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第220撃:大人の義務、子供の権利

ブックマーク有難うございます!

嬉しい……本当に嬉しいです!

シルヴァの承諾が得られたことで、ロイは静かに胸を撫で下ろした。

表情には出さないが、張り詰めていたものが、ようやく一つほどけたようだった。


それからロイとシルヴァは幾つか言葉を交わし、最後に短く頷き合う。

そしてロイは立ち上がると、晶たち三人へと視線を向けた。


「三人とも、どれくらいの期間になるかは分からないが、ここで頑張るんだ。

本当は側に居てあげたいけど、オルディンを一人には出来ないからね」


そう言って、ロイはどこか申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。


その姿に、晶たちは胸の奥を締め付けられたような思いになり、思わず声を上げた。


「その、ロイさん……ごめんなさい……迷惑をかけてしまって」


「ごめん……ロイさん。

オレたち、ロイさんにもオラクルさんにも、そしてオルディンさんにも世話になっちゃった」


「本当にすみません……。

私達が未熟なばかりに……」


重なる三つの声は、どれも小さく、沈んでいた。


それを聞いたロイは、ふっと微笑み、ゆっくりとしゃがみ込む。

視線を合わせるように、三人の前に膝をついた。


「最初に謝っておくよ。

君達くらいの年齢だと、この言葉は痛みになるかもしれない」


そう前置きしてから、ロイは一人ひとりの顔を見渡し、言葉を続ける。


「君達はまだ子供だ。

そして俺……儂は大人なんだよ」


一瞬、言い直したことにも意味があるかのように、ロイは続ける。


「大人には、子供を守る義務がある。

そして、子供には大人に甘える権利があるんだ」


その言葉は、静かで、だが確かな重みを持っていた。


「もっと、大人を頼りなさい。

老いたりとは言え、君達を支えられるくらいの気概は、まだ持っているつもりだ」


少しだけ目を細め、穏やかな声で続ける。


「……子供であることを、未熟であることを、

それ自体を罪だとは思わないで欲しい」


そうしてロイは立ち上がり、最後に、胸の内から溢れた言葉を告げた。


「儂たちは、君達に頼ってもらえて、嬉しいんだよ」


その一言で、三人の心に、じんわりと温かいものが広がった。


胸の奥が熱くなり、目頭がじわりと滲む。


紫音は慌ててコートの袖で目元を拭うと、照れ隠しのように、少し強めの声を出す。


「一真さんにしてもオルディンさんにしても、ロイさんにしてもオラクルさんにしても……

……大人ってズルい……ズルいよ」


ロイは答える代わりに、三人の頭を優しく撫でた。


その手の温もりは、一真の大きな手から伝わるものとは違う。

包み込むようで、支えるようで、背中を押すような温かさだった。


ロイはそのまま、少し離れた場所で静かに見守っていたシルヴァへ声を落とす。


「それじゃあシルヴァ、この子達をよろしく頼んだ。

……特に晶くんのことは——」


言い終わる前に、シルヴァが静かに応じる。


「ああ、分かっている。

里の者には、エルフェリーナの事はバレないように注意する」


そう言って立ち上がると、シルヴァはロイへ拳を突き出した。


ロイは一瞬だけ目を細め、その拳に自らの拳を軽く打ち付ける。


「ロイ……死ぬなよ」


「シルヴァ、お前こそな」


短い言葉の応酬。

だが、互いの覚悟を確かめ合うには十分だった。


その言葉を最後に、ロイは翠霊郷を後にした。


残された場に、僅かな沈黙が訪れる。


晶たちの身体に、知らず緊張が走る。


それを表情から読み取ったシルヴァは、わざとらしく明るい声を投げかけた。


「ほらほらお前達、今からそんな顔をしていてどうする。

これから先が思いやられるぞ」


そう言いながらも、次の瞬間には表情を引き締める。


「……早速だが、これからの方針を話しておこうと思う」


三人は無言で頷いた。


それを確認して、シルヴァは説明を始める。


「先ずは、ここの生活に慣れることだ。

