第202撃:受け継がれるもの、動き出すもの
高評価有難うございます!
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今回は幕間的な話となります。
退屈に感じてしまったら、申し訳ありません。
しばらく言葉を失っていたリュミナが、ようやく小さく息を吸い、口を開いた。
「……お姉ちゃん。
色々と調べたり、危ないことまでしてたのって……全部、その情報のためだったの?」
オラクルは、少しだけ目を伏せてから、静かに頷いた。
「ああ。
バルト王に異常が見られ始めた頃から、調べ始めていた。
……あまりにも、人が変わりすぎていたからな」
そして、遠くを見るような目で続ける。
「それに、現魔王がアリステリアへと代替わりしてから、魔族領の空気は明らかに変わった。
水面下で、何かが動いている。そう感じざるを得なかった」
一呼吸置き、オラクルは言葉を継いだ。
「ある時、バルト王から直接呼び出されてな。
……その場で、洗脳を受けていると打ち明けられた。
今は僅かに弱まっているともな」
リュミナが息を呑む。
「それを聞いてから、本格的に調査を始めた。
だが……まさか、ここまで大事になっているとは思わなかった」
オラクルは自嘲気味に笑った。
「だからまず、バルト王の洗脳をどうにかしなければならないと考えたんだ」
その言葉に、リュミナは堪えていた不満を吐き出すように声を上げた。
「理由は分かったよ……。
でも、だからって一人で遺構に潜るなんて無茶だよ!
もっと……他の人を頼ってもよかったじゃない……。
ロイさんとか、オルディンお爺ちゃんとか……!」
オラクルは苦笑し、その笑みに微かな寂しさを滲ませた。
「二人とも、もう現役を退いている。
……それぞれの人生があるんだ。
これ以上、危険に巻き込むわけにはいかないだろう」
その様子を静かに見守っていた一真が、頃合いを見て口を開いた。
「まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方がない」
そう言って、オラクルへと視線を向ける。
「懸念は多いが……とりあえず、バルト王を解放するという方針には賛成だ。
ゼルグノスを復活させるなんて話、看過できるわけがない」
一真は少し言葉を区切り、続けた。
「ファレナ王女の件もあるが、順番としてはバルト王が先だろう」
オラクルは、驚いたように目を見開いた。
「……協力してくれるのか?
洗脳解除のアーティファクトまで入手してもらった上で?」
一真は肩をすくめ、苦笑する。
「ここまで事情を知ってしまって、今更“関係ない”とは言えんさ」
だが、すぐに表情を引き締めた。
「ただ、気になるのは魂律共鳴核の機能だ。
ノアの消失で、このアーティファクトは確実に弱体化している。
……どこまで効果があるかは、正直未知数だな」
その言葉に、オラクルも表情を曇らせた。
「……そればかりは、試してみるしかない」
場に、静かな沈黙が落ちた。
一真は、その重い空気を払うように、軽く息を吐いて話題を変える。
「それにしても、ロイ爺さんの言っていた通りだな。
今回の件だけで知ったとは思えないほど、色々と詳しい」
オラクルは苦笑しながら答えた。
「まあ、それなりに長く生きているからな。
それに……お祖母様から聞かされた話も多い」
「ほう、祖母か」
オラクルは、どこか誇らしげに頷いた。
「ああ。
両親を早くに亡くした私を、唯一、無条件で可愛がってくれた人だ。
……もう随分昔に、世界へと還ってしまったがな」
そして、少し声を弾ませる。
「色々な知識や知恵を持っていた。
なにせ、アルサリウスとエルフェリーナに直接会ったことがあるほどだ。
千年前の封印戦争にも、参加していたらしい」
その言葉は、一真の胸を強く打った。
「……それで、何か聞いていないのか?
アルサリウスやエルフェリーナのこと。
それに、邪神との戦争について」
問いかけられ、オラクルの表情は曇った。
「……すまない。
その辺りのことは、聞いても答えてくれなかった」
そして、祖母の言葉を思い出すように、静かに続ける。
「『知るべきでない時に過剰な知識を得ることは、時に身を滅ぼす』
……そう言ってな」
新たな情報は得られなかった。
だが、一真には分かる。
(その言い方……
つまり、知っていたということだ)
その時、オラクルがふと思い出したように口を開いた。
「ただ……手記は残してくれたんだ。
自分の知ることを、いくつも書き記したものをな。
『その時が来たら、読みなさい』と」
オラクルは続ける。
「お祖母様はいつも言っていた。
『知識が増えれば自ずと行動も変わる。
力及ばぬうちから、とるべきではない行動をとってしまうこともある。
知りたければ強くなりなさい。
知識や知恵を得ても、様々な状況に対応できるくらいに強く』……」
オラクルは少し悲しそうに目を細めた。
「当時の私は、その言葉の意味がよく分からなかった。
知らないより知っていたほうが良いとな。
だが今なら……なんとなく分かる気がする……」
一真は目を閉じて笑みを浮かべる。
(……良いお婆さんだったんだな。
オラクルのことを心から思っていないと、出てこない言葉だ)
一真は自らの祖母、巴のことを思い出していた。
どことなく、オラクルの祖母と近しいものを感じたのだ。
リュミナが首を傾げる。
「じゃあ、まだ見てないの?
今のお姉ちゃんなら、もう大丈夫なんじゃない?」
オラクルは苦笑した。
「見ようとはしたさ。
だが……見られなかった。
どうやら魔法で封印されているらしくてな。
私が“相応しい力”を得なければ、封印は解けないらしい。
……そして、未だに私は、手記を開くことは出来ない」
その言葉は、一真の中の確信をさらに強固なものにした。
(トリニティ・レギオン……精霊奏者と呼ばれる今のオラクルでも届かない知識……
ゼルグノス、二柱の神……俺は、知らなければならない)
ふと、一真の脳裏に過去の光景が蘇る。
あの日、家に帰る時。
いつもと違う道を、なぜか選んだ。
——本当に、ただの気まぐれだったのか?
まるで、誰かに導かれたかのような感覚はなかったか?
『俺がこの世界に来たのは、偶然じゃない』
その考えは、もはや疑念ではなかった。
一真の中で、運命の歯車が、また一つ――カチリと音を立てて噛み合う。
神を封じ、滅ぼすための拳を継いだ者が、
邪神の影に覆われたこの世界へと招かれた意味。
一真は、大きく息を吐いた。
「……今日はもう遅いな。
腹は満たされたが、体はまだ回復しきっていないだろう。
そろそろ休もう」
二人は静かに頷いた。
三人は、それぞれ割り当てられた二階の部屋へと入っていく。
やがて、隣室からオラクルとリュミナの寝息が聞こえてきた。
だが――
その夜、一真はしばらく、眠りにつくことが出来なかった。
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