第18撃: ―流光の咆哮―
地上では、五人の冒険者たちが、迫る魔族と激しく交戦していた。
だが――彼らの視線は、戦闘の最中にも、つい上空へと引き寄せられてしまう。
なぜなら、そこではもはや戦いとは呼べぬ“何か”が繰り広げられていたからだ。
まるで雷が空を駆け抜けるように、草薙一真が空を走り回る。
目にも止まらぬ速さで、魔族たちが斃れていく。
飛翔する屍の残骸が次々と落下し、大地を濡らす。
その様は、まさに――空中の死神。
地上で斧を振るう戦士・ハンクが、一体を薙ぎ倒しながら呟く。
「……俺たちは、夢でも見ているのか……?」
弓を引くリューネも、唇をかみながら空を見上げる。
「何がどうなってるの……? あの人、消えたと思ったら……敵の死体だけが降ってくる……」
短剣を巧みに操るザックが苦笑混じりに言う。
「スキルなしの追放者って話じゃなかったっけ? もしかして別人だったりして?」
炎の魔法を詠唱しながら敵を焼き払うサラが、ぽつりと呟く。
「……あれは……魔法でもスキルでもない……。もっと……根源的な、何か……」
リーダーのビルも、剣で敵の動きを封じながら頭を振る。
「……召喚勇者の話は何度も聞いたが、あんな奴は初めてだ。……あれが、追放勇者……?」
混乱と驚愕に揺れながらも、彼らは冷静に戦場を捌き、逃げ遅れた村人たちや、震える晶をしっかりと護っていた。
それを空から見ていた一真は、ふと目を細める。
(……良い動きだな。俺に気を取られてはいるが、状況判断も連携も乱れていない。晶もちゃんと守ってくれている。気に入ったよ、お前ら)
そんな中でも、一真の“仕事”は止まらなかった。
一撃一殺。
鋭く走る拳。
弾けるように敵が墜ちる。
その身の動きは、まるで一陣の風のように静かで速く、そして恐ろしかった。
だが――。
(……おかしいな)
ふと、一真の眉がわずかに寄った。
(倒してる数は確実に五十を超えてる。けど、空の敵の数が、最初とあまり変わっていない。地上も同じだ。どこかに隠れていたってわけでもなさそうだが……)
封神拳により強化された感覚を研ぎ澄まし、視界の端々まで探る。
そして、一真の“気”が、ある異質なものを捉えた。
(……いたな。村から少し離れた地点。小高い丘の影――)
そこには、邪悪な気配を放つ十名ほどの魔族が集まっていた。
彼らは、巨大な黒い円陣――転送陣のようなものの中心で、禍々しい魔力を操っていた。
次々と、新たな魔族たちがそこから現れてくる。
(召喚か……いや、“ゲート”か。転移門を通じて戦力を注ぎ込んでいるんだな)
そんな一真を見て、敵指揮官・ガズラが遠目から舌を巻いた。
(……まさか、こんな化け物だったとは…話が違うではないか……! だが……奴とて無限に動けるわけじゃあるまい)
ガズラの目に、わずかな余裕が戻る。
(消耗を待ち、こちらはひたすら数を送り込む。それだけだ。どんな怪物でも、疲弊は避けられない――)
しかし、次の瞬間――その余裕は粉々に砕け散った。
ガズラは、一真から放たれる得体の知れぬ“圧”に気づいたのだ。
(……なんだ? ……何か……高まっている? 魔力じゃない……これは……何だ……!?)
その場にいる全ての者に、空から流れ込む“異質な気”が圧のようにのしかかった。
そして。
「――**封神拳・仙気流光**ッ!!」
咆哮と共に、一真の右手から、眩い光弾が放たれた。
蒼白く、鋭く、あまりにも速く――まるで光そのもの。
それは一直線に、遠く離れた転送陣の中心へと突き進み、逃げる間もなく――
着弾。
一瞬の静寂。
次いで、爆音。
村の端で爆ぜた光が、真昼のように周囲を照らす。
風がうなり、煙が空を裂く。
そして、風がその煙を散らした先に、現れたものは――
大きなクレーター。
黒焦げの地面。ねじれた大気。
そこに“魔族”の姿は、一つとして残されていなかった。
地上の冒険者たちも、戦いを止めて、その光景を見つめていた。
リューネが、呆然とした顔で呟く。
「なに、あれ……?」
ザックが苦く笑う。
「もう……やめてくれ。あんなの……人間がやっていいことじゃねぇだろ」
ハンクも肩を落とす。
「……俺らはなにを見ているんだ…?」
一方その頃、ガズラは、膝が震えるのを止められなかった。
「ば、ばかな……! 転送陣が……消えた……! たった一撃で、援軍が……っ!?」
ようやく現実を飲み込んだその顔は、蒼白を通り越して、死人のようだった。
空から、一真の静かな声が降ってくる。
「……これで、面倒な援軍は“打ち止め”だな。さ――今度は、あんたの番だ。逃げてもいいが、命は保証しないぜ?」
その声に込められたのは、怒りでも慈悲でもない。
ただ、淡々とした“実行者”の口調だった。
そして、地上も空も、一瞬の静寂に包まれる。
ただ、風が吹いていた。
読んでくださり、有り難う御座います!
よろしければ、ブックマークや評価をお願いいたします!
コメントもお待ちしてます。
皆様のお陰で、本当に元気が出ます。




