第200撃:宴の終わり、世界の重さ
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結論から言うと――
バッカスは、涙目になっていた。
理由は言うまでもない。
一真の、常軌を逸した食事量である。
オラクルとリュミナも、彼がかなりの量を食べるだろうとは予想していた。
してはいたが、その予想は――致命的に甘かった。
「……リュミナ……
一真は、いつもこんなに食べるのか……?」
ようやく絞り出されたオラクルの言葉に、リュミナも必死に答える。
「……私も、一真くんがちゃんと食事してるところを見たのは、遺構の中が初めてなの。
よく食べるなぁって思ってたけど……
……あれでも、我慢してたんだね……」
それは、オラクルの携帯食料を食べた時の比ではない。
視線の先では、一真が静かな真顔のまま、皿を空にし続けていた。
バッカスの料理は、ガイの言葉通り――いや、それ以上だった。
見たこともない食材、見たこともない調理法。
それでいて、どれもが胃袋と心を掴んで離さない。
今回の料理は、特に酒を多用した宴仕様だった。
《赫炎猪の豪火ロースト》
巨大な火属性魔獣「赫炎猪」の背肉を、
炎酒と香草で三日間漬け込み、
魔法陣を刻んだ鉄板で一気に焼き上げた一品。
表面は黒く香ばしく、中は肉汁が溢れるほど柔らかい。
一口噛めば、濃厚な旨味と熱が舌を満たし、幸福感を直接刺激する。
今回の宴の主菜だ。
《酔樹の蜜焼き・黄金茸添え》
アルコールを含む樹液を出す「酔樹」の蜜を用いた料理。
魔獣肉に蜜を塗り、アルコールを飛ばしながら焼き上げることで、
照りと甘香が食欲を加速させる。
付け合わせの黄金茸は、噛むとぷちっと弾け、
芳醇な香りが一気に広がった。
《深酒魚の酒蒸し》
酒気を含む地下湖に棲む魚。
蒸しただけで鍋の中が白く霞み、酒の香りが立ち上る。
コクと酒香が一体化しており、
骨まで柔らかく、豪快に食べられる。
《狂宴チーズ “バッカナリア”》
発酵魔獣乳を用いた濃厚なチーズ。
刺激臭が強いが、慣れるとそれが癖になる。
口に入れた瞬間は暴力的だが、
次の瞬間、甘みが爆発する。
《雷葡萄の酩酊タルト》
口が痺れる特性を持つ果実「雷葡萄」を使ったデザート。
扱いを誤れば刺激が強すぎて食べられないが、
バッカスは絶妙な処理で、僅かな刺激だけを残していた。
それが、重くなった口内を一気にリセットする。
《暴飲暴食の大鍋 “神罰無効”》
宴の最後に出された正体不明の鍋。
肉、魚、茸、野菜――思いつく限りを全て放り込んだ大鍋料理。
「二度と同じ味にならねぇ」と、バッカスは笑った。
見た目は重いが、意外なほど胃に収まり、
なぜか翌朝の二日酔いを軽減するという謎仕様。
さらに、食前酒と食後酒まで用意されていた。
《血宴酒ヴァルゴス》
濃赤色の辛口ワイン。
爽やかなキレで、胃腸を整える。
オラクルとリュミナには、アルコールを飛ばしたホットワインが出された。
《白濁果酒ルナリア》
甘口で度数も低く、飲みやすい果実酒。
女性や酒に弱い者でも無理なく楽しめる。
まさに“宴”と呼ぶに相応しい内容だった。
元々ここまでの量を想定していなかったバッカスは、
一真の食べっぷりを見て途中で考えを改めた。
――が。
作っても作っても、恐ろしい速度で消えていく料理。
次第にバッカスの顔色は青ざめ、最後には半泣きになっていた。
食事が終わる頃には、すっかり夜も更けていた。
バッカスは一真用に一部屋、
オラクルとリュミナ用に一部屋を用意すると、
力尽きたように自室へと戻っていく。
「後片付けは……明日でいい……
……もう、無理だ……」
その哀愁漂う背中を、三人――主に一真は、申し訳なさを抱えながら見送った。
軽く食器を片付け、別の席へ移って一息つく。
しばしの沈黙。
やがて、オラクルが口を開いた。
「……さて。
そろそろ、話をしよう」
静かな声だった。
「まずは、お互いの目的の確認からだ」
一呼吸置き、続ける。
「私の目的は知っての通り、バルト王の洗脳を解くこと。
このまま魔王軍過激派に、勇者召喚を利用され続ければ不味い。
奴らに目的を果たされれば、この世界は今度こそ滅びる」
視線が鋭くなる。
「バルト王を救うことと、世界を守ることは、同義だ」
それを受け、一真も自らの目的を語る。
「……ふむ。
では俺の目的だが、情報だ」
淡々と。
「ロイ爺さんから最低限の知識はもらった。
だが、それだけで済む状況じゃないらしい。
もっと知りたければ、オラクルに会え――そう勧められた」
オラクルは僅かに考え込み、やがて口を開いた。
「……ならばまず、確認したい。
貴方がこの世界で何を見て、何を経験してきたのかを」
一真は頷き、語り始めた。
召喚と即時追放。
帰らずの森。
ロイの村。
魔王軍空軍部隊との戦闘。
紫音、柚葉、ルナリスとの出会い。
邪神の眷属らしき敵。
瘴気を宿すダスクハウンド。
リュミナとの邂逅。
オルディン。
晶達との別行動。
ラグナの村。
遺構。
そして、今。
紫音と柚葉が集めた情報も含め、全てを。
オラクルは時折短い質問を挟みながら、基本的には黙って聞いていた。
話が一段落すると、静かに息を吐く。
「……驚いたな。
遺構の戦闘痕で強さは察していたが……
空将ガズラを、苦もなく倒したとは」
一真は肩をすくめる。
「自由に動けたのは、ビル達がいたおかげだ。
それに……魔王軍過激派の他の連中は、あんなものじゃないんだろう?
紫音と柚葉が戦ったという、穏健派のヴァルドランという男、かなりのものだったと聞く。
その男が、国王を洗脳しているセレフィーネという魔族の強さは本物だと言っていたらしいからな」
オラクルの表情が引き締まる。
「……その通りだ。
セレフィーネ直属のガズラを倒した以上、貴方への警戒は確実に強まる。
望まなくとも、過激派との衝突は避けられない」
一拍置き、低く告げる。
「だからこそ……
奴らの目的を、知っておく必要がある」
空気が、静かに重く沈んだ。
――宴は終わり、一真はこの世界の現状へと手を差し込み始めた。
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