第212撃:感謝の言葉と、失われゆく代償
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——ありがとう——
晶のその言葉を受け、エルフェリーナの心に温かなものが流れ込んだ。
晶のこれまでを思えば、罵られても仕方がなかった。
どんな罵倒も受け入れるつもりだった。
だが、晶はエルフェリーナを責めなかった。口から出たのは感謝の言葉。
そのたった一言が、自身を責め続けたエルフェリーナにとって、どれほどの救いとなったことか。
晶はエルフェリーナから伝わってくる感情が、それまでとは違うことに気づいた。
少しして、エルフェリーナがポツリと呟いた。
『——ありがとう……ございます——』
ごめんなさいではなく、晶が初めて聞く「ありがとう」。
晶はふと、エルフェリーナが笑った気がした。場にどことなく、温かな空気が流れる。
オルディンが笑みを浮かべて言葉を発した。
「ふむ、晶よ。お主は自分で思っておるより、ずっと凄い人間じゃな」
オルディンの言葉に、晶は顔を赤くする。手を振って謙遜し、最後は俯いてしまった。
「ええっ! そ、そんな! ボクなんて凄くは……」
そんな晶を見て、オルディンは笑みを深めつつ、話を変えた。
「それにしても、とんでもないことになるのう。
エルフェリーナ様の復活……それに付随して、治癒の力が復活する。
今の世の常識が覆るぞい」
そこまで言って、はたと思い出す。
「いや、ちょっと待て……。
晶の中にエルフェリーナ様が宿っていると知れれば……不味いのう……。
世に治癒の力が顕現し出せば、比例して晶の危険が増すこととなる」
オルディンが漏らした不安を、エルフェリーナ自身が否定した。
『いえ……今の状態だと、治癒の力は人に宿ることはありません。
私が力と肉体を取り戻して初めて、治癒の力はこの世界に蘇ります』
それを聞いて皆、胸を撫で下ろす。
紫音は僅かに考えると、言葉を呟いた。
「……なら、今現在治癒の力を使えるのは、この世界に晶一人ってことか。
人前で使うわけにはいかないかもしれないけど、これはかなり心強いな」
その気持ちは柚葉も同じだった。
先の試しの洞窟での戦いで、治癒の能力の重要性を改めて痛感している。
晶に負担をかけすぎるのは気をつけなければならないが、それでも大きなアドバンテージだろう。
これから先、魔王軍の過激派との衝突は避けられないのだから。
しかし、二人の希望はすぐに打ち砕かれることとなった。
エルフェリーナが重い口を開いた。
『……晶さんは……治癒の力を使わないでください』
唐突なエルフェリーナの言葉に、紫音も柚葉も絶句する
。代わりに口を開いたのはオルディン。
「……エルフェリーナ様、理由を聞いてもよろしいですかな?」
オルディンの問いを受け、エルフェリーナは一瞬言い淀んだが、それでも口を開いた。
『……晶さんが力を使えば……使った分だけ、肉体から男性性が失われていってしまいます』
その言葉に全員、息を呑む。
男性性が失われる——それはつまり、晶の肉体は力を使えば使うほど、女性へと近づいていくということ。
エルフェリーナの言葉は続く。
『私が蘇り、晶さんの身体から出ていき、その上でスキルやアーツとして習得した治癒を使うのなら問題はないのです。
ですが……先ほども言った通り、私は本来男性へと宿ってはいけなかった。
今の状態で力を使い続ければ、いずれは晶さんの肉体は、完全に女性のものへと変わってしまいます』
そうして一呼吸置いて——
『そしてそれは……不可逆です……。
一度女性の肉体になってしまえば、二度と男性には戻れません……』
紫音と柚葉の口から重い声が漏れる。
「……そんな……。力を使えば、晶が……」
「晶くん……そんな……」
晶はエルフェリーナの言葉を聞いて、思考の海へと沈んでいた。
(ボクが……女の子に……なっちゃう……? 力を使うほど……)
複雑な気持ちが心で渦巻く。
治癒の力を使えると思った時、心から嬉しかった。
ようやくみんなの役に立てる。みんなを助けることができるようになる。
そう思ったのに、その力には大きな代償が必要だった。
男としての自分を削る。
(ボク……どうしたら……)
晶の思考が沈んでいく中、紫音の言葉が鋭く響いた。
「晶、使うな」
「え?」
驚きに短く呟いた晶に、次は柚葉が声をかける。
