第101撃:継承の重圧
またまた遅くなってしまいました…。
申し訳ありません!
ひとまずこれでアリステリアパートは終了となります。
次からはまた一真パートに。
グラウザーンが変わってしまったのは、自分の浅はかな行動のせいかもしれない。
もしそうなら、幼かったという理由など、言い訳にもならない。
アリステリアの胸の奥に、鋭い自責の念が突き刺さる。
地面に手をつき、青ざめた顔で息を荒げる。
父・レイゼルから魔王の力と地位を受け継いだあの日——彼女は覚悟を決めたつもりだった。
この世界を滅びから守り抜くという、揺るぎない覚悟を。
ダンダリオン以前の魔王の時代については、彼女も詳しくは知らない。
だが、少なくともダンダリオン以降の魔王は単なる「魔族の王」ではなかった。
邪神ゼルグノスの復活を防ぐために存在する、“封印の守護者”。
復活の鍵となる二つの力のうち、一つ——魔王の力を管理する者であり、
決してその力を悪用させぬよう、永遠に封じ続ける管理者であった。
父も、祖父も、そのまた前の世代も——
代々の魔王は皆、力を守り、誓いを受け継いできた。
魔王の力だけでは邪神の封印は解けない。
しかし、万が一、億が一でも、何らかの異変が生じて魔王の力だけで邪神が復活してしまえば、
その瞬間、この世界は終わる。
今のエルフェリアには、かつてのように邪神と戦う力も、封じる力すらも残されていないのだから。
最悪の状況を想定して、それを回避するために動く。
用心して用心しすぎるということはないのだ。
アリステリアにもそれは分かっている。
それでも——アリステリアの心は揺らぎ、視界が滲む。
そんな彼女の肩に、優しく、しかし確かな重みのある声がかかった。
「アリステリア様……お辛いでしょう。苦しいでしょう。
本来なら、貴方様はまだ魔王になるには若すぎる。
レイゼル様が貴方に力を譲渡され、そして急逝なさってから一年——
貴方様の背にのしかかる重圧は、私などには想像すらできません」
ヴァルドランの声は、労りと尊敬に満ちていた。
だが次の瞬間、その声が鋭く変わる。
「——しかし、それでも今、魔王は貴方様です。
アリステリア様。貴方には、この世界を守る義務がある!」
彼は強くアリステリアの手を掴み、無理やり立ち上がらせた。
「見なさい。これが、貴方が進むべき道です。
これからも、こうした惨事は避けては通れない。
甘えは……許されません!」
ヴァルドランの握りしめられた拳から、赤い血が一滴、地面へと落ちる。
ヴァルドランの言葉に、アリステリアは息を呑んだ。
——そうだ。
力の譲渡を明確に拒否した以上、いまのグラウザーンはもう容赦をしない。
力を手に入れるためならば、どんな犠牲も厭わぬだろう。
そしてその狂気は、これからさらに加速していく。
誰かが、現実を突きつけねばならない。
それが、ヴァルドランの役目だった。
アリステリアの視界には、再び無惨な戦場の光景が広がる。
焼け焦げた大地。血に染まる空。
込み上げる吐き気を無理やり押さえ込み、彼女は血が滲むほどに唇を噛みしめた。
(これが……これが、この先の時代を背負う“魔王”の見る風景……。
こんなものが……こんな現実が……)
それでも。
「……それでも、邪神だけは——絶対に復活させられない。
おじ様に……グラウザーンに、力を渡すわけにはいかない……!」
魔王の力だけでは封印は解けない。
もう一つの鍵、女神エルフェリーナの力が必要だ。
だが、グラウザーンたちがその魂を探し出せないという保証はどこにもない。
もし自分が力を渡してしまえば、その瞬間、この世界の滅びは確定する。
——それだけは、絶対に阻止しなければならない。
仮に過激派が女神の魂を探し出したとしても、魔王の力を渡さなければ鍵は揃わない。
アリステリアは震える唇を抑え、静かに顔を上げた。
「もう大丈夫です。……みっともない姿を見せてしまいましたね。
ありがとう、ヴァルドラン」
ヴァルドランは深く頭を下げながら、自らの無力さを痛感していた。
自分には、この方の重荷を軽くすることも、悲しみを癒やすこともできない。
魔族といっても、その姿は様々だ。
ガズラのように怪物めいた者もいれば、アリステリアやヴァルドランのように、
外見は人間とほとんど変わらない者もいる。
アリステリアもまた、魔王である前に一人の若き女性。
本来なら、もっと穏やかな時を過ごし、誰かを愛し、愛される人生だってあったはずだ。
だが——レイゼルには彼女しか子がいなかった。
そして魔王の力を受け入れられる“器”を持つ者は、
魔族の中でもゼラシア一族以外に存在しなかった。
「誰でも良い」というわけではない。
受け継ぐには、選ばれた器が必要なのだ。
そしてグラウザーンもまた、その器を持つ者であった。
ヴァルドランは、祈るように心で呟いた。
(せめて……アリステリア様が寄りかかれる誰かが……
この方の支えになってくれる者が、現れてくれれば……)
それから、アリステリアたちは力を合わせて、戦いで亡くなった者たちの墓を建てた。
魔王軍の者も、勇者たちも、分け隔てなく。
魔王城から少し離れた丘には、美しい花畑が広がっている。
緩やかな荒廃が進むエルフェリアでは、希少なその場所にアリステリアは静かに墓標を立て、
一人の少女勇者の墓の前で膝をついた。
「……ごめんなさい。本当なら、生まれ故郷で眠りたかったでしょうけど……
ここで許してね」
風がそっと彼女の赤い髪を揺らす。
その横顔には、涙の跡がまだ消えぬまま残っていた。
ヴァルドランのおかげで、アリステリアは愚かにも力を手放すことはなかった。
だが、心の痛みは消えない。
誰を恨めば良い? 誰を憎めば良い?
自分を呪えば良いのか?
その答えを見つけることは、今もできない。
——ただ、やり場のない悲しみだけが、
アリステリアの胸の奥に残り続けていた。
よろしければブックマーク、評価、リアクションをお願いします!
感想もお待ちいしていますね!




