表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

210/252

第209撃:宿命の声、胎内より

エルフェリーナと晶との間に何があったのか——?

楽しんでいただけましたら、嬉しいです。

晶は一瞬言葉に詰まりつつも、震える声で問い返す。


「……え?

ボ、ボクの中に……女神様がいる……?

あ……あはは……う…そ……」


笑おうとした唇が、ひくりと引き攣る。

乾いた笑いは途中で途切れ、喉の奥に引っかかるように消えた。


晶は、現実感が急速に薄れていくのを感じていた。


異世界、聖魔人界エルフェリア。

その世界を創った神の内の一柱が、自分の内側にいる。


その言葉はあまりにも現実離れしすぎていて、

理解しようとする思考そのものを、脳が拒絶している。


なぜ女神エルフェリーナが?

なぜ自分の中に?


……なぜ……ジブンナノ……?


晶の瞳が揺れる。

焦点が合わず、視界が僅かに歪む。

顔色は見る見るうちに青ざめていった。


紫音が慌てて晶に声をかける。


「お、おい! しっかりしろ、晶!」


「ハァ……ハァ…ハァハァ」


呼吸が早く、浅くなっていく。

胸が締めつけられるようで、息がうまく吸えない。


その瞬間、ふわりと温もりが包み込んだ。


柚葉が優しく、晶を抱きしめ、背中を撫でるように擦る。


「晶くん、大丈夫だよ。

大丈夫だから、落ち着いて……ね?」


耳元で、穏やかな声が繰り返される。


「ほら、ちゃんと息を吸って……吐いて。

大丈夫……大丈夫だから」


柚葉の言葉と、背中に伝わる一定のリズム。

それに引きずられるように、晶の呼吸は少しずつ整っていった。


「ハァ……ハァ……。

も、もう大丈夫……」


深く息を吐き、晶は小さく首を振る。


「二人とも、ごめんね。

……オルディンさんも、ごめんなさい。

取り乱しちゃって……」


オルディンは、柔らかな微笑を浮かべて首を横に振った。


「いや、謝ることはない。

ワシの方こそ、すまんかったの。

お主の気持ちを考えれば、もう少し伝え方があったやもしれん」


晶は一度、ゆっくりと深呼吸をしてから、三人を見渡す。


「その……本当に、ボクなの?

ボクが……二人を治したの?」


柚葉は言葉を発さず、静かに、しかしはっきりと頷いた。

紫音がそれを受け取るように口を開く。


「ああ。

意識を失ってたから、オレも詳しくは分からないんだけどな。

柚葉が全部、見てた」


一拍置いて、紫音は真っ直ぐに晶を見つめる。


「間違いなく、晶が治してくれたらしい」


そして、穏やかな笑みを浮かべて告げた。


「まだちゃんと礼を言ってなかったよな。

晶、オレの命を助けてくれて、本当に有難うな。

お前はオレの……命の恩人だ」


その言葉が胸に落ちた瞬間、

晶の胸の奥が、じわりと熱を帯びる。


自分には自覚がない。

女神の魂を宿しているという話への混乱も、恐怖も、まだ消えてはいない。


それでも——

自分の存在が、大切な人たちの命を救ったのだとしたら。


(本当に……本当に、良かった……っ)


込み上げる感情を、晶は必死に噛みしめた。


ようやく、三人で生きて帰ってこられたのだという実感が、

遅れて心に満ちてくる。


同時に、自分の中に女神エルフェリーナの魂が存在しているという事実も、

否応なく、現実として受け入れざるを得なかった。


晶は、ぽつりと呟く。


「何で……ボクの中に……。

一体、いつから……?」


柚葉は、これまであえて口にしなかった事実を、静かに告げる。


「……実はね……この世界に来てから……

というか、晶くんと帰らずの森で再会してから……」


一瞬言葉を選ぶように間を置き、続ける。


「晶くん……どんどん、女の子みたいになっていってたの」


その言葉に、晶は思わず目を見開いた。


全然、気が付かなかった。

自覚など、一切なかった。


この世界に来てから、鏡を覗いたことなど一度もない。

自分の姿を映せる場所といえば、森の湖や川くらいだ。


けれど、日々生き延びることに必死で、

自分の姿を確認する余裕など、どこにもなかった。


「なら……

ボクたちがこの世界に召喚された後に、女神様の魂がボクに宿ったの?

