第102撃:夜の防壁に誓う
また遅くなってしまいました。
ごめんさない…。
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一真たち四人は、深い森を抜けて順調にエルサリオン王国への街道を進んでいた。
道中でモンスターに襲われることもなく、太陽が地平線に沈む頃には、王都を囲む巨大な防壁が遠くに見えてきた。
(特に威圧なんてしていないんだがな……。森で戦ったあのモンスターの気配が、まだ俺に残っていたのか)
このあたりに生息している魔物なら、あの凄絶な気配だけで近寄ってこられないだろう。
一真は小さく息を吐き、独り言のように呟く。
「まあ、面倒がなくて良かったか」
心の中でさらに付け加える。
(どうせこの辺のモンスターの魔石は、大して金にもならんしな。無駄な殺生をする必要はない)
その呟きに、隣を歩く晶が首をかしげる。
「面倒って……何がですか?」
「いや、こっちの話だ」
一真は苦笑を浮かべて答えた。
彼らは防壁沿いに歩きながら、城の裏手へと回り込む。
脱出口の近くまでたどり着いたところで、一真は足を止め、三人に向き直った。
「さて――お前たちはこの辺りで待機していてくれ。
この辺は多少、身を隠せる岩陰や茂みもあるしな。
それに紫音と柚葉なら、この辺りのモンスターは問題ないだろう」
紫音がやや不安げに尋ねる。
「一真さんは……どうやってエルサリオンに入るつもりなんだ?
今、この国が一真さんをどう扱ってるのかは分からないけど……
まさか、正面から行くわけにもいかないだろ?」
一真はその問いに小さく笑い、目を閉じて仙気を制御する。
次の瞬間――三人の目には、まるで一真の存在が薄れていくように映った。
「えっ……? 一真さんの気配が……消えた?」
柚葉が思わず驚きの声を上げる。
「それも……封神拳の技なんですか? そんなことまで出来るなんて……」
「いや、技というほどじゃないさ」
一真は淡々と答える。
「ただ、少し強めに気配を抑えてるだけだ」
晶がはっとしたように声を上げる。
「あ……森の川で魚を捕っていた時と同じ……!」
「ああ。あの時よりは、もう少し強めに抑えているがな」
そう言って一真は表情を引き締めた。
「いいか。お前たちは――まず自分の安全を最優先に動け。
もし時間が経っても俺が戻らなかったら……晶に聞いて、
“帰らずの森”の先にある村へ行くんだ。森は迂回しろ。
そこなら休めるし、信じられる者たちも何人かいる」
その言葉に、紫音が不安げに眉を寄せる。
「帰ってこなかったらって……そんな、
一真さんに限って……そんなこと、あるわけないだろ」
あれほどの強さを持つ男に、何が起こるというのか。
だが一真は静かに、少しだけ寂しげに笑った。
「分からんさ。俺たちはまだ、この世界のことを何も知らない。
どんな奴がいるのか、どんな力が存在するのか……。
それに――俺はまだまだ未熟だ。俺より強い奴なんて、いくらでもいる」
そう言って肩をすくめる一真の横顔を見て、三人の胸が痛む。
一真が誰かに敗れる姿など、想像したくもなかった。
けれど――その言葉の奥にある“現実”の重みは、確かに感じられた。
三人の沈んだ表情を見て、一真は少しだけ柔らかく言葉を続ける。
「……俺のことをそれだけ信じてくれるのは、正直嬉しいよ。
でもな、“未熟”って言葉は、裏を返せば――
“これからも成長できる”ってことだ」
そう言って、一真は三人の頭を順に撫でた。
その手の温もりが、まるで炎のように優しく心に染みわたる。
「俺も――お前たちもな」
その一言に、三人は胸の奥が熱くなった。
一真は静かに防壁を見上げ、三人へと背を向ける。
「じゃあ、行ってくる。
オラクルの行動範囲や、何を目的に動いているかは分からんが、運が良ければ会えるだろう。
……まあ、駄目ならその時また考えよう」
そう言うと、彼は全身に仙気を巡らせ、気配を完全に断った。
次の瞬間、地を蹴る音もなく、一真の姿がふっと宙へ舞い上がる。
ただの一跳びで――
十数メートルはあろうかという防壁の上に、音もなく着地したのだ。
そして、影のように静かに防壁の上を駆けていく。
その光景を見上げながら、紫音がぽつりと呟いた。
「まさか……あの高さを、跳んで越えるなんてな……。
つくづく、すごい人だ……一真さんは」
そう言ったあと、紫音の声は少し沈む。
「……今のオレたちは、一真さんに守られてるだけなんだな」
柚葉も小さく頷く。
「うん……そうだね。
少し……ううん、すごく悔しい。
私たちも、一真さんの力になりたい……」
紫音も力強く頷いた。
「ああ……力になりたい。
そのために……オレたちも、もっと強くならなきゃな」
晶はそんな二人の言葉を聞きながら、胸の奥が締めつけられるような思いを抱いた。
(ボク……一真さんのために、何が出来るんだろう……。
いつも守ってもらってばかりで……何も返せてない……。
ボクも……一真さんの力になりたい……!)
三人の胸の中で、
一真という存在は、いつの間にか“憧れ”を越えた、大きな存在に変わっていた。
――夜風が吹き抜ける。
遠くの防壁の上に立つ一真の影が、わずかに揺れた。
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