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第217撃:老いた心、託された未来

217撃は、少し長くなってしまいました。

読みづらかったら申し訳ありません。

四人の説明を聞く内に、みるみるとロイの表情は険しくなっていく。


 ロイは説明の最中、何度か質問をしたが、基本は四人の話の聞き役に徹していた。


 どれだけ時間が経過したのか、ロイが入れた茶はすっかりと冷めてしまい、香りも飛んでいる。


 説明も一段落。


 僅かに流れる深い沈黙。


 やがてその沈黙を破るように、ロイはポツリポツリと話し始める。

その顔には、信じられないと言った表情が浮かんでいる。


「……本当なのか? 女神エルフェリーナの魂? 晶君の中に?」


 その問いに答えたのはオルディン。


「ああ、本当じゃ。ワシら四人、間違いなくエルフェリーナ様の声を聞いた

。頭の中に、直接声が響いてきたんじゃ」


 ロイは四人の顔を順に見やり、晶の前で視線を止める。


「それは……いや、しかし……」


 信じられないと言いたい。

だが、オルディンがその様な嘘をつく性格ではないことを、ロイはよく分かっていた。


 紫音や柚葉の瞳にも、偽りの色は見られない。


 何よりも晶――


 晶の変容こそが、あまりにも聞いた話が事実であると、物語っている。


(確かに以前会ったときとは別人だ……。

最初は確かに女の子に見間違えたが、今は見間違えるとかいう話では……)


 ロイはエルフェリーナの話を、無理やり頭の隅に追いやると、他にも気になったことを聞く。


「……バルト国王……それにファレナ姫の事も本当なんだな? 

……セレフィーネ……それに洗脳……」


 確かにおかしいとは感じていた。


 あれほど民を思いやり、心優しかった王も姫も、人が変わったようだった。


 ロイはエルサリオンが好きだった。


 だからこそ、冒険者を引退した時も、エルサリオンの城下町に道具屋を開いた。


 活気がある町とは言え……いや、活気がある町だからこそ、良からぬことを考える者もいる。


 そんな者達に若き冒険者たちが食い物にされないように、後押しをしてやれるように、ロイは道具屋になったのだ。


 なのにも関わらず、ロイはエルサリオンを去った。


 王と王女が変わってから。


 おかしいとは感じていた。

あまりにも変わりすぎていると。


 だがまさか、魔族の女がファレナ姫に成り代わっているとは思わなかった。


 現魔王が、ファレナ姫を保護してくれているというのが、せめてもの救いか。


 ロイは視線を伏せ、重い口を開く。


「そんな事になっていたとはな」


「……オラクル……最近は姿を見せないから、どうしたのかと思っていたが……

あいつ、一人で王の洗脳を解こうと……」


 なぜ自分に話してくれなかったのかとは言えない。


 言われなくても、理由は分かるのだから。


 現役を引退したロイに、危険な真似はさせたくなかったのだろう。


 だからこそ、同じく現役を退いていたオルディンにも頼らずに、たった一人で動いていたのだ。


「……オラクル……すまない……」


 深い後悔を滲ませたロイの呟きを聞いて、オルディンが静かに声を出す。


「……自分がどれだけ狭い世界に閉じこもっていたか……気づいたか?

