第229撃:覚悟の分岐点
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一真の表情が、唐突に険しいものになる。
そんな一真の様子を見て、オラクルとリュミナは、
自分達も警戒を強めようと意識を集中する。
しかし何も分からない。
少なくとも、一真の様子を裏付けるような何かは。
一真は言葉も漏らさずに、更に気配を探る。
(十五……二十……三十……)
まだいる。
沈黙に耐えられなくなったのか、リュミナが声を張り上げた。
「ねえ、一真くん!一体どうしたの!
何かあったの!?」
リュミナの焦りを含んだ声を聞き、一真はようやく視線をリュミナへと落とす。
「何者かたちが、こちらへと向かってくる。
一人や二人じゃない。
……もっと多くの——軍だ」
その言葉に二人は息を呑む。
一真の言葉に焦りはなく、淡々と事実だけを語っていた。
それ故に、むしろその言葉からは、事実であるという事が伝わってくる。
オラクルの疑念の声が平野の静けさに小さく響く。
その言葉には、僅かながらの恐れが滲んでいた。
「軍だと?一体どこの!なぜだ!
我々の行動が、どこかで漏れていた?」
ここまで来たのに、王の解放が水泡に帰すかもしれない。
その考えが、オラクルの口調を荒くさせる。
一真にきつく当たっても意味はない。
ただの八つ当たりだ。
そんな事は分かってはいた。
それでも、オラクルの胸中に広がる焦燥は、彼女から徐々に冷静さを奪っていく。
——以前にも同じ様なことがあった。
ロイが住んでいる、名もなき村。
そこに魔王軍の空軍部隊が攻めてきた。
一真は上手く言葉には出来ない。
だがどこか、その時の空気に似たものを感じる。
(魔王軍?)
(一体どういう事だ?)
(俺達の事がバレていた?)
一真の頭に、様々な疑問が浮かんでは消える。
警戒はしていた。
以前、魔王軍の空軍が連れてきていた、偵察用と思われるモンスター。
それを認識してから、一真は同じ轍は踏まないように注意してきていたのだ。
だが、いかに一真と言えど、常に気を張り続けることは出来ない。
どこかで自分が気を抜いた時に、こちらを把握された可能性も十分ある。
仮にこちらを発見されていたとしよう。
いつから?
どのタイミングで?
自分達の目的、行動はどこまで把握されている?
——分からない。
痛恨だ。
思い当たる節があるとすれば、バッカスの宿で心身を癒やしていた時。
あの時は封神拳を切っていた。
当然、発動時に比べれば、感覚もかなり鈍化していた。
その時にこちらを監視されていたら、絶対に見逃さないとは言えない。
そこまで悩んで、一真は思考を切り替える。
これ以上この事で悩んでいても意味はない。
考えるべきは次だ。
このイレギュラーな事態に、どう対処するか。
口を閉ざして思考に耽っていた一真に痺れを切らしたのか、オラクルが再び口を開こうとする。
が、その前に一真が、思考の海から浮かび上がってくる。
「詳しい状況は、ここで悩んでいても分からん。
どうやらそいつらは、間違いなくこちらへと向かってきている。
……場合によっては、撃退する必要があるな」
冷静に状況を把握しようとしている一真を見て、オラクルも自らの心を鎮めようと努める。
「すまない、一真。
貴方に八つ当たりのような真似をしてしまった」
言葉に冷静さが宿り始めたオラクルの声を受け、一真は笑みを浮かべて返す。
「かまわんさ。
今はそれよりも、奴らをどうするかだ」
一真の言葉を皮切りに、オラクルとリュミナも思考を切り替えた。
そう長い猶予はない。
どうするべきか、素早く決断する必要がある。
たとえ、不確定要素が多かろうと。
高速で頭を回す三人。
考える、考える、考える……。
しかし情報が足りなすぎる。
良い案が思いつかない。
リュミナが無理やり案を出す。
「このまますぐに、王様の洗脳を解きにいって、すぐに逃げるのは?」
オラクルが否定する。
「却下だ。
セレフィーネのことを忘れたのか?リュミナ」
セレフィーネの名を聞き、リュミナの口から小さく声が漏れる。
「あ」
「奴の目を掻い潜って王に近づくのは、この状況だと厳しい」
セレフィーネの撃退が果たせない以上、
バルト王の洗脳を解いたとしても、再び洗脳されるだろう。
謎の軍隊という未知の要素がなければ、王を城外へと連れ出してからという選択肢もあった。
ここに来ても、また“知らない”ということが首を絞める。
敵についての情報、知識。
現状、敵の強さを知らない一真たちは、下手な行動に出れない。
セレフィーネの実力がわからない。
こちらに向かってくる軍隊の正確な実力、そして目的もわからない。
強いものほど、実力を隠す術にも長けている。
相手を目の前にすれば、また話は違うのだろう。
だが今のこの場所からでは、正確な強さを測れない。
分かるのは、こちらに向かってきている軍隊の中には、
明らかに以前戦った空軍部隊よりも強い気配があるということ。
リュミナが怯えを含んだ声で呟く。
「どうしよう。
機会をあらためる?