「うん。紫音の言う通り。使っちゃダメだよ、晶くん」
二人の言葉に、それでも晶は迷いを含んだ声を漏らす。
「……でも……ボク……」
紫音はそんな晶に、強くも優しさを含んだ声で告げた。
「お前、また自分が役に立ってないって言うつもりだろ?」
ドキリ——
晶の胸が跳ねる。
「何度も言ってるけど、オレ達は晶に何度も助けられてる。
感謝してるんだぜ? ……本当に感謝してる……」
柚葉も温もりを含んだ声で告げる。
「全部紫音に言われちゃったね。
でも、本当だよ? 紫音の言う通り。
晶くんは、もっと自分自身を大切にしてあげてね」
二人はそう言ったが、いざという時は、晶は躊躇わずに力を使うであろうことを強く理解していた。
(とは言っても、晶は使っちまうよな……誰かのために。
力を使わせないためには……もっと強くならないと……。
スキルに頼るだけじゃなく、アーツも磨かないとな)
(もっと、強くならないと。晶くんが安心できるように……)
紫音と柚葉が決意を新たにしている時、オルディンがエルフェリーナへと問いを飛ばした。
「それにしても、エルフェリーナ様と共にある晶が、このタイミングで召喚されるとは……。
偶然とは思えませんのう……」
オルディンの疑問を受け、エルフェリーナは躊躇いながらも答えを返した。
『……恐らく偶然ではありません。
先ほども言いましたが、魂にも相性があります。
……私と晶さんの魂は、相性が良すぎるのです』
『この世界の召喚魔法は、アルサリウスと私が生み出した魔法です。
召喚魔法を使った際に、私の魂と魔法の術式が引き合ったのでしょう。
普段なら、私が宿らせていただいている人の奥深くに沈んでいれば、術式と引き合うことはなかった。
ですが晶さんの場合、どれだけ私が深くに身を潜めても、引き合ってしまう』
『……晶さんや皆さんがエルフェリアに召喚されたのは、私の魂が晶さんに宿らせていただいているからなんです』
そこまで言って、最後に付け足す。
『以前にも一度、魂の相性が良い方に宿らせていただいている時に、召喚されてしまったことがあります……』
それを聞いた柚葉が呟く。
「そういうことだったんですね……。
私達がこの世界に来たのは、ある意味必然だったんだ……」
再び重くなりそうだった空気を変えるように、紫音が努めて明るい口調で喋った。
「俺達はともかく、一真さんは完全に巻き込まれた感じだな。
まさかそんな一真さんが、邪神と関わりのある封神拳の使い手だったなんて、凄いけど」
しかしその言葉も、エルフェリーナによって否定された。
『……いえ……一真さんは、私が呼んだのです……』
晶が驚きの声を上げる。
「え!? 呼んだってどういう……?」
『……私が地球に逃げてきて千年近くの間に、色々な知識や情報を得られました。
その中に、封神拳の情報……そしてそれを使い、悪神達と戦う者達がいるという情報も。
封神拳の使い手の近くにいた人に宿らせてもらったこともあります』
『……私は、封神拳を使う方たちの気配を察知できます。
……私が宿る晶さんが召喚魔法の対象に選ばれたと感じた時、封神拳の使い手の気配を近くに感じました。
それが、一真さんでした。
私は……咄嗟に一真さんを導いて、召喚魔法の対象範囲まで来てもらったのです』
晶達は驚愕に言葉を失った。
『晶さんと私の相性は、数百年前の方よりも上です。
今、私がエルフェリアに戻るということは、邪神の復活という危険性を大きく上げてしまう。
……勝手だということは承知しています。
ですが……封神拳の使い手の方の協力が、どうしても必要だと感じたのです』
『その予感は正しかった……。
今のエルフェリアは、非常に危険な状態です。
千年前より遥かに聖霊や聖獣は数を減らし、魔族は再び争いを始めた。
このままだと本当に、邪神の復活が現実のものとなってしまうかもしれません』
『……それだけは……それだけは阻止しなければ。
ゼルグノスが復活すれば、事態はエルフェリアの中だけでは済まされない』
エルフェリーナは再び深い自責を滲ませながら呟いた。
『……私は……罪に汚れている……。
皆さんや一真さんを巻き込んだのは、完全に私の考えであり、私の責任です……』
その言葉には、深い覚悟と痛みが滲んでいた。
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