 ……まあ……ワシも人のことは言えんがな……」


 再び店内に沈黙が落ちる。


 その沈黙を嫌ったのか、ロイは立ち上がって五人分の紅茶を入れ直す。


「……すっかり冷めてしまったな。入れ直そう」


 ロイは紅茶を入れつつも、背中越しに声をかけてくる。


「……リュミナちゃんが言っていたという、オラクルが向かったダンジョン……。

おそらくは前世界魂律遺構だろうな」


 ロイの言葉にオルディンは頷く。


「……じゃろうな……」


 二人の会話に、晶が疑問を挟んだ。


「前世界魂律遺構……ですか? 一体どういう……?」


 その問いに、紅茶を入れ直して戻ってきたロイが答える。


「俺達も詳しいことは知らないんだよ。すまないね。……ただ」


 晶が首を傾げて先を促す。


「ただ?」


 ロイの言葉を引き継いでオルディンが話をする。


「ただのう……人を殺めることに対する忌避感すら麻痺させる洗脳。

それほどの洗脳を解けるアイテムがあるとすれば……

様々なアーティファクトが眠っていると言われておる、そこしかない」


 元来、催眠や洗脳では、人に殺しをさせることは難しいとされる。


 ましてや相手は地球で育った、戦いとは無縁の子供たち。


 たとえ洗脳をされていようが、心の底で抑制がかかるはずなのだ。


 しかし、紫音や柚葉の話を聞くと、洗脳された勇者たちは、人の命を躊躇わずに奪っていたという。


 召喚されて僅か二日目でそれほどの洗脳。

それは最早、ただの洗脳ではない。


 人の本質――それこそ魂にすら干渉するような力による、洗脳なのかもしれない。


 セレフィーネという女魔族の異質さが、不気味に心に染み込んでくる。


 入れ直した紅茶を一口啜り、ロイが再び口を開く。


「オラクルのことだ。バルト王の洗脳を解くために、様々な手を尽くしたんだろうな

。だが、どんな手を使っても洗脳は解けなかった。

そんなあいつが最後に縋ったのが……実体の知れないアーティファクト……か」


 ロイの心に、再び後悔が押し寄せる。


 ロイはオルディンに向けて、一言言葉を落とす。


「お前の言うとおりだよ……オルディン。

俺は、あまりにも内側に、閉じこもりすぎていたのかも知れないな。

肉体の衰えだけではなく、いつの間にか……心も老いていたのかもしれない」


 オルディンは苦笑を浮かべて言葉を返す。


「言ったじゃろうが。

ワシも人のことは言えんと。

昔のワシなら、オラクルの元へと飛んでいっとったわい」


 半分本当で半分は嘘。


 オルディンは一真から、晶たち三人を託された。

たとえ現役時代の自分でも、そんな三人を置いて、オラクルの元へと行くことは無かっただろう。


 ロイの口から小さく声が漏れる。


「……一真さんとリュミナちゃんは……無事にオラクルと出会えただろうか……」


 そんなロイの言葉に、晶、紫音、柚葉の三人の言葉が見事に重なった。


「「「絶対に大丈夫です!」」」


 ロイは驚きに目を見開いて、紅茶を口に運ぼうとしていた手を止める。


 三人は口々に、自らの想いを口にする。


「一真さんなら……一真さんなら絶対に大丈夫です!」


「オレも柚葉も、晶ほど一緒にいた時間は長くないけどさ……

それでも一真さんなら大丈夫って言える」


「何度か一真さんの戦いを見せてもらいました。

私には、一真さんが負ける姿が想像できません。

一真さんならきっと……」


 短い言葉に込められた、三人の想いを感じ取ったロイは、柔らかな表情を浮かべた。


(……そうか……この子達は、一真さんのことを……)


 ロイはカップの紅茶を一気に飲み干すと、オルディンに向かって問いを投げる。


「それでオルディン、今回俺の下にこの子達を連れてきた理由は? 

俺とお前の二人で、この子達を魔族から守ろうという話ではないんだろう?

エルフェリーナ様の魂ともなると、あまりにも事が大きすぎる」


 オルディンはにやりと笑い、言葉を返す。


「うむ、当然じゃ。

この子達のこれからを考えれば、今よりもっと強くならねばならん。

守られているだけではダメなんじゃ」


 そう言って自身も残った紅茶を一気に飲み干す。


「……ロイよ。この子達を、エルフの里に――翠霊郷へと案内してやってくれ」


 ロイは驚きの声で返す。


「なに? 翠霊郷だと? ……それは……」


 オルディンは言葉を続ける。


「話を聞く限りじゃが、過激派の連中は、思っていたよりも危険じゃ。

いくらスキルの進化を果たしたとはいえ、今の三人では命を落とすこととなるやもしれん。

じゃから先ずは、こやつ達に力の使い方を覚えてもらう。

よもや魔族どもも、エルフの里に人間が隠れているとは思わんじゃろうしな」


 オルディンは言葉の最後にロイに問う。


「……いたじゃろう?以前お主が話していた、変わり者のエルフ。

どうにかその者に、晶たちのことを頼めんか?」


 ロイはすぐに誰の事か思い至り、その者の名を告げる。


「……シルヴァの事を言っているのか?」


 オルディンは嬉しそうに頷き、肯定で返す。


「おお! そうじゃそうじゃ! 確かシルヴァと言う名じゃったな!」


 しかし嬉しそうなオルディンとは対照的に、ロイの表情は明るくない。


「ふむ……シルヴァか……。

確かにシルヴァなら、紫音ちゃんと柚葉ちゃんの師匠には適任かも知れないが……」


 オルディンの表情も僅かに曇る。


「……いかんのか?」


 ロイは首を横に振り答える。


「いや、駄目だと決まったわけじゃない。

シルヴァ個人に限っての話ならば、受けてくれるかも知れない。

……だが、翠霊郷の中に留まるとなれば、他のエルフが何と言うか……。

俺も何度か翠霊郷に入れてもらったことはあるが、あまり良い顔はされなかったからな。

……三人にとっては、辛い時間になるかもしれない」


 ロイの懸念を聞いても、三人の心は揺るがなかった。


「ロイさん……どうかボクたちのことを案内してもらえませんか?

 ボク……ボクたち……強くなりたいんです。どうかお願いします!」


 そう言って頭を下げる晶。


 紫音と柚葉も、続けて頭を下げる。


「「お願いします!」」


 三人のその姿を見て、ロイはしばし考えていたが、やがて言葉を放つ。


「……分かった。翠霊郷まで案内しよう」


 その言葉に、三人の笑顔が明るく咲いたのだった。


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