第198撃:崩れゆく遺構、灯り始めた再出発
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今回は少し静かな回になってしまいます。
退屈されたら、申し訳ありません。
常識外の威力が残した痕跡を前に、完全に言葉を失っていた二人へ、一真が静かに声を掛けた。
「……少し、余計なことを話したな。すまなかった。
さあ、出口へ戻ろう」
一真が踵を返して歩き出す。
オラクルとリュミナは、互いに顔を見合わせてから、その背を追った。
二人の表情には、まだ驚きと戸惑いが色濃く残っている。
出口へと向かう道中、ダンジョン内は明らかに異様な空気に包まれていた。
回収用なのか、ゴーレムもどきの残骸の前で立ち尽くし、そのまま動かなくなっている別個体のゴーレム。
冒険者を引き連れ、意気揚々とアーティファクトを手にしていた貴族が、光を失ったそれを握りしめ、蒼白な顔で膝を落としている。
モンスターの群れは姿を消し、ゴーレムもどきも沈黙したことを好機と見て、遺構を漁る盗賊まがいの冒険者たちの姿もあった。
秩序が崩れ、混乱だけが残されている。
オラクルは周囲を一瞥すると、手にしていた魂律共鳴核を、人目に触れないよう慎重にマジックバッグへとしまい込んだ。
遺構が機能を停止した今、それは“未だ意味を持つ”数少ないアーティファクトの一つだ。
他人の目に留まれば、確実に厄介事を招く。
この遺構は想像以上に広く、深くまで潜るにも、脱出するにも相応の時間を要した。
一真たちがようやく外へと辿り着いた時、空はすでに夜の帳に包まれていた。
一真たちが遺構に足を踏み入れてから、数日目の夜である。
「さて……腹も減った。
本当はこのまま食堂でも探して、そこで話をしたいところだが……」
その言葉に、オラクルとリュミナの表情が一斉に曇る。
――あれだけ食べたのに、まだ食うのか。
そんな三人に、背後から声が掛けられた。
「一真さん! それにリュミナ!
無事に出てきたかよ!
……で、そっちの女は……リュミナの姉って言ってたエルフか?」
「つまりは……精霊奏者オラクル……」
最後はポツリと呟き、ゴクリと喉をならす。
それは聞き覚えのある声。
ガイだった。
リュミナが目を丸くして声を上げる。
「あれ? ガイくん!?
なんでここにいるの?
もしかして……ずっとここで待っててくれたとか?」
ガイは一瞬言葉に詰まり、苦笑して首を振った。
「まさか。
何日もここで突っ立ってるほど暇じゃねぇよ。
……ただ、ちょっと気になって様子を見に来ただけだ。
そしたら、ちょうどあんたたちが出てきた」
「……心配、してくれたんだ?」
リュミナのその一言に、ガイは露骨に赤くなり、顔を背ける。
「ち、違ぇ!
そんなんじゃねぇ!
なんとなくだ、なんとなく!」
そのやり取りを横目に、オラクルが一真へ小声で問いかける。
「……一真。あれは?」
一真はわずかに笑みを浮かべ、曖昧に答えた。
「このダンジョンに潜る前に、少しな」
ガイとの出会いの経緯は、オラクルには伏せておくべきだと判断したのだ。
オラクルは何か言いかけたが、結局はそれ以上追及しなかった。
彼女なりに察したのだろう。
二人のやり取りが気になったのか、ガイが一真へ声を掛ける。
「……どうやら、目的は果たせたみたいだな。
このダンジョンで……。
流石だぜ」
一真は素直に笑みを浮かべ、礼を返した。
「ありがとう。
色々とトラブルはあったが、無事にオラクルとも合流できた。
……ここまで来るのに、随分と時間はかかったがな」
ガイはその言葉の裏に何かを感じ取ったが、敢えて口には出さなかった。
代わりに、少し照れくさそうに提案する。
「……よく分かんねぇが、色々あったんだろ。
疲れてるだろ?
知り合いの宿に案内するぜ。
ラグナの村はな、油断すると面倒なことになる」
一真は内心で苦笑しつつ、その申し出を受け入れた。
「それは助かる。
出来れば……食事も出る宿だと嬉しいんだが」
ガイはにやりと笑う。
「抜かりねぇよ。
料理の腕は中々だ。
食材はリリーナが卸してるから、質も保証できる」
一真は嬉しそうに二人を見る。
「というわけだが……二人とも、それでいいか?
勝手に話を進めてしまって悪いが」
オラクルもリュミナも、笑顔で頷いた。
「ああ、私は構わない。
まだ出会って間もないが、ロイがこのトークンを預けるほどなんだ。
どうやらオルディンとも会っているみたいだしな。
オルディンのもとに貴方を案内したのはリュミナだろう? ロイとリュミナがそこまで信用しているんだ。
私も貴方を信用する。 貴方が大丈夫だと判断する相手なら、大丈夫なんだろう」
「私も大丈夫だよ。
今のガイくんなら、信じられるしね」
リュミナのいたずらっぽい笑みに、ガイは気まずそうに鼻の頭を掻いた。
一真は助け舟を出すように言う。
「では、案内を頼む」
「おう。ついて来な」
ガイを先頭に、一行はラグナの村へ戻る。
やがて、人通りの少ない一角へと足を踏み入れた。
「……また、あんまり人のいない場所だね」
リュミナが小さく呟く。
「リリーナさんの店もそうだったけど……
なんで、もっと人通りの多いところにしないの?」
ガイは苦笑して答えた。
「ラグナの村じゃな、賑わいはトラブルの種だ。
獲物を探して目をギラつかせてる連中は多い。
店を構えるなら、こういう離れた場所の方が客を選べる。
……その分、別の危険もあるがな」
結局は、どのリスクを取るかの違いだ。
話しているうちに、一つの建物が見えてきた。
古さはあるが、堅牢で、手入れも行き届いている。
「着いた。
あれがそうだ」
ガイは扉を乱暴にノックし、そのまま開け放つ。
「おい、バッカス!
出てこい! 客を連れてきたぞ!」
店内に響く声。
一行も続いて中へ入る。
一階は食堂兼バー、二階が宿屋という、よくある造りだ。
カウンターの奥から、厳つい髭面の男が現れる。
「ああ?
ガイじゃねぇか。
また飲んだくれる気か? いい加減にしろ」
「違ぇよ!
人の話を聞け!
客を連れてきたんだ、三人だ。
どうせ部屋は空いてんだろ?」
バッカスは一真たちに視線を向け、眉をひそめる。
「……客?
どういう風の吹き回しだ。
くだらねぇ真似ばかりしてたお前がな」
ガイは一瞬言葉に詰まり、それでも真っ直ぐに答えた。
「……ああ、否定はしねぇ。
だがな、それも終わりだ。
俺は……俺達は、もう一度やり直す。
一からだ」
そう言って、一真たちを振り返る。
「この人のせいでな。
もう一度、やってみようって気になっちまった」
ガイの目には、確かな希望と覚悟の光が宿っていた。
それを見たバッカスは、驚いたように目を瞬かせるのだった。
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