第13撃 :―喧騒の裏にて―
一真は、ひと息ついてから思考を締めくくった。
(……とりあえず、ここで聞けそうな情報はこんなもんか)
そう判断すると、彼は店主に向かって静かに頭を下げる。
「店主、感謝する。色々助かった。その四つの魔石――あれは情報料として受け取ってくれ」
しかし、老人はその言葉に笑みを返した。
「言っただろう? 儂にも商人としての矜持がある。
情報をくれてありがとな、って渡されても困るんだよ。
おたくら、この世界じゃまだ裸一貫みたいなもんだろう? 少しでも足しにするんだねぇ」
そう言って、カウンターの下から小さな秤と箱を取り出すと、魔石を一つ一つ丁寧に査定していく。
(……本当に食えない御老体だ)
一真は内心でそう呟きながらも、素直にその申し出に甘えることにした。
やがて、魔石4つの買い取り額が決まった。
金貨10枚に、銀貨6枚。文句なしの好条件。
「薬や加工に使える魔石なら、もっと高値をつけられるんだがねぇ」
そう言って少し残念そうに。
「このランクの魔石なら、このくらいが相場さ。誓ってもいいが、他の街に持って行ってもほとんど変わらんよ。
せいぜい、浅貨が数枚ぶれるくらいだろうね」
「……信用するよ。得体の知れない俺たちに、ここまでしてくれるんだ。助かった。
それにしても……爺さん、ずいぶんと情報に詳しいな」
一真がそう言うと、老人は肩をすくめて笑った。
「長く商売をしてりゃあ、嫌でも耳に入ってくるんだよ。
旅人、冒険者、傭兵、密偵――いろんな奴が店に来る。
黙ってても酒の肴に何でも話していくもんさ。
……なんでだろうねぇ。初対面だってのに、儂はおたくらが妙に気に入ってしまった。死ぬんじゃないよ?」
その言葉に、一真はニッと口の端を吊り上げた。
「ありがとうな。爺さんも長生きしろよ。また顔を出すさ、機会があればな」
彼は軽く手を振って、店をあとにする。
晶も深く頭を下げた。
「あのっ……色々と、ありがとうございました!」
そう言って足早に一真の後を追おうとする。だが、その背に、老人がふと語りかけた。
「お嬢ちゃん――いや、坊っちゃん、かな?
……頑張りなさい。君からは、なんだか不思議な感じがするよ。
長く生きてきた老人の勘だけどね。……気をつけておくれ」
「……はい?」
晶は一瞬戸惑いながらも、再び深く頭を下げると、駆け足で店を出た。
老人は静かに見送る。そして、誰もいなくなった店の中で独りごちた。
「……不思議な人達だったねぇ。
エルサリオンにいた頃、何人か召喚勇者を見たことはあるが――
あの男も男の子も……いや、違うな。あの子……あれは“ただの人間”じゃない。
そばにいると、なぜか心が落ち着く。……無事でいてくれよ、坊っちゃん」
そう呟いて、老人は静かに椅子に身を預けた。
***
アイテムショップを後にした一真と晶は、村の通りを歩く。
日はまだ傾いてはいなかったが、二人は街の安宿を取り、一晩を過ごした。
久しぶりのベッド。
質感はお世辞にもよいとは言えないが、それでも二人は骨を休める。
翌日、宿の一回にある食堂で朝食を取り、二人は宿を出る。
目指すは、看板に大きく《BAR》と掲げられた建物。
一真が言う。
「こういう場所には、情報が集まるものさ。金を出せばなおさらな」
晶は、やや緊張した様子で足取りを遅くする。
「ちょっと……怖いです。ボク、酒場って初めてで……」
一真はそんな晶の頭を、優しく撫でてやった。
「大丈夫。何かあればすぐに反応するし、離れはしない。無理そうなら外で待っててもいい」
だが晶は小さく首を振った。
「……ありがとうございます。でも、ボク、一真さんと一緒がいいです」
その言葉に、一真は目を細めて微笑む。
「……なら、行こうか」
酒場の扉を開けると、すぐに葉巻と酒の混ざった、濃厚な空気が二人を包み込む。
まだ日か高いためか、客はそこまで多くはない。
(やはり昨日の内に来るべきだったかな?)
だか、晶を少しでも早めに休ませてやりたかった。
この歳の子供には、この数日は酷だったろう。
(まあ、いいや。駄目ならその時だ)
そう、気持ちを切り換える。
一歩足を踏み入れた瞬間、場の視線がぴたりと二人に注がれた。
中には屈強な男たち、酔った冒険者、気だるげな女店員――混沌とした喧騒が満ちていた。
晶は鼻をつまみそうな顔をして、少し顔をしかめる。
(……強烈だな。なるほど、子どもにはキツい)
一真は苦笑しながら、カウンターの奥にいるマスターに声をかけた。
「やあ、マスター。ここはいい店だな」
マスターは無愛想に一真と晶を一瞥し、鼻を鳴らした。
「……ご注文は? うちには子供用のメニューなんて無いよ。
ミルクが欲しけりゃ、教会の施しをあたってくれ」
その言葉に、場内から小さな笑いが漏れた。
晶の肩がびくりと震える。
一真は静かにその手を握り返し、前に出た。そして、マスターに金貨を二枚、そっと差し出す。
「まあ、そう言うなって。俺たちは遠くから来たばかりでな。
いろいろ情報が欲しいんだ。これは――まあ、挨拶代わりに」
マスターの表情が少し動いた。
「……金貨、か」
一真はさらに続ける。
「皆に一杯、奢ってくれ。残りはマスターの取り分で頼む」
その一言に、場内がざわめく。口笛が上がり、歓声が飛び交う。
「おいおい! 今日はラッキーデイだな!」
「金持ちの旅人様、ごちそうさまで~!」
陽気な笑い声が酒場中に広がる。その喧騒に包まれながら、一真は考えを巡らせていた。
(さて……この場に、情報を持ってる奴がどれだけいるか。
どうせなら、“面白い奴”が一人くらい釣れると助かるんだがな)
一真は晶の肩を軽く抱き寄せながら、目線をさりげなく店内へと巡らせた。
場末の酒場。無数の視線。
何かが始まる予感が、そこにはあった。
最近バトル少なめでごめんなさい!
何とかバトル書けるように頑張ります!
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