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第6話「運命共鳴スクランブルダッシュ」(夏はどこからやってくるのでしょう。)

「あの?大丈夫ですか?

・・・あの?ん?」

「あ?ああっ!すみません。なんでもないです。失礼しました」


危ない危ない。本当に吸い込まれていた。この目に。


「何も付いてないです。

本当に・・何も」


両手を前に出し苦笑いで否定する尚彦。


「旅行ですか?僕も旅行で来てるんですけど、

人が多くて迷ってしまいまして・・・はは」


情けない。もっと気の利いた事

言えないのか俺。


「あ、いえいえ、私は今日、

こっちに越して来たんですよ。東京から」

「そうなんですか。珍しいですね、こんな時期に。

就職か転勤みたいな感じですか?」

「ええ、そんなところです」

「そうなんですねぇ、頑張ってくださいね!ハハハ・・・」

「はい!それじゃ、失礼しますね」


ニコッと笑い、立ち去る女性。

尚彦は暫く目で追っていた。

駄目だ、今の俺はキモすぎる。

少し頭を掻き、

織姫たちが待つホテルへ急ぐ。


「すんませーん、遅れましたー」

「遅れたってお前外から来ただろ?」

「ええ、ちょっとその辺を散策してまして」

「あら尚彦君、いい所あった?」

「いやーこの短時間ではなかなか」

「八坂神社へ行くのじゃ?」

「んー今日はちょっと遅いかもな。

もうすぐ午後四時。疲れたし、明日にせぇへんか?」

「そうじゃのぅ。すまんな尚彦殿、

少々気が逸っておったのじゃ。

今日はこの辺りでゆっくりするのじゃ」


一日の旅の疲れを癒すことにした尚彦一行なのであった。



ー同日 午後四時 京都市郊外 とある古い一軒家ー


「ありがとうございましたー」

「こちらこそお世話になりました。

これ、皆さんでどうぞ」


袋に入った大量のペットボトルを

引っ越し業者に渡す女性。

数台のトラックを見送り、家に入る。


「あなたー、あ、ここにいたのね」


仏壇の前に座る五十歳前後の中年男性。

この女性の夫にあたる。

藤原伊織の父、雅彦。そして母の沙織だ。

仏壇から向き直り、

引っ越し荷物の整理をしながら話す。


「すまないね、沙織。

こんなことになってしまって」

「なにいってんの。家族でしょ。

今は何も考えずにゆっくりしてね。

伊織はこれからお世話になる

就職先に挨拶してからくるそうだから、

もう少し遅くなるみたいよ」

「そうか。あいつにも本当に悪いことしてしまったな。

せめて大学は卒業させてやりたかった」

「大丈夫よ。自分を責めないで。

あの子はあなたに似て頭が良いから心配ないわ。

私としても、ご先祖様が残してくれた

この家に戻れたのは嬉しいのよ。

だから、気にしないで」


虚ろな目をした雅彦に笑顔を向け、

最大限に優しく、

なるべく自然に話しかける沙織。


「せっかく京都に来たんだし、

明日はちょっと出かけてみない?」


ゆっくりと天井を見る雅彦。


「そうか、そうだな。君と出会った場所だもんな。

行ってみようかな。八坂神社に」

「・・・そうね。私も感謝を伝えないと」



ー二千二十年 六月七日 午前八時半 某ホテル ロビーラウンジー


着信。

切れる。


着信。

切れる。


着信。

出る。


「おー起きたか尚彦。早く降りてこい」

「お、おはようございます・・行きます」


着信履歴を見ると、

織姫、一美さん、仁六さんの順だった。

くっ、せめて二番目までに取りたかった。

モーニングコールに厳ついオッサンは勘弁して欲しかった。


男の朝準備は速い。

トイレに行って顔を洗って歯を磨いて着替えて終了だ。

寝グセなど帽子を被れば一発だ。

五分未満。そんなもんだ。

それでも眠気は取れないが、仕方ない。

昨晩はニリン・ドロン二号機のイメージ図を作成するのに

3時ごろまで起きていた。


眠そうにロビーへ降りてくる尚彦。

仁六、一美、織姫の三人は、

ラウンジでモーニングを食べている。。

手を挙げて尚彦を呼び寄せる仁六。


「皆さん、おはようございますー」

「遅いぞー尚彦。ほら、座って食え」

「おお尚彦殿、おはようなのじゃ」


仁六の正面、織姫の右隣に座る。

織姫の明るく元気の良いあいさつで少し目が覚める。


「ありがとうございます。いただきます」


朝食を食べ終わった織姫と一美が、

今日の予定を立てている。

「伏見稲荷、三十三間堂、清水寺、

一念坂・二寧坂・三年坂、八坂神社、円山公園。

順番的にはこんな感じかな?」

「あい!一美殿、楽しみであるなぁ」

「あれ?織子、どこかで一旦別れるんやんな?」

「おお、そうであった!一美殿、

八坂神社では一人になりたいのじゃ」

「あらそうなの」


全開で寂しそうに織姫を見つめる一美。


「まあいいじゃねえか。

何か思い出せるかもしれねえから

ここまで来たんだ」

「そうね、仕方ないわね」


仁六が厳つい顔面をこちらに近づけて小声で言う。


「おい、お前、見守っててやれ」

「ん?ああ、そうですね。心配ではあるし」

「じゃあ、八坂神社で一旦別れて、

俺たちは円山公園に行くか」

「そうね。近くだし、その後また神社で合流にしましょう」

「よし、じゃあそろそろ行くか!尚彦、ごちそうさん」


少しニヤついた仁六から

妙に高い会計票を渡され、肩を落とす。

昨日とは打って変わって今日は天気がいい。

絶好の観光日和だなチクショウ。

そう思う尚彦だった。

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