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第2話「暴力的疑似科学スープレックス」(カレーライスは食べ物です。)

「ここやいづ・・?どういう意味?尚彦君、解る?」


首を傾げる一美に促され、一呼吸置いた後、

尚彦はその女性の前にしゃがみ込み、目線を合わせる。

彼女の瞳は、まるで夜空の星雲のように深く、

どこかこの場所に不慣れな怯えを湛えている。

尚彦はゆっくりした口調で話しかける。


「えっと、お嬢さん?名前、聞いていい?

ここはどこやってことやんな?ここは俺の家やねんけど」


なるべく言葉を選びながら話す尚彦だが、

女性は小さく首を振る。


「我は、名を・・いや、覚えている名はあれど、

ここにそぐわぬやもしれぬ」


言葉は通じるらしい。彼女の声は震えつつも、

どこか凛とした響きがあった。


「そぐわぬって・・・え?どこから来たんか、解る?」


尚彦の言葉に、仁六が鼻で笑う。


「ハッ!馬鹿野郎、レディにそういくつも質問するもんじゃねえ。

でもな、あの着物、見たことねえ生地だ。いや生地は絹っぽいが、

なんか、光沢がアレだ。もしかすると今の技術じゃねえかもな。

まさか、本当に過去から・・・って、

そんな馬鹿な話、あるわけねえか」


一美が女性の髪を優しく梳きながら、冷静に言う。


「とりあえず、この子を休ませてあげないと。

尚彦君、布団出して。

仁六、あんたはあの着物のこと調べる手段はある?

専門家とか知り合いにいる?」

「専門家?誰だよ、着物の教授か?」

「いやほら、あんたの友達の大学教授。古いものに詳しいじゃん」

「ああ、入間か。そうだな。連絡してみるか」


尚彦は慌てて布団を用意しながら思った。


「結局名前、聞けてないよな」


俺の家は一人暮らしにしては広い。

状況が落ち着くまで、

一美さんが泊まり込みで面倒を見てくれることになった。

まあ、そう言っても仁六さんの家は3軒隣りなので

結局仁六さんも毎日うちに来て、

風呂に入って飯食って酒飲んで泊っている。



三日経った。

一美さんが夕飯の買い出しに行ってくれて、

今日も俺はタダ飯にありつく。


「一美殿、お手伝い致しますのじゃ」

「あらオリちゃん。ありがとね。

じゃあ、このじゃがいも、ここで洗ってくれる?」


まるで親子の様な光景に表情が崩れる尚彦。

あれ?なんだこの違和感。

いや違う。

違和感が無い。無さ過ぎだ。

余りにも自然過ぎる会話に

ツッコミを入れ損なうところだった。

それではツッコむことにしようとしたその時。

腰ほどまである綺麗な髪を

件の女性が尚彦に気付き、話しかける。


「おお尚彦殿、今日の夕食は『かれいらいす』というものじゃぞ」


(あっれれえ?おっかしいな。俺だけ置き去りにされているのかなあ。

何があったのかなあ。気になるなあ。)


呼吸を整えるように深呼吸をする


「えっと、あの一美さん?これはどういう状況なのでしょうか?」

「あら尚彦君。そうね。説明しないといけないわね」


手にした包丁をまな板に置き、真剣な顔で語る。



彼女はずっとテレビを見ていたらしい。

この3日間。起きている間ずっと。

そして今日、俺が車庫で仕事をしていた昼頃に突然、


「ウチの名前は『織姫』と言うのじゃ。

一美殿、よろしくお願いするのじゃ」


と、話しかけられたらしい。

独特の口調と一人称は

ドラマやアニメから得た大量の情報と、

元々の話し方が混じった結果っぽい。

そして、織姫を見る一美さんの目が

怖いくらいに母性に溢れている。


織姫の記憶はまだ曖昧なところがかなりあるらしく、

まだまだ全快とは言えないようだ。

そういうことなので、もう少し様子を見ることにした。



ここで、少し俺自身の話をしよう。

実は俺、新人の発明家でもあるのだ。

様々な科学の方程式を『都合よく』組み上げて、

新たな発見をしようと試みる。


今回挑戦しているのはこれだ。

空飛ぶバイク、『ニリン・ドロン(仮)』だ!

フォークの部分とスイングアームの外側に

更なる可変式フォークを取り付ける。その先端に

前後のタイヤサイズと合わせたプロペラを両脇に装着。

専用の動力伝達装置を開発し、スイッチ一つで切り替え可能。

プロペラへのギアチェンジが完了すると、その推進力により

自動でプロペラが横へ広がり、ドローン形態へ変形する。

通常時はバイクとして走行可能。

見た目は少々横にデカいバイクだ。

いや、少々ではないな。

ま、まあ試作の試作だ。

こんなもんだろう。


今回ベースとなるバイクは

排気量四五〇ccの競技用オフロードバイク。

軽さとイジりやすさで選んでみた。

競技用なので灯火類が無い。

なのでこのままでは二輪モード時の

公道走行は不可能だ。

付けても良いけど、登録やら車検やらがめんどい。

普通に考えて通りようがない。

今はそこを気にしても仕方がない。

問題は飛ぶかどうかだ。

成功するかどうかも含めて、楽しみで仕方ない。

まあ、今後に期待してくれ。


「こいつ、本物の馬鹿かもしれねえな。

だが俺は嫌いじゃねえぞ」


少し遠目で尚彦の様子を見て

微笑みながらつぶやく仁六。

そこへ携帯電話の着信が鳴り響く。


「おう、わかった。んじゃ、実物を持っていくからよ。

記録はつけてあるぜ。ああ解ってるよ、

守ってやれるのは俺達だけかもしれねえからな。

頼んだぜ、教授さんよ」


通話を終了したスマホの画面に映る空には

一番星である金星が輝いていた。

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