伝えるという仕事
昼下がり、ギルド支部の廊下に日差しが差し込む。
「……あの伝票、違ってたの、ここの番号のとこね」
「え、でも……こっちにも似た型番があって」
リリアとルイスが、手元の紙を見ながら立ち話をしていた。
やり取りは穏やかだったが、どこか噛み合っていない。
リリアが丁寧に説明しようとすればするほど、ルイスの表情が混乱に染まっていく。
近くの壁に寄りかかっていたゴルザンは、ちらりと二人を見やった。
(……あれ、誰もちゃんと教えてねえのか)
ぼんやりとそう思いながら、何も言わずにその場を離れた。
***
午後の業務が一段落したころ、ゴルザンのもとにルイスが書類を抱えてやってきた。
「あの……すみません、この備品の記録なんですけど」
ゴルザンは手元の仕事を止め、ルイスの書類に目を通す。
「これは、分類がずれてる。記入はこっちの欄にまとめろ」
「あ、はい……!」
「この数字、単位が違う。納品書と伝票で表記が変わってるから、確認して合わせろ」
「すみません、俺、こういうの苦手で……」
ルイスは頭をかきながら、少し照れくさそうに笑った。
「……それと、その……」
ふと、ルイスがまっすぐこちらを見る。
「この前の会議の時、助けてくれて……ありがとうございました」
ゴルザンの手が、ふと止まる。
「……別に」
短く返すが、その声音は少しだけ柔らかかった。
「俺、ゴルザンさんって、なんかこう、背中で語るタイプだと思ってたんですけど……今日、ちゃんと“言葉”で教えてもらえて、ちょっとびっくりしました」
「……そうか」
ルイスの言葉が胸に残る。
(……そうか。今まで、誰にも教えようとしてなかったんだな)
背中を見せるだけでは、伝わらないことがある。
ましてやここは訓練場じゃない。ギルドだ。
仕事を教えるというのは、単なる業務の一環じゃなく、信頼をつなぐ行為なのかもしれない。
ふと、カレンの姿が脳裏をよぎる。
強情で、まっすぐで、でもどこか不器用で——そんな彼女に、かつて自分は何を伝えたのか。
何も伝えられなかった後悔が、胸の奥で微かに疼く。
あのとき、自分の背中で語れると信じていた。でも、言葉にしなきゃ伝わらないものもある——今なら、わかる。
「次も来い。分かんなきゃ、聞け」
そう言ってゴルザンは視線を戻す。
ルイスは、目を丸くしたあと、ぱっと表情を明るくした。
「はいっ!」
その返事に、ゴルザンの肩がほんの少しだけ、緩んだ。




