崩!」
『ギュオン——ズドォォォォォォォォン!!!——』
一真の両の手の平から放たれた仙気の奔流が、一箇所に集められた敵を飲み込む。
その瞬間、ヴァルの演算スキルが叩き出した結果は。
——戦うべきではなかった——
その思考を最後に、ヴァルの意識は途絶えた。
ヴァルだけではない。
仙気の光が収まったとき、その場には誰も存在していなかった。
ザルもセレアも……誰一人。
一真は周囲の気配を探り、生き残りの敵がいないことを確認すると、
仙気の足場を伝い地面へと降りてくる。
小さく息を吐いて、身体から力を抜く。
「……ふぅ。
終わったか」
せっかく休息をとったのに、また大きく体力を消耗してしまった。
だがそれも、やむを得なくはあるのだろう。
一真は圧倒的に戦っているように見えたが、その実油断はできない相手たちだった。
始めの頃こそ統率は取れてはいなかったが、個々の戦闘力は馬鹿にならないものだった。
特に最初から警戒していた三人。
その三人の力には、目を見張るものがあった。
魔王軍の過激派の一派であることは確定している。
何を目的でエルサリオンへと向かっていた?
——敵が叫んでいた、ヴェイルという名前。
ヴェイルと戦う?
エルサリオンで?
一真の心に巣食う、“嫌な予感”が肥大化していく。
自分はもしかして、何か勘違いをしているのではないか?
もしも……もしもエルサリオンに潜んでいる魔族が、
セレフィーネだけではないとしたら。
一真は焦燥感に駆られて、エルサリオン王城へと向かい始める。
(オラクル、リュミナ……無事でいろよ!)
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