最低限の支援はしてやるが、基本は自分達で食料や水を調達しろ」


周囲を示すように視線を巡らせる。


「ここは資源が豊かだ。

そう難しい話ではない」


それを聞いて、晶が首を傾げた。


「戦い方の修行なんじゃ?」


シルヴァは苦笑を浮かべ、首を横に振る。


「お前たちはそれ以前だ。

帰らずの森で数日は生き抜いたと聞いているが……」


一拍置き、はっきりと言う。


「正直、それは運が良かっただけだ」


そして、重ねるように続ける。


「……一真という男がいなければ、自分達がどうなっていたか。

俺が言わなくても分かるな?」


三人の脳裏に浮かぶ答えは、一つしかない。


——死。


一真がいなければ、三人は帰らずの森で確実に命を落としていただろう。


紫音と柚葉が生きて合流できたのも、実力ではなく、運だった。


そのことを理解した表情を見て、シルヴァは一つ頷く。


「生きること、それ自体が強さだ。

戦う強さの前に、お前たちは生き抜く強さを鍛えろ」


静かに、だが断言する。


「戦い方の修行は、それからだ」


そう言って、シルヴァは晶へ視線を向けた。


「オルディンからも言われただろうが、お前も戦う術を身につけろ。

俺の元にいる間に、何かしらのアーツを習得してもらう」


そして付け加える。


「スキルは便利だ。

だが、それが全てではないことも分かるな?」


晶は迷いなく、力強く頷いた。


「はい!

ボクも……守られているだけじゃなくて、皆と一緒に戦いたいです!」


その返答に、シルヴァは満足そうに頷く。


「よし。

では――」


一拍置いてから、淡々と言い放つ。


「三人とも、その服を脱げ」


次の瞬間、三人の顔が一斉に真っ赤になる。


「え!?」


「はぁ!?」


「なっ……なっ!?」


慌てた様子を見て、シルヴァは即座に声を荒げた。


「まて!勘違いするな!

……オルディンに作ってもらった、そのコートを脱げと言っている」


三人は同時に胸を撫で下ろした。


それを見て、シルヴァは説明を続ける。


「紫音、その腰の剣も使用禁止だ。

使っていいのは、俺が用意した武器だけ」


武具を示しながら言う。


「武具の性能に頼らず、先ずは生きてみろ」


柚葉が恐る恐る問いかける。


「えと……具体的には、私達は何をすれば?」


シルヴァはにやりと笑った。


「なに、今までと大して変わらん。

この先の入り組んだ森で、少しの間、サバイバルをするだけだ」


そして、どこか意地悪な笑みに変える。


「当然、モンスターもいる。

帰らずの森に比べれば、軽いもんだがな」


すぐに真剣な表情に戻り、続ける。


「問題なく生きられたら、その後で戦い方の修行だ。

晶、お前にも武器を渡す。狩りには積極的に参加しろ」


そう言うや否や、家の中にあった道具箱を開け、幾つかの武器を取り出した。


簡素な剣。

飾り気のない槍。

弓矢、そしてナイフ。


それらを三人に渡し、思い出したように晶からマジックバッグを取り上げる。


「っと。忘れるところだった。

このバッグも無しだ」


預かった装備を道具入れにしまい込み、シルヴァは三人を連れて家を出る。


「ついてこい」


全員が外に出たことを確認してから、シルヴァは頷いた。


「よし、では行くぞ。

しっかりと生き残れ」


そして、最後に念を押す。


「一応、俺も注意はしておく。

だが、俺が助けるのは不可抗力な事態のみだ。

それ以外は、たとえ危険でも手は出さん」


——嘘だ。


シルヴァは、決して注意を怠るつもりはない。


それでも限られた時間で、三人を出来る限り強くするには、

あえて突き放すことも必要だった。


それが、大人の役目なのだから。


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― 新着の感想 ―
シルヴァさんカッコイイなぁ…! ちょっと言葉足らずなところがまた良い!! 3人ともがんばれーーー!!!
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