第197撃:奥義の残滓、理解を拒む痕
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一真の浮かべた苦笑を見て、オラクルが首を傾げる。
「……どうした? 一真、だったか。
何か、気づいたことでもあるのか?」
その問いに、一真は小さく肩を竦めた。
「いや、たいしたことじゃない。
ただ……自分はまだまだだな、と改めて思っただけさ」
言葉とは裏腹に、その声に自嘲や後悔はない。
むしろ、どこか柔らかな響きすら含んでいた。
一真は軽く息を整えると、話題を切り替える。
「さて……色々と話したいことはあるが、
いつまでもここに留まっている訳にもいかないな。
一先ずはここを脱出してから、落ち着いて話すとしよう」
すると、オラクルがはっとしたように声を上げた。
「いや、待ってくれ!
私は……まだここを出る訳にはいかない!」
焦りを含んだその声に、一真とリュミナは顔を見合わせ、小さく頷き合う。
「私は、この遺構に来た目的を、まだ果たしていないんだ。
どうしても……探さなくてはならないものがある……!」
その言葉を聞いた一真は、何も言わず、ポケットに手を入れた。
そして取り出した半透明の結晶――魂律共鳴核を、静かに差し出す。
「リュミナから、ある程度は聞いている。
君が探していたのは……これだろう?」
オラクルはそれを受け取った瞬間、目を見開いた。
「なっ……!
ま、まさか……もう、入手していたのか……!?」
震える手で結晶を見つめ、やがて小さく息を呑む。
「……これが……
噂に聞いていた、洗脳解除のアーティファクト……。
本当に……存在していたとは……」
オラクルはそれを壊れ物を扱うように、胸に抱き寄せた。
その姿を見て、一真は少し言いづらそうに口を開く。
「……その、だな。
一つ、問題が起きてしまった」
オラクルの視線が、鋭く一真を捉える。
「問題……?
一体、どういうことだ?」
一真は短く息を吸い、事情を説明した。
――ダンジョンの管理者と戦ったこと。
――その管理者は、既にいないこと。
――管理者と連動していたアーティファクトの多くが、機能を失った、あるいは弱体化したこと。
――魂律共鳴核もまた、管理者との接続が断たれてから三十分ほどで、効力が低下したこと。
説明が終わると、沈黙が落ちた。
オラクルは目を閉じ、しばし何かを考えていたが、やがて静かに目を開く。
「……事情は理解した」
その声音は、驚くほど落ち着いていた。
「正直に言えば、不安がない訳ではない。
だが……それを、貴方やリュミナが気に病む必要はないだろう」
一度言葉を切り、オラクルは穏やかに続ける。
「話を聞く限り、それは避けられなかった事態だ。
幸いにも……これは完全に効力を失う訳ではないのだろう?」
一真が頷く。
「なにより――
そもそも私一人では、これを手に入れることすら出来なかった。
だから……礼を言わせてほしい」
そう言って、オラクルは苦笑を浮かべた。
「助かった。本当に……ありがとう」
その笑みに、一真もまた小さく苦笑する。
「そう言ってもらえると、救われる」
短い沈黙。
それを破ったのは、リュミナだった。
「ほらほらっ!
一真くんも言ってたでしょ?
いつまでもここにいても仕方ないよ。
先ずは外に出よ?」
一真とオラクルは頷き、オラクルはゆっくりと立ち上がる。
消耗はしているが、歩行に問題はなさそうだ。
三人は医療室を後にし、遺構の出口へ向かって歩き始めた。
通路は薄暗いが、視界を妨げるほどではない。
一真にとってありがたかったのは、オラクルのマジックバッグに残っていた食料だった。
時間停止型ではないため保存食ばかりだが、今の彼には十分すぎる。
――問題は量だった。
オラクルとリュミナも、それなりの量を食べたが、一真の消費量は明らかに異常だった。
僅かな休憩時間で、マジックバッグの中身は空になる。
「……念のため、かなり多めに用意してきたんだがな……
まさか……一食で全て無くなるとは……」
呆然と呟くオラクルに、一真は頭を掻く。
「すまなかった。だが助かったよ。
正直、背中と腹がくっつきそうだったからな。
……後は、外に出たら食堂でも探すか」
その言葉に、二人の視線が突き刺さる。
「「……まだ食べるつもり!?」」
一真は目を逸らし、小さく呟いた。
「……もう少しだけな?」
二人は同時に確信した。
――これは絶対に嘘だ、と。
そんなやり取りをしつつ進んだ先で、三人は足を止める。
かつて、一真がマギア・プロトコルと戦い、倒した場所。
オラクルは、その惨状を目にして言葉を失った。
「……な、何だ……この……有り様は……?」
金属製の床と壁。
彼女の魔法ですら傷一つつかなかったはずのそれが、無惨に破壊されている。
踏み抜かれた床。
削り取られた壁と天井。
いや――削り取られた、という表現すら生温い。
そこには、“消滅”の痕跡が残されていた。
「それね! 一真くんの技の跡なの!」
リュミナが興奮気味に声を上げる。
「見上げるくらい大きなゴーレムもどきを、
一瞬で……本当に一瞬で、消し去っちゃったんだよ!」
オラクルは、ぎこちなく一真を振り返る。
「……一真。
貴方は……スキル無しだと聞いていたが……
一体、何をしたら……こんな……」
一真は苦笑しつつ答えた。
「使ったのはスキルじゃない。
封神拳という仙術だ。
この世界風に言えば……アーツ、になるのかもしれないな」
「ホウシン……ケン? セン……ジュツ……?」
理解が追いつかないオラクルに、一真は続ける。
「体力的に余裕がなかった。
だから……奥義で、一気に決着をつけた」
次の言葉が、二人を凍りつかせる。
「もっとも……奥義と言っても、
本来の威力より、かなり弱いがな」
「……え?」
リュミナの声が、震える。
「……弱い……?」
一真は頷いた。
「ああ。比べ物にならないほどだ。
九龍鳳天滅神の本来の威力を発揮するには、
もう一つの奥義が必要になる」
一真は静かに告げる。
「――人域外禁式法・神威闘装。
残念だが……今の俺には、まだ使えない」
オラクルとリュミナは、言葉を失ったまま、その場に立ち尽くしていた。
理解を拒む現実が、そこに残した痕だけが――
確かに、真実を物語っていた。
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