第203撃:悲痛の報せ
今回の話は、酷く重い話になっています。
苦手な方は、申し訳ありません。
時と場所は変わる。
そこはエルサリオン王城、王女ファレナの私室。
晶達三人が試しの洞窟を抜けて、オルディンの元へと帰ったしばらく後のこと。
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セレフィーネは苛立ちを隠せなかった。
晶、紫音、柚葉の三人の撃破に向かったガーラからの連絡がない。
いや、それどころか、こちらからの連絡も一切通じない。
不安を拭いきれなかったセレフィーネは、ガーラの部下数人を呼び出し、調査に向かわせていた。
——嫌な予感がする。
少し前のガズラの件が、どうしても頭にちらつく。
そんなことはない。
ガーラはガズラとは違う。
ガーラは非常に冷静で、引き時を見誤るような男じゃない。
危険だと判断したら、無理せず撤退しろとも言ってある。
なのにもかかわらず、心の内には焦燥がどんどんと積み上がっていく。
(そんなことあるはずない……あの子に限ってそんな……)
ガーラは昔、スラムから救い上げた孤児の一人だった。
最初はセレフィーネにとって、何人も助けた孤児の一人でしかなかった。
もちろん、救えた者達にはできる限りのことをした。
誰かを蔑ろにするような真似はしなかった。
それはグラウザーンの思想からも外れるし、何より自分の本意でもない。
だが、ガーラは本当に自分とグラウザーンに懐いてくれた。
いつしかまるで、本当の家族のように心を開いてくれた。
相手によって態度を変えてはならない。
それは分かっていた。
それでも。
セレフィーネにとって、ガーラが本当の弟のように感じられるようになるまでには、さほどの時間は必要無かった。
ガーラが自分やグラウザーンの役に立つために、血の滲むような努力をしてきたのも知っている。
——嬉しかった。
心の底から嬉しかった。
いつの頃からか、グラウザーンがどんどん変わっていってしまった時も、ガーラと共にグラウザーンを信じてついて来た。
自分にとっては、家族と言える存在。
そんなガーラとの連絡が取れない。
それは、普段どれほど冷静で、時には冷酷にもなれるセレフィーネを持ってしても、心を乱す理由としては十分すぎた。
やけに時間が長く感じる。
本当なら自ら直接、ガーラを探しに行きたい。
そんな感情を抑え込むだけで、精一杯だった。
——まだか?
——まだ報告はこないのか?
どれほどの時間を待っていたのだろうか。
『コンコン』
不意に、部屋の窓を軽く叩く音が聞こえた。
ここは城の上層なのにもかかわらず、だ。
セレフィーネは弾かれたように声を上げる。
「入れ!」
ゆっくりと開け放たれる窓。
音もなく滑り込む影。
その黒衣の男は……たしか、ガーラの部下筆頭。
セレフィーネは逸る気持ちを必死に抑え、表情には出ないようにする。
「ガーラと接触は出来たか?」
短く結果だけを問う言葉。
しかし……返事は返ってこなかった。
セレフィーネは苛立ちを押し殺し、繰り返し問う。
「ガーラとは……出会えたのか?」
ガーラの部下は、視線を落として黙して語らない。
セレフィーネの胸に、嫌なものが湧き上がってくる。
我慢できずつい声を荒げるセレフィーネ。
「答えろ!ガーラはいたの——」
セレフィーネの言葉が途中で途切れる。
顔を上げた、男の瞳を見てしまったからだ。
その瞳は、今にも壊れてしまいそうなほどに……揺れていた。
「————っ」
セレフィーネは何かを喋ろうとしたが、喉が張り付いて言葉にならない。
男が絞り出すように言葉を発した。
「セレフィーネ様……ガーラ様が……"見つかりました"」
その一言で、セレフィーネの背筋に冷たいものが走る。
"出会えた"ではない。"見つかった"。
男は覚悟を決めた表情を見せた。
そして、短く呟く。
「セレフィーネ様……お気をしっかりと……」
そう言った後、窓に向かって一声かける。
「……入れ」
するともう一人、今度は黒尽くめの女が入ってくる。
その女の腕には、"布に包まれた"何かが、大切そうに抱えられていた。
女はセレフィーネの前まで来ると、一瞬躊躇った後に、その包をセレフィーネへと差し出した。
「……これだけ……しか……」
セレフィーネは震える手でその包を受け取る。
——開きたくない。
それが何であるか、見たくない……。
それでもセレフィーネは、包を開いた。
その中身を見た瞬間、足元がぐらつくような錯覚に襲われる。
「……っ…あ……」
言葉にならない声が喉から漏れた。
包に包まれていたのは、何者かの左腕。
何者かの。
何者?
決まっている——ガーラの左腕だ。
脳がそれを理解した瞬間、セレフィーネの喉から、己のものと思えない声が発せられていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
セレフィーネは腕を胸に掻き抱き、愛おしい弟の名前を叫ぶ。
「ガーラ!ガーラ!ガーラァァァァァッ!」
現実がぼやけていく。
視界に霞がかかる。
「なぜ!?なんで!?どうしてなの!?」
無理をするなと言った。
危険だと判断したら引けと言った。
なのに……なぜ……。
セレフィーネは、声を押し殺して震えて蹲る。
ガーラの部下二人も、何も言えずただ跪くのみ。
どれだけそうしていただろう。
セレフィーネから、しゃがれた低い声が発せられた。
「何が……あった……?」
ふたりとも何も言えない。
セレフィーネの怒声が飛ぶ。
「何があったと聞いているっ!」
答えたのは男の方。
絞り出すように声を出す。
「……詳しいことは……。
試しの洞窟の入口から少し進んだ先で、激しい戦闘の痕跡を確認しました。
……そこに……上半身と下半身が分かれた遺体が……。
上半身は左腕が落とされており……炎の魔法によりやられたようで、原型を留めては……」
男はそれ以上言葉にできなかった。
セレフィーネは抱きしめた腕を見つめて考える。
誰か別人の可能性は?
……あり得ない。
その手は幼い頃から何度も繋いだ、ガーラの手に間違いない。
自分が、見間違えるわけがない。
誰がやった?
決まっている。
水無瀬晶、天城紫音、千歳柚葉……この三名だ。
スキルなしの水無瀬晶は戦力にならない。
ガーラは正面からの戦いを苦手としているとは言え、セレフィーネの見立てでは二人を相手取ったとしても、ガーラに軍配が上がるはずだった。
更にガーラには、魔鋼鍛冶王ガル=ヴァルドの武器を与えている。
負ける要素があるとすれば、天城紫音と千歳柚葉のスキル進化。
恐らく、かなりの進化を果たしたのだろう。
悲しみに侵食されたセレフィーネの心に、沸々と怒りが湧き上がる。
「……許さんぞ……」
自らは任務がある?
この城から出るわけにはいかない?
……無理だ。
抑えられない。
「あの三人は……私が自ら……亡き者にしてくれる……!!」
その声には怒りの他に、深い悲しみが滲んでいた。
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