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第4話「超科学解析ブレーンバスター」(少し進展があったようです。)

-二〇二〇年 五月二十四日 福岡県 某大学研究室-

尚彦たちが背振神社へ向かう山道を車で駆け上がっている頃、

ある大学研究室では、野田仁六がゴツい体をソファに沈め、

目の前の机に広げられた織姫の着物をじっと見つめていた。


部屋は古い書物と科学機器が混在する

カオスを視覚的に表現したような場所だ。

机の向こうには白髪交じりの髪を無造作に束ね、

眼鏡の奥で目をキラキラさせる歴史学と考古学のエキスパート、

入間教授が顕微鏡を覗いている。

彼は仁六の学生時代の後輩らしい。

顔を上げ、興奮気味に喋り始める。


「仁六さん。やはりこの着物、普通じゃないですね。

この絹、まあ確かに絹は絹なんだけども、

どうも大量の放射線を浴びた痕跡があるんです。

なんというか、こう、放射線を当てると・・・

変質してしまうんです。

ま、放射線の影響で変質することはよくあります。

「電離作用」といって

物質の性質や構造が変わることは結構あるんです。

それは解るが・・・しかし様々な放射線を通さず

最終的に完全に吸収してしまう。

絹が。ですよ。

鉛やタングステン、コンクリートの様な物なら解るんですが、

絹・・・織物がまさか。

聞いたことがない。調べてもそんな現象見当たらない。

しかもその時、わずかにプラズマの様な光を発して・・

ほら見てください。太陽光にさえ反応しているようです。

この通り、空気よりも軽くなる。宙に浮くのです。 

そして、遮光カーテンを閉めると、すぐに元に戻る。

これはまるで天女の羽衣だ!

この状態が再現できるようになれば・・・

うん、宇宙服の概念が変わるまであるかもね。

いやはやこれは一体・・・」


普段は冷静な教授が

感情的に早口になる。

少し引いている仁六。


「お、おう、そこまで難しい事は俺にはちょっとよく解らんが、

とにかくとんでもねえものだって事は解った。

で、それなら織姫ちゃんは宇宙人って事かい?」

「ははは、まさか。いや、うん。それも含めて、

その織姫さんにはお会いしてみたいとは思いますがね。

それともう一つ。これを見てください」


横にあった箱を丁寧に開ける入間。


「おいおい、これは・・・」

「面白いでしょ。ここのほつれ、裏にある汚れ。

ほら、端にある擦れ。

細部に至るまで。同じものなんです。

但し、時間経過もあって色褪せに一部損傷、

修復の跡もありますけどね。

ここなんか、発見された時の雨の汚れだと思われます」

「ってことはなにか?この二つの着物は同じもの。

いや、もっと突詰めて言うと

同一個体ってことか?」

「私は・・・そう思います。ですが」


目を細めて話を続ける入間教授を遮るように仁六が言う。


「おいちょっと待て、じゃああの子は

本当に時空を超えてやって来たってことなのか?

しかも帰ったから、これがあるってか」

「いやいや、そう決めるのはまだ早いと思いますよ・・・続けますね。

仁六さんが持ってきた方をα、私がここに持ってきた方をβとします。

こっちのβは仁六さんが持ってきたものとは違い、反応がない。

こちらは放射性炭素年代測定の結果、

ざっと一〇五〇年頃の±二十~±四十年、

つまり平安時代中期頃のものと推定されます。

こっちのαに至っては、測定不能なのです。

なので普通に考えれば

そっくりの別物と考えられるのが普通でしょうね」

「そうか、要するにまだよく解らねえってことか」

「この先の調べ方から考え直す必要がありますね。

もう少し・・お預かりしてもよろしいですか?

勿論秘密は厳守しますので」

「ああ、頼んだのは俺だ。

何か一つでも明らかになりゃいい話だし、

俺はお前を信用してる。頼んだぜ」

「任せてください。と言いたいところですが・・・

とにかく、やれるだけやってみますよ。先輩」

「そんじゃ、何か解ったら連絡くれや。

ああ、この帯みたいなのは俺が持ってていいか?

ちょっと試したいことがあってな」

「ええ、解りました。あ、あと仁六さん。その織姫さんと、一度お目通り願います」

「ああ、言っとくぜ、じゃあな」


笑顔で研究室を去る仁六に深い一礼を続ける入間。


「命の恩人からの頼みだ。力を尽くそうじゃないか」


そう心に決める、入間であった。



「全く。

燃費は良いのかもしれんが、

全然走らねえな、軽自動車なんざ乗るもんじゃねえ。

尚彦の野郎、なんでこんなおもちゃに乗ってやがんだ?

ああ、遅え遅え」


ぶつくさ文句を言いながら帰路に就く仁六。

助手席に無造作に置いた織姫の帯をチラッと見る。


「多分、織姫が過去から来たのは間違いねえな。

科学的などうのこうのはよく解らねえが、

解らねえからこそ出せる答えがあるってもんだ」


高速道路にある古賀パーキングエリアで一服する仁六の電話が鳴る。


「仁六ーあんた今どこにいるの?」


一美からの着信だ。


「あ、ああ、今古賀パーキングにいるんだが、

帰りに何か買っていくものはあるか?」

「そんなことはいいんだけどさ、

あんた、京都に行く?」

「あ?京都?なぜ京都?」

「オリちゃんが何か思い出したみたいでね」

「そりゃ行くしかねえじゃねえか。

ここまで来たら娘も同然だろ」

「さすが、私の旦那だね。

いろいろ準備するから、切るよ」

「ああ、頼んだぜ、嫁さんよ」

「こりゃもうキリ良く一か月くらい

ズバッと休んじまうか!ハーハッハッハ!」


自営業の必殺技。臨時休業。

仁六はここ一週間ほど

仕事をしていないようです。

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