捨てられた男
ラストリーフ支部は、今日も静かだった。
朝の報告もなければ、笑い声もない。依頼掲示板は整然と並び、書類は滞りなく処理されている。
だがその整いぶりこそが、むしろ停滞を物語っていた。
その中心に、一人の男がいた。
茶髪はぼさぼさで、顎には無精ひげ。
ギルドの制服は皺ひとつないが、その背中からは覇気というものがまるで感じられなかった。
彼の名はゴルザン。
かつて本部で訓練課の主任を務めた男。
何人もの後進を育て上げた実績を持ち、その名を知る者も多かった。
しかし今、その名を口にする者はいない。
「……また、厄介払いされたらしいぜ」
「そりゃまあ……あの事件のあとじゃあな」
ひそひそと囁かれる声が、廊下をすり抜ける風のように漂っていく。
本人の耳にも届いているだろうが、彼は何も言わない。
何も言わず、黙々と書類を読み、必要な処理を済ませ、黙って席を立つ。
それだけ。
声をかける者はいない。
笑いかける者も、心配する者も、何も——
「……ふん。だから、ここの空気は澱むのさ」
隅の席で帳簿を睨んでいたハナミ=ルードンは、小さく鼻を鳴らした。
捨てられたのは、あの男だけではない。この支部もまた、捨てられたのだ。
そしてそれは、ここにいる全員が、心のどこかでわかっていることでもあった。