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第219撃:翠霊郷の番人と、懐かしき魂

また遅くなって……。

申し訳ありません。

目の前に立つエルフ——シルヴァは、

どこか地球の迷彩服を思わせる、実用性を重視した衣装を身に纏っていた。


上から羽織ったマントは使い込まれた跡があり、

左目を縦に走る大きな傷が、その顔立ちに歴戦の風格を与えている。


服の上からでは分かりにくいが、

細身の者が多いエルフの中では、明らかに体格が良い部類だ。

無駄のない筋肉が、長年の戦いや森での生活を物語っている。


晶たち四人が無言のままシルヴァを見つめていると、

耐えきれなくなったように、彼の方から声が飛んできた。


「ロイ!お前!

随分と久しぶりだな!最近は顔を見せなかったから、心配していたんだぞ!」


その声音は大きく、快活で、

再会を素直に喜ぶ感情が隠されていない。


そう言ってから、シルヴァはロイの背後にいる晶たちへと視線を移す。


「ん?その者たちは?

お前がここに人を連れてくるとは……どういった風の吹き回しだ?」


その言葉に、ロイは一瞬はっとしたように表情を強張らせ、

すぐに取り繕うように言葉を返した。


「い、いや……驚いたな。

まさかここに来て、いきなりお前に会えるとは思ってなかった」


一度息を整え、慎重に続ける。


「……最初に会えたのがお前で良かったが、

さて、なんて説明したものか……」


ロイの様子から何かを察したのだろう。

シルヴァは小さく息を吐き、先に提案を口にした。


「訳あり、ということか。

……ここでの立ち話もなんだな。

他の者たちに見付かると、少々厄介なことになる」


そう言って、踵を返す。


「……ついてこい。

俺の住処に案内しよう」


そのまま森の奥へと足を踏み入れていく。


ロイと晶たちは顔を見合わせ、無言で頷き合うと、

シルヴァの後を追った。


森の中に入ると、奇妙な感覚に包まれる。


誰かに見られている。

だが、それは警戒や敵意ではない。


嫌な感じはまるでなく、

どこかくすぐったいような、落ち着かない感覚。


特に晶は、それを強く感じていた。


(……なんだろう……)

(なにか……誰かが、喜んでいる……?)


思わず零れたその呟きに、

先頭を歩くシルヴァが足を止めず、背中越しに声を掛けてきた。


「精霊が随分と騒がしい。

それに……お前から、妙に懐かしい、不思議な気配がする」


一瞬の間を置き、低く続ける。


「……嫌な気配じゃないがな。

お前は一体、何なんだ?」


晶が言葉を探すより早く、ロイが割って入った。


「シルヴァ……その話は、お前の家に着いてからにしてくれ。

俺たちがここに来た理由なんだ。

ここでは話せない」


その切実な声に、シルヴァは短く答える。


「……分かった」


それ以上は聞かず、歩みを再開した。


最初は人の手が入った道を進んでいたが、

途中から明らかに“道”とは呼べない場所へと入っていく。


それでも晶たち三人が不安を覚えなかったのは、

ロイが落ち着いていたこと。

そして、この森そのものが、彼らを拒んでいなかったからだろう。


緑は濃く、空気は澄み、

精霊の気配が常に近くにある。


道中、枝にたわわに実る果物を見つけた紫音が、

気軽な調子で声をかけた。


「あのー……シルヴァさん。

この果物って食えるのか?

というか、食ってもいいの?」


シルヴァは振り返り、苦笑混じりに答える。


「フッ……好きにしろ」


その一言で十分だった。


紫音は適当な果物をもぎ取り、遠慮なく齧りつく。


「——っ!?

なんだこれ!?うまっ!」


その様子に釣られ、晶と柚葉も果物を口にする。


「……っ、これ……凄く美味しい……」


「ほんとう……味が濃くて、でも重くない……」


三人はロイの言っていた“恵みの宝庫”という言葉を思い出し、

気付けば果物をいくつも平らげていた。


その様子を横目に見つつ、

シルヴァは歩調を緩めることなく先へ進む。


やがて、視界が開け、巨大な大木が姿を現した。


その太い枝の上に、

一見すると簡素な小屋が建てられている。


「……あれだ。

あれが俺の住処だ」


木製の梯子を軽々と登り、小屋へ入っていく。


「ついてこい」


四人も後に続いた。


中は外見以上に広く、

生活に必要な物が無駄なく整えられている。


シルヴァは簡易的な台所へ向かい、

人数分の紅茶を用意して戻ってきた。


「とりあえず、これでも飲め。

この森で採れた果物を加工した茶だ。

味は悪くない」


口に含んだ紅茶は、甘酸っぱく、

後味がすっと消えていく。


——美味い。


晶たち三人が自然と肩の力を抜いたのを見て、

シルヴァが本題に入った。


「さて、説明してもらうぞ、ロイ。

この森に人間を連れ込めば、歓迎されないことは知っているだろう?」


ロイは一瞬言葉に詰まり、

それでも覚悟を決めて口を開いた。


「シルヴァ。

これから話すことは……誰にも言わないでくれ。

誰にもだ」


その真剣さに、シルヴァも頷く。


「……分かった。誓おう」


ロイは深く息を吸い、

オルディンたちから聞いた話、

そして自分が知った真実を語り始めた。


話が進むにつれ、

シルヴァの表情は次第に険しさを増していく。


無言で紅茶を口に運ぶ回数だけが、静かに増えていった。


やがて話が終わり、

沈黙の中で、シルヴァは晶たちへ視線を向ける。


「……正直、信じられん」


ロイが何か言おうとした瞬間、

シルヴァは手で制し、続けた。


「そこの子……晶と言ったな。

その子を直接、この目で見なければな」


深く息を吐き、低く呟く。


「……精霊が騒がしくなるはずだ。

まさか、エルフェリーナの魂とはな」


晶を見る目が、鋭さを失い、どこか敬意を帯びる。


「その子から感じる不思議な感覚……

それは、女神のものだったか……」


そして三人を見渡し、ロイへと言った。


「……話に出てきたお前の仲間のドワーフ——オルディンだったな。

そいつの判断は正しい。

確かに他の何処かに行くくらいなら、ここのほうが見付かる危険は少ない。

お前にこの子達を託して、自分はここに来なかった事を含めて、評価できる」


ロイはしばらく沈黙し、

やがて、静かに尋ねた。


「……この子たちのことを、頼めるか?」


シルヴァはすぐには答えず、問い返す。


「その前に……お前はどうするつもりだ?」


ロイは一度、晶たちを見る。

そして、覚悟を込めて答えた。


「俺はオルディンと行動を共にする。

あいつも魔王軍に目を付けられている可能性がある」


「道具屋は……しばらく休業だな」


少し考え込んだ後、

シルヴァは静かに頷いた。


「……分かった。いいだろう。

事が事だ……知らぬ存ぜぬでは済まん」


その言葉に、

晶たち三人の表情が、静かに引き締まった。


——翠霊郷での生活が、

今、動き出そうとしていた。


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