第228撃:迫りくる無数の気配
最近遅くなってばかりで、申し訳ありません。
待っていてくださり、有難うございます。
時と場所は戻り、ここはガイの店の裏広場。
一真たちはガイたちの訓練をしばらく見守っていた。
やがて一段落したのか、ガイがベンたち三人に声をかけて、こちらへ歩いてくる。
「お前達!そのまま繰り返し練習だ!
先ずは基本を体に覚えさせろ!」
一真の前で立ち止まり、笑みを浮かべる。
「待たせちまったな。
行くのか?」
一真も笑みを返し、肯定の言葉を告げた。
「ああ、今から発つ。
随分と長く休んじまったからな」
二人はお互いに笑みを浮かべたまま、僅かな時間視線を交わす。
出会いは最悪だった。
付き合い自体も長くはない。
それでも不思議と、一真はガイたちのことを嫌いにはなれなかった。
一真はガイの瞳に、僅かな揺らぎのようなものを感じ取り、あえて軽口を叩く。
「何だ?寂しいのか?」
ガイは慌てて視線をそらし、鼻を鳴らして否定する。
「ハンッ!誰が野郎と別れて、寂しがるかよ。
さっさといっちまいな」
一真は笑みを苦笑に変えると、踵を返して扉へ向かう。
隣で見ていたリュミナが、遠慮しがちに声をかけてきた。
「一真くん、いいの?
こんな別れ方で」
一真は笑みを崩さず、しかし答えも返さない。
代わりに口を開いたのはオラクルだった。
「これでいいんだ、リュミナ。
男という生き物はな、時にこういう顔を見せるものだ。
ロイやオルディンがそうだった」
その言葉にいまいち納得がいかないのか、リュミナは不満を込めた言葉を落とす。
「よくわかんないよ」
オラクルも微笑を浮かべ、同意する。
「そうだな。
私もよくわからん」
三人が扉の前に立った時、ガイの言葉が背後から短く投げかけられた。
「あのよっ!……たまには、顔を見せろよ、な」
一真は振り返らず、背後に向けて手を振った。
それで終わり。
それ以上は、何もなかった。
一真は扉を開き、店内を通り抜けて外へと出る。
後をついてきたリュミナが、ポツリと呟く。
「やっぱりわかんない」
一真は無言でリュミナの頭を撫でると、村の外へと向けて歩き始める。
「さてと、気持ちを切り替えよう」
その言葉に、二人とも表情を引き締める。
いよいよエルサリオンへと戻る時が来た。
王の洗脳を解くために。
一真は二人と会話を交わしながらも、思考を深める。
問題となるのは、ファレナ王女に擬態しているというセレフィーネという魔族。
かなりの実力だということが示唆されている。
そして問題となっている洗脳能力。
これまでの情報から察するに、おそらくはユニークスキル。
今の一真は、強力な精神防御技である“静神封界”を会得している。
それで防げればいい。
——防げないほどの能力なら?
絶対にありえないとは言い切れない。
だが尻込みしているだけでは、現状は変わらない。
エルフェリーナの魂を宿すものが、この世界に召喚されたら不味い。
邪神が復活してしまえば、自分でもどうすることも出来ないかも知れない。
危険を承知でも、行くしかないのだ。
三人で考えをまとめながら歩いていると、村の出口までたどり着いた。
ラグナの村の、住人の目に留まらない辺りまで距離を取る。
周囲に誰かの気配はない。
精々がモンスターの気配。
一真は振り返り、オラクルとリュミナへ声をかけた。
「さて、と。
すまないが、二人を抱えさせてもらうぞ」
一真の言葉に、二人は正反対の反応を見せる。
オラクルは唐突なことに取り乱した。
「な、なに!?
いきなり何を!」
リュミナは、また来たかといった表情を浮かべる。
「ああ……“また”」
また。
その言葉にオラクルが、怪訝そうな視線をリュミナに向ける。
「また?まただと?
どういう意味だ、リュミナ」
リュミナは半ば諦めた様子で、どこか達観した笑みを浮かべて答える。
「うん、言葉で話すより、実際に経験したほうが早いよ。
……振り落とされないようにね?」
言い終わるや否や、リュミナは一真にしがみついた。
まるでコアラである。
リュミナの唐突の行動に、オラクルは目を白黒させる。
そんなオラクルに、一真もリュミナも無言の圧力をかける。
『お前も早くしろ』
一真と出会って僅かだが、彼が信頼に値する人物だということは理解できている。
リュミナの様子を見るに、変な意味ではないのだろう。
オラクルは理由も分からずに、それでもリュミナに習って一真にしがみつく。
「うう……ロイ、すまない」
謎の謝罪をしたオラクルを無視して、一真は両手で二人を支える。
「では“飛ばす”ぞ」
リュミナは手に力を込める。
オラクルは意味も分からずに、顔に疑問符。
「?…??」
一真は呼吸を変え、仙気を練り始める。
次の瞬間、オラクルの視界が“流れた”。
「~~~っ!?」
景色を置き去りにする、一真の疾走。
女性とはいえ、人二人を抱えて出せる筈の速度ではない。
いや、それ以前の馬鹿げた速度。
オラクルは何かを喋るために口を開こうとするが、結局は言葉にならない。
結局はその状態が三十分ほど続いて、ようやく一真は速度を落とすと、二人を地面に下ろす。
どうにか喋れるようになったオラクルが、息を整えながらも声を荒げる。
「な、な、何なんだ!今のは!
魔法も使わずに、なんて馬鹿げた速度を出すんだ!」
普段の彼女からは想像できない取り乱し様。
そんなオラクルを気遣うように、リュミナが声をかけてくる。
「お姉ちゃん、気持ちは分かるよ。
私も最初の時は、絶句したから」
もっとも、ラグナの村に向かう時より、更に速度は早かったが。
「ははっ。
悪かった。少々飛ばしすぎたかもしれん」
一真は表情を引き締め、言葉を続ける。
「ここからは気配を潜めながら進んだほうがいいな。
一真が探れる範囲に、不審な気配は今のところ無い。
だが、敵がどのような索敵手段を持っているかわからないのだ。
用心に越したことはない。
二人も気を取り直して、周囲の警戒に当たる。
道中食事を取りつつも、三人は言葉少なめに、エルサリオンへ向けて歩を進める。
時間にして七~八時間といった所か。
三人は遂にエルサリオン城が見える位置にたどり着いた。
いよいよ城への侵入を考えなければならない。
セレフィーネをどう躱すか。
一真はひとまず、周囲の気配を探る。
普段よりも更に遠くまで。
——一真の感覚が、気配を捉えた。
無数の気配を。
「むっ?」
それはエルサリオンの城からでも、城下町からでもない。
更に遠くから。
その気配は、エルサリオンへと向かって来ていた。
よろしければ、ブックマークや評価をお願いします。
感想もいただけますと、励みになります。




