第226撃:閑話・闘神童子の一日(前編)
話を先に進める前に、少しだけ。
……重い話が続いてて……心のエネルギーが。
(`;ω;´)
先を楽しみにしていてくださる方、申し訳ありませんが、お付き合いください。
※補足。
“国営陰陽機関逢魔”とは、私の初長編作品の設定です。
思い入れがある作品なので、よろしければそちらも読んで見てください!
一真たちはバッカスに声を掛けると、
食費と宿泊費の精算を申し出た。
それを聞いたバッカスは、露骨に顔をしかめて首を振る。
「いやいや、いらねぇって言ってるだろ。
一部はガイから貰ってるし、残りは俺の奢りだ」
そう言って笑うが、
一真は小さく首を横に振った。
「宿泊費だけなら、まだしもだ。
食費は……正直、かなりの額になってる。
全部奢られるわけにはいかない」
しばらくは、互いに一歩も引かない問答が続いた。
最終的には、
お互いが半歩ずつ譲り合う形で、
一部を支払うことで話がまとまった。
一真たちは改めて礼を告げ、宿を後にする。
「また来てくれよ」
背中から掛けられたバッカスの言葉が、
胸の奥をじんわりと温めた。
◆ ◇ ◆
途中、一真たちはリリーナの店にも立ち寄った。
目的は、挨拶と食料品の買い出し。
店に入るなり、
一真たちの姿に気付いたリリーナが、
ぱっと表情を明るくする。
だが、ここでも問題が起きた。
「え? 代金?
いえいえ、そんなの要りませんよ。
お礼みたいなものですから」
その言葉に、一真は思わず苦笑する。
バッカスと、同じ反応だった。
それだけ、
ガイたちのことを心配し、
心を痛めていたのだろう。
一真は、先ほどと同じように、
半ば強引に代金を支払った。
既に一度、
リリーナには世話になっている。
さすがに、二度目は甘えられない。
強い説得の末、
リリーナも渋々と代金を受け取った。
買い物を終え、
店を出ようとしたその時。
背後から、リリーナの声が届く。
「あ、もしよければ……
ガイたちの店にも寄ってあげてもらえますか?
きっと、喜ぶと思うから」
その言葉に、一真は振り返って笑みを浮かべる。
「ああ、そのつもりだ。
挨拶はしてから発つよ」
そう言って、
リリーナと笑顔を交わし、店を後にした。
◆ ◇ ◆
しばらく歩き、
ガイたちが経営していた道具屋の前に辿り着く。
その扉を前にして、
一真は思わず苦笑を浮かべた。
(……一番最初に来た時は、印象最悪だったな)
ちらりと横を見ると、
リュミナも似たような表情をしており、
思わず苦笑が深まる。
そんな二人を見て、
オラクルがぽつりと呟いた。
「ここが、ガイたちの店か……。
今のガイたちしか知らない私からすると、
そんな悪どい商売をしていたなんて、信じられないな」
それも無理はない。
オラクルは、
当時のガイたちを見ていない。
それどころか、
出会った直後に、
ガイが我慢できずにサインをねだっていたのだ。
トリニティ・レギオン――
特に精霊奏者オラクルの、熱烈なファンだったらしい。
あの時のガイの表情を思い出し、
一真は笑いを噛み殺しながら扉を開けた。
「ひとまず、入ろう」
店内には、人の気配がない。
だが、
裏口の先にある広場から、
四人分の気配がはっきりと伝わってくる。
「……やってるな」
そう呟き、
一真は裏口のドアを開いた。
◆ ◇ ◆
広場では、
ガイたち四人が武術の訓練に励んでいた。
「ベン! そうじゃねぇ!
体の各部位を、バラバラに考えるな!
拳を打つ時も、腕だけで打つんじゃねぇ!」
「は、はい! アニキ!」
ガイの叱咤が飛ぶ。
その姿は、
かつての胡散臭い商人ではなく、
完全に“師”のそれだった。
視線に気付いたガイは、
こちらを一瞥して笑みを浮かべる。
だが、
訓練を止めることはしない。
「アデム! ロブ!
体格の良さに頼るな!
身体に振り回されてんぞ!」
「身体に使われるんじゃねぇ、
身体を使うんだ!」
「はい! すんません!」
「わかりました!」
怒声を浴びながらも、
三人の表情に苦痛はない。
むしろ、
どこか楽しそうですらある。
その様子を眺めながら、
一真は、ふと遠い記憶を思い出していた。
もう何年も会っていない、
師の姿。
(……姫咲さん。
今頃、どうしてるんだろうな……)
◆ ◇ ◆
時と場所は変わり、ここは地球の何処か。
目の前に立つのは、
禍々しい瘴気を放つ“悪神”。
今代の闘神童子――
月城姫咲は、紅い仙気を全身に巡らせ、
それを拳へと集中させる。
仙気の流れは、
いっそ芸術的とすら言えるほど、
無駄がなく、滑らかだった。
悪神が、
瘴気を含んだ気を幾つも放つ。
「■■■■!」
だが姫咲は、
それらを紙一重でかわし、
あるいは手足で弾き飛ばす。
神甲天衣。
仙気による、防御の要。
そして、
一気に間合いへと踏み込み、
腰を落として拳を叩き込む。
「臥竜——崩拳!」
轟音。
仙気が悪神の内部で爆発し、
存在そのものを封殺した。
……周囲に、他の気配はない。
それを確認して、
姫咲はようやく息を吐いた。
「……ふぅ。
これで、この辺りはしばらく大丈夫ね」
しばらくして、
複数の人影が駆けつけてくる。
世界各地に存在する、
協力者たち。
時に戦い、
時に後始末を担う者たち。
その中の一人――
陰陽師の女性が、
姫咲に駆け寄る。
「姫咲さん!
今回もお疲れさまでした!」
姫咲は、
柔らかな笑みを浮かべて応じた。
「ありがとう。
貴方たちが助けてくれるお陰で、
私も思う存分、戦えるわ」
その言葉に、
女性は照れたように頬を染める。
「い、いえ!
姫咲さんにそう言ってもらえるなんて、光栄です!
この辺りの地形修復は、我々“逢魔”にお任せください!
式神を使って、可能な限り修復します!」
逢魔――
正式名称、『国営陰陽機関逢魔』。
悪神とは別の脅威、
“妖魔”を討ち封じる、現代を生きる陰陽師集団。
彼らもまた、
封神の徒の協力者だった。
女性は、
姫咲を気遣うように続ける。
「姫咲さんは、
一度セーフティハウスに戻って、休んでください。
最近、ほとんど休んでいないと聞きました」
「休息も、大切な任務の一環です」
一呼吸置き、
女性は言葉を重ねた。
「その間は、
源十郎さんが穴を埋めると仰っています」
その名を聞き、
姫咲ははっきりと安堵の表情を浮かべた。
古賀源十郎。
“七代目闘神童子”。
姫咲の師匠。
跡目を譲った今もなお、
姫咲と互角の実力を持つ男。
片腕と片目を失ってなお――である。
その人物が控えている。
それは、
何より心強い支えだった。
姫咲は肩の力を抜き、
女性へと告げる。
「先生が来てくれるなら、安心ね。
……ありがとう。
お言葉に甘えて、少し休ませてもらいます」
「後は、お願いね」
その言葉に、
女性は満面の笑みで答えた。
「はい!
任せてください!」
姫咲は軽く頭を下げ、
最寄りのセーフティハウスへと歩き出す。
実に一週間ぶりの、
まともな休息だった。
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