もっとこちらに有利な時を狙って」
リュミナの呟きを聞き、一真はニヤリと口角を上げる。
「こんなもんさ」
一真を見上げるリュミナの口から、一言漏れ出す。
「え?」
一真は笑みを絶やさず、言葉を続ける。
「こんなもんだって言ったんだよ。
“俺たち”にだけ、都合が良いなんて機会は、そうそう来ないさ」
「一真くん……」
一真はリュミナの頭を優しく撫でる。
すっかりお馴染みの行動だ。
一真は考える。
いや、違う。
考えすぎるのを止めた。
今悩んだところで、答えなど出る訳はないのだ。
次の機会を待ったところで、今回よりマシだという保証も何処にもない。
一真は思う。
自分は慎重になりすぎていたのかもしれない。
未知なる世界に来て、柄にもなく。
今までだってそうだったじゃないか。
予測不能な出来事。
もうダメだと思うような事態。
何度も経験してきた。
なのに、この期に及んで、タイミングを見極める?
一真は笑ってしまった。
この世界での自分自身に。
力は回復した。
心も充足している。
なら、やるべきことはただ一つ。
「よし、じゃあ、軽くやってみっか!」
その言葉は自分自身が、この世界での最初の戦闘で口にした言葉。
そして、一真は預かり知らないが、晶が最初の戦いで口にした言葉だった。
唐突の一真の様子の変化に、オラクルが問いを落とす。
「一真、やってみるとは?」
一真はオラクルに向き直ると、不敵にニヤリと笑って答える。
「こちらに来てる軍隊は、俺がどうにかするさ」
その言葉にオラクルは目を見開いて、驚きで返す。
「なっ!?
どうにかって……どうするつもりだ!
貴方の様子を見るに、弱い相手ばかりというわけではあるまい!
それに軍というくらいなんだ、かなりの数なんだろう!?」
一真は明日の天気でも話すような調子で答える。
「ん~~、とりあえず百以上かな」
今度こそオラクルは絶句する。
その顔を見た一真は、何処か愉快そうに言葉を続けた。
「ははっ。
まあ、なんとか上手くやるさ。
こちらと敵対すると決まった訳でもないしな。
——それよりも」
低くなった一真の声を聞き、二人の表情も引き締まる。
「二人には、バルト王のことを頼む。
あるいは、そちらの方が危険度は上だ」
一真は自らがどちらを担当すべきか考えたのだ。
そして出した結論は、自分が軍の対処に当たること。
理由は幾つかあるが、一番の理由は王の洗脳だ。
魔力を持たない自分には、魂律共鳴核を起動することが出来ない。
故に、魔力を持つリュミナとオラクルに、王の方を任せることにした。
二人は何かを言おうとするが、口を噤んだ。
そして、互いに視線を交わすと、一真に向き直る。
「わかった。貴方のことを信じよう。
くれぐれも気をつけてほしい」
「一真くん。一真くんの強さは分かってるけど、無理はしないでね?」
二人の心配を受けて、一真は力強く頷く。
そして、二人に忠告をする。
「さっきはああ言ったが、駄目だと思ったら退くんだ。
セレフィーネの力が未知数な以上な。
自分達の命を、最優先で考えろ」
それはいつも一真が言っていること。
生きてこそ、次へと繋がるのだ。
言葉に込められた、一真の想いを感じ取ったのか、二人は同時に頷いた。
——この判断が果たして、吉と出るか凶と出るか。
今はまだ、分からない。
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