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第224撃:地獄を選ぶ者、仮面が嗤う夜

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有難うございます!

セレフィーネは地面へと静かに降り立つと、即座に建物の物陰へと身を滑り込ませた。

人目を避けるように気配を殺し、城下町の外へと向かう。


本来なら、飛行魔法で一気に移動したいところだ。

だが――今の状態では、それは許されない。


外見的には人間と変わらないとは言え、魔族の自分がこんな場所にいるのを見られるのは不味い。

余計な魔力反応を残すわけにもいかなかった。


(……素早く事を済ませ、戻ってこなければ)


自分が暴走している自覚は、確かにある。


ヴェイルをアビス・ケイルの外に出すという判断。

それが、どれほど危険な賭けかも、理解している。


分かっていてなお――

自らを、止めることができなかった。


自分は、グラウザーンを愛している。


心の底から。

理屈など存在しないほどに、愛おしくてたまらない。


だから、グラウザーンのためならば、自身がどれほど汚れようが構わない。


いかに下卑た真似であろうと。

どれほど残酷な行いであろうと。


そのすべてを、自分は引き受ける。


この手を、血で染めよう。


——でも……正直なところを言えば。


セレフィーネは、グラウザーンに昔のように戻ってほしかった。


スラムの孤児に、思い切り髭を引っ張られても、

涙目になりながら、それでも笑っていた、あの頃に。


グラウザーンが変わり始めてから、ここに至るまで――

辛いことが、あまりにも多かった。


悲しいことが、数え切れないほどあった。


それでも、耐えられたのは。

グラウザーンへの想いと、ガーラという血の繋がらぬ弟の存在があったからだ。


全身全霊で、自分たちを慕ってくれた子。

自分たちのために、血の滲むような努力を重ねてきた子。


だが、もう――

そんなガーラはいない。


自分は、なぜ――

あの時、ガーラに任務を任せてしまったのか。


別の誰かであれば、

ガーラは、今も生きていたはずなのに。


悔やんでも、悔やみきれない。


この自責の念は、きっと生涯、付き纏う。


……勝手な理屈なのだろう。


自分もまた、目的のために多くの者を犠牲にしてきた。

罪もない命を、道具のように扱ってきた。


自分は、地獄に落ちるだろう。


——それで、いい。


グラウザーンのためならば、

喜んで地獄の業火に灼かれよう。


でも。


だけど。


それでも――。


……本来なら。

グラウザーンのことを考えれば、今の行動は取るべきではない。


頭では分かっている。

理解している。


だが、感情が、それを許さない。


——一応、保険らしきものは打ってきた。


此度の勇者召喚で呼ばれた三十余名のうち、

生き残った十名弱の上級勇者。


その者たちを操作し、

それとなくファレナ王女――すなわち、ヴェイルの監視役とした。


もっとも。

いくら上級とはいえ、ヴェイルの前では、ほとんど意味をなさないだろうが。


そして、もう一つ。


セレフィーネは、痛恨のミスを犯している。


召喚勇者の中には、千里眼のスキルを所持していた者もいた。

様々なものを見通せる、極めて希少な能力。


直接的な戦闘能力はない。

だが、それでも価値は計り知れなかった。


それにも関わらず――

先の魔王城襲撃の際、その者も戦地へ送り込み、失ってしまった。


グラウザーンから極秘に命を受けた嬉しさに浮かれ、

三十人以上の勇者を、全て送り込んでしまったのだ。


(……こんなことなら、千里眼の持ち主だけでも手元に置いておけばよかった)

(そうすれば、草薙一真の動向も掴めたかもしれないのに……っ)


……過ぎたことだ。

今更、嘆いても仕方がない。


(まあいいわ)

(今はとにかく、天城紫音と千歳柚葉の抹殺を考える)

(速やかに消して、すぐに戻る)

(それまでの間……時間を稼げれば、後は用済み)


セレフィーネは、人目につかぬまま城下町を離れ、速度を上げた。


目的地は――嘆きの渓谷。

その次は、オルディンが住んでいたという工房兼居住地。


ガーラの敵の情報を求めて。


◆ ◇ ◆


城の通路を、数人の少年少女が歩いている。


それは、地球から召喚された晶たちの同級生――

召喚勇者の、生き残りだった。


「姫様も一体、何だってんだ?

いきなり“自分を”見張っててほしいなんてさ。

変なこと言い出してよ」


少年の呟きに、少女が肩をすくめる。


「私に聞かれても分かるわけないでしょ。

ただまあ……お姫様が言うことなんだから、何か意味があるんじゃない?」


別の少年が、気楽そうに続けた。


「別にいいじゃん。

最初に魔王軍と戦ってから、大きな戦いもなくて退屈だったしさ。

暇つぶしだと思えば」


彼らの顔には、

多くのクラスメイトが命を落とした悲しみは、微塵もなかった。


それどころか――

そんな事実すら、忘れてしまったかのようだった。


セレフィーネの洗脳が、深く、強く根付いている。


彼らは皆、優秀なスキルの持ち主。

ユニークスキルこそないが、それでも十分に強力だ。


そのスキルは魂に深く根差している。

そして、その“根”を伝って、洗脳は彼らを縛り付けていた。


王女ファレナの私室の前に辿り着き、一行は足を止める。


一人の少女、涼子が、ため息混じりに言った。


「とりあえず、二人ずつ交代で見張ろうか。

残りは廊下で待機ね」


少年の一人、伸二が露骨に顔をしかめる。


「げぇ……。

待機組はこんな場所で突っ立ってるだけかよ……ダリィ……」


涼子は、呆れたように肩を竦める。


「衣食住、全部面倒見てもらってるんだからさ。

こういう時くらい、恩返ししないとでしょ」


それでも納得できないのか、伸二は愚痴を続ける。


「勝手に召喚したのは向こうだろ?

衣食住くらい、当たり前の保証だってーの」


涼子はそれを軽く流し、ドアをノックした。


「はいはい。いいから入るわよ」


コンコン。


少しの間を置いて、清楚な声が返ってくる。


「はい。開いておりますよ。

どうぞ、お入りください」


涼子は慎重にドアを開き、伸二と共に中へ入った。


ドアが閉じられる。


残された者たちは、退屈そうに廊下の調度品へと視線をやった。


——時間にして、ほんのわずか。


「ひっ!! やめっ——」


部屋の中から、伸二の悲鳴が響いた。


「……なに? 今の……」


「悲鳴……だよね……?」


聞き耳を立てると、今度は涼子の声。


「た、助け——!」


……それきり、音は途絶えた。


喉を鳴らしながら、少年の信行が呟く。


「……静かに……なった……

……なにが……あったんだ?」


少女の優が、小さく言う。


「……入って……見る……?」


信行は無言で頷き、二人はドアを開いた。


——なぜ、この時点で逃げなかったのか。


——なぜ、部屋へと入ってしまったのか。


それもまた、洗脳による判断力の抑制なのだろう。


部屋で二人を出迎えたのは、王女ファレナ。


その顔には――

隠しきれぬ愉悦が、浮かんでいた。


「あら?

まだ、退屈しのぎのオモチャを用意してくれていたのですね」


唇が、ゆっくりと歪む。


「……それじゃあ………

いい声で、哭いてね♪」


そう言って、

王女の仮面を被った“ナニカ”は、楽しそうに微笑んだ。


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