第199撃:瞳に宿りし光
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ガイは自分の言葉に恥ずかしくなったのか、僅かに頬を赤らめながら捲し立てた。
「ま、まあ、そういう訳でよ、俺もノンビリしてられねーんだ。
全員でいちから鍛え直してる最中でな。特にベンの奴は、スキルとかアーツとか、それに体格とか以前の話だしな。
まずは体を作ってやんなくちゃなんねぇ。ワリーけど、詳しいことは一真さん達自身から聞いてくれよ」
そう言うとガイはバッカスに数枚の金貨を握らせ、踵を返して一真へと視線を向けた。
「ってな訳だ。バッカスの奴は、みてくれは悪人面だけどよ、悪いやつじゃない。信用できる。
この宿なら、骨を休めながら積もる話もできるだろ。俺はあいつらのもとに帰るよ」
そう言って、すれ違いざまにぽつりと呟く。
「……あのよ……ありがとうな」
言葉を切り、少しだけ照れたような笑みを浮かべて。
「じゃあ行くわ! へへっ……時間が足んねーよ」
ガイは来た時同様、ドアを乱暴に開け放ち、急いで外へと飛び出していく。
最後に――
「バッカスの作る料理は、味は悪くねーけど、腹を壊さないようになー!」
そう叫んで。
そんなガイの背中に、バッカスの怒声が浴びせられる。
「うるせぇ! 余計なこと言ってねーでさっさと帰っちまえ! ……ったく、客を紹介しに来たんだか、客を遠ざけようとしてんだか、わかんねぇな」
口ではそう言うが、バッカスの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。温かな光が、その厳つい顔を柔らかく照らしている。
バッカスは一つ咳払いをすると、一真へと視線を向けて話しかけてきた。
「えーと、一真さんだったか? 悪かったな、見苦しいもん見せちまってよ」
そう言ってどこか照れくさそうに頬を掻くバッカス。その仕草は、厳つい外見とは裏腹に妙に人懐こかった。
一真は隠しきれない笑みを浮かべると、バッカスへと言葉を返す。
「いや、構わんさ。……随分とガイのことを気にしてるみたいじゃないか。あいつとはもう長いのか?」
バッカスは苦笑を浮かべながらも答えた。
「まあ……な。俺も昔冒険者をやってたんだけどな、その頃からの知り合いだ」
そう言うと、バッカスはガイとの出会いを語り始めた。遠い記憶を辿るように、ゆっくりと。
「ある時、俺の所属してたパーティーが、ダンジョン内のモンスターインフェステーション……大量発生に巻き込まれちまった。
俺達はなんとか頑張って逃げ出そうとしたんだけどな、みんな怪我しちまって、逃げ切ることが出来なかった。
『もうダメだ。ここまでだ』みんなそう思ったよ」
バッカスは一度言葉を切り、深く息を吸った。
「……そんな時だ。ガイのやつが突然乱入してきて、殿を務めて俺達を逃がそうとしたんだよ。
信じられるか? たった一人で、武器も持っていない状態で、見ず知らずの俺達をだぜ?」
そう言うとバッカスは苦笑を深めた。今でも信じられないといった表情で。
「後々聞いた話だと、どこの冒険者達もパーティーに入れてくれなくて、一人でダンジョンに潜ってたらしいな。
そんな状態で、あいつは命をかけて俺達のために殿を務めてくれた。
そして、俺達は助かったってわけだ。
まあ、俺はその時の怪我が原因で、冒険者は引退しなきゃならなくなったんだけどな。それでも、命は助かった」
バッカスの顔には、昔を懐かしむ色と、深い感謝が浮かんでいた。重ねた年月の重みが、その表情に滲んでいる。
一真はふと気になったことを問いかけた。
「ガイは一人だったのか。冒険者パーティーに入ってたって聞いたが」
バッカスは顔を歪め、嫌そうな感情を浮かべながら答える。
「ん? ああ、その少し後の話だな。アイツが冒険者パーティに加入したって話を聞いたのは。
俺達の件が、どこからか冒険者たちの間に流れたらしくてな、一つの冒険者パーティーがガイに声をかけた。