……女神様の魂は……この世界に、いた?」


その言葉は誰かに向けた問いではない。

胸に溜まった疑問が、自然と零れ落ちただけだった。


だが——

その呟きに、答える存在があった。


『……いいえ……違います。

私が晶さんの中に宿らせていただいたのは、地球でのことです……』


何度も、頭の奥に響いた声。


——女神エルフェリーナの声。


唐突に響いた声に、晶の身体がびくりと震える。


それでも、先程までのような混乱はない。

皆に支えられ、心が落ち着いていたからだ。


晶の様子を見て、紫音が声をかけようとする。

だが、何かを察したのか、オルディンが小さく手を挙げ、それを制した。


晶は一瞬だけ逡巡し、

意を決して、心の中で声の主に呼びかけた。


(あ、あの……

貴方は……女神様……エルフェリーナ様、なんですか……?)


返答は、すぐには来なかった。

僅かな沈黙の後、迷いを含んだ声が、ゆっくりと返ってくる。


『……はい。

私の名は、エルフェリーナと申します』


その瞬間、晶の身体が小さく震えた。


「……っ」


その様子に、紫音が堪えきれず声をかける。


「あ、晶……大丈夫なのか?」


晶は視線を向け、今起きたことを伝える。


「だ……大丈夫。

………いま、ね……女神エルフェリーナ様と……話、した」


「!?」


三人に、同時に衝撃が走る。


オルディンが気持ちを抑えきれず、前のめりになる。


「え、エルフェリーナ様と……会話じゃと……!?

し、信じられん……本当に……。

そ、それで、なんと仰っておるのじゃ!」


「ま、まだ何も……。

ただ……エルフェリーナ様ですかって聞いたら……はいって……」


その答えに、オルディンは低く唸る。


「むぅ……。

会話は、続けられるのか?」


その言葉を受け、晶は心の中で再び問いかける。


(あの……エルフェリーナ様……)


だが、問いかける前に、返答があった。


『……このまま、晶さんを通じて皆さんと会話するのは、

晶さんの負担が大きいですね』


一拍置いて、続けられる。


『……僅かな時間ですが、“直接”皆さんとお話しします』


その瞬間、その場にいる全員の意識に、同じ声が響いた。


『皆さん……私はエルフェリーナと申します。

生命の女神——

“ライフ・オブ・ゴッデス”・エルフェリーナと呼ばれていました』


突然、頭の内側に直接響く声。


全員が息を呑む。


「な、なんだ!?

頭の中に……直接……!」


「こ、これが……エルフェリーナ様の声……?

晶くんは……こんなふうに、ずっと……」


「な、なんということじゃ……!

本当に、エルフェリーナ様とは……。

生きている内に、この声を聴けるとは……」


驚きが落ち着いた頃、エルフェリーナは静かに言葉を紡ぐ。


『まずは……晶さんに、謝罪をさせてください』


一瞬、言葉が途切れる。


『……私に、そのような資格がないことは理解しています。

このような状態での謝罪が、酷く卑怯であることも……』


そして、深い自責を滲ませながら、続けた。


『……晶さん。

勝手に、貴方の身体に宿ってしまったこと……

そして、貴方の人生を歪めてしまったこと……』


『本当に……申し訳ありません……』


『どれほど謝罪しても、許されることではありませんね……』


その声には、偽りのない後悔が滲んでいた。


何が正しいのか、分からない。

本来なら、怒るべきなのかもしれない。


だが、晶の心には、不思議と怒りは湧かなかった。

先程まで胸を占めていた恐怖も、嘘のように消えている。


それどころか——

エルフェリーナの声を聞くたび、

胸の奥に、穏やかな安らぎが広がっていく。


まるで——

生まれたときから共にあった、

自分自身の半身と向き合っているかのような感覚。


晶は、静かに問いかけた。


「エルフェリーナ様……

貴女が、ボクの中に宿ったのって……

いつ頃なんですか?」


短い沈黙の後、答えが返ってくる。


『……晶さんが、地球にいた頃……

いいえ』


『貴方が、まだ生まれる前——

お母様のお腹の中にいた、その頃です』


よろしければ、ブックマークや評価をお願いします。

感想もいただけましたら、とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