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第5話「京都駅前シャインスパーク」(京都は本当にいい街です。)

-二〇二〇年 六月五日 午前七時 寳田邸 -


「おーい尚彦ぉ。ちょっといいかー」


仁六さんの朝は早い。

俺の朝にはまだ早い。

あと一時間は夜だ。

そうだ、気のせいだ。

それか夢を見ているだけだ。

俺の朝は、まだなのだ。


「おーい!尚彦ぉ!ちょっといいかぁぁぁ!」

「どぅわぁぁ!仁六さん!おおおおはようございます。

どうしたんですか?こんな早くに」

「いいから顔洗ってこい。話はその後だ」


飛び起きたら目の前に厳ついオッサン。

全く、気持ちよく眠っていたのになんて朝だ。

というか、部屋までくるか、普通。

顔を洗って二人分のコーヒーを淹れる。

縁側のソファで待っている仁六さんにそのコーヒーを出す。


「で、どうしたんですか?こんな朝早くに」

「おう、明日から京都だろ?だからよ

その前に一つ聞きてえことがあんのよ」

「は、はあ。なんですか?」

「お前が作ってる馬鹿みてえなやつ。なんだっけか。

アラン・ドロンだっけか?」

「ああ、ニリン・ドロンですか?

馬鹿みてえなやつって」

「おう、それそれ。進捗はどんなもんよ」

「うーん、今回はまだ試作の試作ですからね。

バランスからプロペラのギア比、出力の問題・・・

まだまだ問題は山積みですね」

「そうか。大体出来上がったら教えてくれや。

それか、もしかしたらよ。意外と

結構簡単に上手くいく方法があるかも知れねえ」

「え?そうなんですか」

「いいか、一つアドバイスをやる。

ちょいと根本から覆すような話かもしれんが」

「?。なんでしょうか。詳しく!」

「そうだな、これを二号機として作ってみろ」


そういうと仁六は、簡単ではあるが、

イメージの図を取り出した。


「ん?これは空中での操作に重点を置いた感じですね。

飛ぶことを前提としてじゃなくて、

飛んだ後の次の段階の様な気がするんですが」

「まあいいからよ、騙されたと思ってやってみろよ。

帰ってからでいいからよ」

「まあ、これならプロペラも小さいし、

エンジンを発電に回せばモーターでいけますね。

今の様な余計な重装備は要らないし、

これなら普通のバイクでもなんとかなるか。

解りました。考えてみます」


まさかのタイミングでニリン・ドロンが

次の段階へ進化するかもしれない。

仁六さんが言うんだ。間違いない。


「よし!それじゃあ。

ちょっとご近所に休業の挨拶してくっからよ」


仁六さんは、町の電気屋さんをやっている。

主な仕事は、白物家電の修理や販売、

エアコンの付け替え等だ。

昔は東京の大手企業で働いていたそうだが、

田舎暮らしをしたくて

こっちに来たらしい。

繁忙期は、俺も手伝いをしている。

(させられている。)


「お?仁六殿、もう帰られるのか?」

「おう、織子ちゃん。明日から京都だな。楽しもうぜ」

「あい!宜しくなのじゃ!ところで、一美殿は来てないのかのぅ」

「おう、家に居るぜ。一緒にあっちへ行くかい?」

「いやいや、尚彦殿に少し聞きたいことがあるので

また後でお邪魔するのじゃ」

「そうかい?じゃあ、また後でな」


仁六が退出すると、間髪入れずに織姫が話し出す。


「尚彦殿。京都に行くにあたって、

お願いがあるのじゃが」

「お?どうした急にかしこまって珍しい。

なんや?行ってみろよ」

「実は、その、スマホが欲しくての」

「そうか。そうやな。そういえば丁度、

機種変更しようと思ってたし、行くか」

「それならば、その今尚彦殿が持っておるやつが良いのじゃ」

「お下がりでええんか。じゃあ俺だけ機種変して、

別で契約してくるよ」

「おおお感謝するのじゃ。それと・・・

京都では少しの間、一人になりたいのじゃ」

「一人に?まあ、スマホがあれば問題ないか。

わかった。思いのままに行ってこい」


よし、明日からは京都だ。

久しぶりの関西に少し胸が躍る尚彦だった。


-二〇二〇年 六月六日  午後三時 京都駅-


京都の街は、梅雨入り前の蒸し暑さに包まれている。


「いやー曇ってんなー。見事に曇っていやがる」

「フフフッいいじゃない。それも旅行の醍醐味よ」


野田夫妻が都会にいる違和感。

北極でアロハシャツ、いや、

ハワイで無地セーターの次くらいの違和感

元々は東京に居たらしいが、

あのワイルド全開の夫婦が京都駅にいるだけで

こんなに場違い感があるのかと尚彦は感じていた。

写真撮りまくってるし。


織姫は・・・織姫も突然目の前に現れた都会に

目を輝かせている。

渡したスマホでやはり写真を撮りまくっている。

活用してくれて渡した甲斐があるな。


一度ホテルへ荷物を置きにチェックインした後、

尚彦は一人、行ったことがない京都タワーへ向かった。

昔友人たちに聞いた。『がっかりする名所』。

それを確認しに行くために。


なかなかいい景色だった。

俺は好きだなここ。

素直にそう思った。


小腹が空いたので、京都駅の中にある

全国展開しているドーナツのお店に入った。

理由は、通りすがりで、席があったからだ。


ひと息つくと、織姫からメッセージが届いた。

『尚彦殿、どこにおるのじゃ?下で待っておるぞ』

文字でもこの話し方か。絶対わざとやろ。


ホテルへ急ぐ。信号待ちをしていると、

正面に綺麗な女性が大きなスーツケースを引いて立っていた。

遠目でも判る。綺麗な目をした女性だ。

信号が青に替わり、お互いが同時に歩き始める。

なんてことはない。ただすれ違うだけの存在だ。

まっすぐ歩けばいいだけの話だ。

二度と会う事は無いのだ。


「あの?何か付いてます?」


尚彦は見惚れてしまっていた。

彼女の瞳は、まるで夜空の星雲のように深く

そして、吸い込まれるように澄んでいた。

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