当時ガイは喜んでいたが、実情はお人好しの冒険者を利用してやろうって悪質なパーティーだったんだ」
バッカスは悔しそうに眉間の皺を深めた。拳を握りしめ、歯噛みするように。
「ガイの奴も早々に、自分がパーティーに誘われた理由には気づいたみたいだがな……。
それでもあいつは、パーティーを大切にしようと頑張ってた。
他の奴らがスキルを授かる中、あいつだけはいつまで経っても授かれずに、風当たりはどんどんキツくなっていったみたいだが」
バッカスは一呼吸おき、重い口を開いた。
「格闘家というジョブをバカにされながらも、それでもアイツは頑張ってた。
そんなある日、いけ好かない貴族からの依頼が舞い込んだらしい。
前世界魂律遺構に、アーティファクトを取りに行くための護衛依頼だ」
そこまで聞いて、リュミナが言葉を挟んだ。
「あ……その話、ガイくんから聞いた……結局は囮として置いていかれたって……。
そこで、他の貴族から利用された三人と出会って、どうにか生きて帰ってきたって……」
リュミナの言葉を聞いて、バッカスは目を丸くして驚いた。
「へぇ……アイツが自分で話したのか。あの頃の記憶は、嫌がって話したがらないのにな」
そう言って話を続ける。声のトーンが、一段と重くなった。
「まあ、聞いているなら話は早いな。
そんなこんなで、アイツ等はそれからも多くのくだらねぇ奴らに利用され続け、みるみる荒んでいった。
見てられなかったぜ……痛々しくてよ。
嫌なことってのは重なるもんだ。嫌な奴らの方からガイ達に接触してきて、アイツ等から色々なもんを掻っ攫っていった」
昔を思い出しながら語るバッカスの顔には、自らのことのように痛みが浮かんでいた。深い皺が刻まれた額に、苦悩の色が濃く滲む。
「そして……気がついたらアイツ等のほうが、人から奪う側にまわっちまった。
俺もリリーナも……っと、リリーナってのは、アイツの恋人なんだがな」
バッカスは俯いて言葉を落とした。その声は、どこか震えていた。
「俺達は何度もガイ達を説得した。馬鹿な真似はよせってな。
でも、アイツ等はやめなかった。多くの者を騙し、奪い、そして酒に溺れる毎日だ。
……以前までは辛くても希望に輝いていた目が……どんどん濁って行きやがるんだ……」
そこまで言ってバッカスは顔を上げた。厳つい顔に、意外なほどの人懐こさを浮かべて声をかけてくる。
「さっきのアイツの目、あんなに活き活きした目を見たのは久しぶりだ。一真さん……あんた達のおかげなんだな……」
一真は僅かに笑みを浮かべ、バッカスへと答えた。
「いや……俺はちょっとだけあいつを小突いただけさ。
立ち直ろうとし始めたのは、あいつ等自身の心のあり方故にだ」
一真の言葉に、リュミナは何かを言いたげだったが、あえて口には出さなかった。
(ちょっとだけ?……ちょっとって……なんだろう……)
心の中で密かにツッコミを入れる。
バッカスは深々と頭を下げて、一真達に礼を告げた。
「いずれにしても、あんたがきっかけを作ってくれたんだろ? 俺からも礼を言わせて欲しい。
……ありがとうな」
一真はバッカスの肩に手を置き、静かに言葉をかけた。
「受け取ろう」
バッカスは気恥ずかしそうに顔を上げると、誤魔化すように声を上げる。
「宿だったよな! 好きなだけ泊まっていってくれ! 料理も腕を振るわせてもらう。
金は……ガイと俺との奢りだ。
とりあえず飯を用意しよう。好きな席に着いて待っていてくれ」
そう言ってバッカスは、カウンターの裏にある厨房へと引っ込んでいく。
その足取りは軽やかで、どこか嬉しそうだった。
その背中を、オラクルとリュミナは気の毒そうに眺めていた。
((奢りかぁ……言っちゃったな……))
二人の視線が合い、思わず苦笑が漏れる。
一真の食べっぷりを思い出してしまったのだ。
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