第213撃:魂の輝き
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エルフェリーナの深い自責の言葉を聞いた三人は、すぐには何も言えなかった。
誰もが、その重さを理解していたからだ。
軽い言葉で触れていいものではないと、本能的に分かっていた。
だが――ただ一人。
晶だけが、静かに口を開いた。
「エルフェリーナ様……ボク、怒ってなんていません」
その言葉に、エルフェリーナは明らかに動揺した。
『なぜ……ですか?
私が晶さんに宿っていたせいで、貴方はこの世界へ引きずり込まれた。
近くにいた紫音さんたちも巻き込んで……』
声が震える。
『それだけではありません。
私はエルフェリアの安全を優先して、一真さんまで巻き込んだ。
私のしたことは、完全に独善です。
貴方達の安全も気持ちも、度外視した選択……』
痛みを滲ませながら続ける。
『それなのに……なぜ……』
その悲しみを真正面から受け止めながら、晶は穏やかに微笑んでいた。
無理をした笑顔ではない。
どこか達観したような、静かな微笑だった。
「さっきも言った通りです。
ボクはエルフェリーナ様が宿ってくれなければ、生まれることすら出来ませんでした」
一度言葉を切る。
「……クラスメイトが命を落としたことには、思うところがあります。
全部気にしないでください、なんて……ボクには言えない」
それでも、と続ける。
「でも……エルフェリーナ様が、自分勝手な理由じゃなくて、
この世界や、そこに住む命……
それどころか、別の世界の安全まで考えて行動したってことは分かります」
視線を真っ直ぐ前へ向けて。
「……そんなエルフェリーナ様を、ボクは恨めないし、憎めないです」
エルフェリーナは、泣き出しそうな感情を必死に押し殺していた。
まるで、自分には涙を流す資格すらないと言うように。
『晶さん……
なぜ……そんなに優しくあれるのですか……』
その声には、ある種の羨望すら滲んでいた。
苦しさや悲しさ、そして理不尽さに晒されながらも、それでも輝きを失わない晶の魂に。
晶は苦笑を浮かべる。
「ボク、優しくなんてないですよ。
多くを守るために、逃げずに罪を背負ってるエルフェリーナ様のほうが、ずっと優しい」
少しだけ視線を下げる。
「だってエルフェリーナ様、一度も“自分が助かりたい”って言ってない」
そして顔を上げる。
「……それと——」
『……それと?』
晶の笑顔が、少しだけ照れを帯びる。
そこには、無理をしているような影は一切見受けられない。
心からの声。
「地球にいた頃のボクなら、きっと嘆くだけだったと思うんです」
「でも、この世界に来て、色んな人に出会って、色んなことを経験して……
ボクも少しだけ、変われたのかもしれません」
「少しずつ、色んなものを貰って、前に進めたのかもしれない」
そしてはっきりと言う。
「だからボクは、エルフェリーナ様を恨めないし、憎めない」
大きく息を吸う。
「エルフェリーナ様、もう一度言いますね。
……ありがとうございます!
ボクを助けてくれて!」
そして、ぽつりと小声で。
「……それと……一真さんと出会わせてくれて……」
顔が一気に赤く染まる。
その様子を見て、紫音と柚葉は苦笑する。
(分かってたけど……まあ、そうだよな。
晶の今までの態度を見れば。
……一真さん、ほんとズリぃ)
(やっぱり晶くんもそうなんだね。
……やっぱり、一真さんってズルいなぁ)
視線を交わし、同じ気持ちだと理解する二人。
からかうことはしない。
それが本気だと分かっているから。
気恥ずかしさを誤魔化すように、紫音が口を開く。
「あー……エルフェリーナ様。
オレも晶と同じ意見です」
「クラスメイトのことは割り切れないけどさ……
でもそれは、アンタのせいっていうより敵のせいだし」
「試しの洞窟じゃ、めちゃくちゃ助けられたし。
責める資格なんて、オレにはないよ」
柚葉も静かに頷く。
エルフェリーナは言葉に詰まりながら、それでも絞り出そうとするが…。
『……っ……』
結局は言葉にならなかった。
その沈黙は、言葉よりも多くを語っている。
だが晶はそこで気づいた。
エルフェリーナの存在が、急速に希薄になっていくことに。
「エ、エルフェリーナ様!?」
突然の声に三人が振り向く。
「晶!?」
「どうしたの!?」
「何があったのじゃ!」
『……大丈夫です……』
弱々しい声が返る。
『少し表に出過ぎました……
まだ全快ではなく……』
『晶さんの内側で、休ませていただきます……』
四人は安堵する。
眠りにつく前、エルフェリーナは最後に言う。
『晶さん、繰り返しになってしまいますが、出来ることなら治癒の力は使わないでください。
一度女性になってしまえば、二度と男性へと戻れません。
それに、私の存在に感づかれると、様々な危険が押し寄せてくるでしょう。
邪神の眷属なども、その危険には含まれています。
私が言えたことではありませんが、どうか……』
優しく、しかし切実に。
『……どうか自分を大切に……』
そして最後に。
『……ありがとう……私の……大切な子供たち……』
その言葉を残し、エルフェリーナは眠りについた。
晶は内側へ意識を向ける。
そこには確かに、彼女の気配があった。
ほっと息をつく。
それを見て、三人も安心する。
短い静寂。
それを破ったのは紫音だった。
「……なんか色々と凄かったな。
とんでもない話ばかり、聞いちまった……」
柚葉も頷いて言葉を返す。
「うん……そうだね……。
出来ることなら、早く一真さんと情報を共有したいけど……」
再び静寂。
晶がぽつりと呟く。
「……そう言えば一真さん、まだ帰ってこないね……。
一真さんに限って、万が一なんて事ないと思うけど……」
「……会いたいな……」
半ば無意識に、最後にそう言って顔を赤く染める晶。
しかし紫音も柚葉もそれを茶化すような真似はしなかった。
二人も、一真に会いたくて仕方がないのだから……。
そこでオルディンが口を開く。
「……一真のことも気になるがの」
「こちらの問題も考えねばならん」
柚葉が反応する。
「……魔王軍過激派ですか?」
オルディンは頷く。
「うむ。お主達の話に出てきた黒布の男。
なぜ都合よく奇襲できた?」
それだけで柚葉は理解する。
「……監視」
「恐らくじゃがな。
ここも既に知られていると考えるべきじゃ」
晶は申し訳なさそうに言う。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい……」
だがオルディンは豪快に笑う。
「カッカッカ! そんなことは気にせんでええ!
ワシが勝手に深入りしとるだけじゃ!」
優しく続ける。
「……それに、巻き込んだと言うのなら、ワシらエルフェリア人の方じゃろう。
勇者召喚などという術を使い、長きに渡って地球から人を呼び続けてきたんじゃ。
謝るなら、ワシらエルフェリアの民の方じゃ」
そして真剣な顔になる。
「まあ、それは今言っても仕方がない。
それよりも今は、これからどうするかじゃな」
紫音が頭を掻く。
「どうするって言われてもなぁ……」
誰も答えを出せない。
しばしの沈黙。
やがてオルディンが低く言った。
「……ワシに、少し考えがある」
その声には、確かな覚悟が滲んでいた。
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