ワンナイトした飲み友が翌朝に婚姻届を差し出してきた
目覚めるとピンクを基調とした部屋にいた。
見覚えがあるものの、二日酔いのせいで頭が上手く回らない。
「ここは……」
「おはよう! ちゃんと寝れた?」
話しかけられて顔を向ける。
そこにはもこもこしたパジャマを着た美女——秋奈さんがいた。
彼女は飲み友達で、ネトゲで出会ったのがきっかけだった。
リアルだけでも数年の仲となり、たまにこうして宅飲みをするのだ。
昨晩もたくさん飲んだのは、この強烈な頭痛が物語っていた。
「お味噌汁飲む? 即席だけど」
「あっ、お願いします……」
「それと加崎君」
秋奈さんが意味深な顔で近寄ってくる。
彼女は俺の耳元に顔を寄せると、少し恥ずかしそうに囁いてきた。
「——昨日は気持ちよかったよ」
「はい?」
「何回戦もしたから腰が疲れちゃったね。加崎君は大丈夫?」
「えっと、その……」
俺は恐る恐る自分の身体を見る。
全裸だった。
ベッドの横には俺と秋奈さんが脱ぎ捨てたと思しき服と下着が散乱している。
その瞬間、昨夜の記憶が蘇ってきた。
宅飲みが盛り上がった結果、俺達は一線を越えてしまったらしい。
(ワンナイト……注意してたんだけどなぁ)
秋奈さんは酔うと距離が近くなる。
男女の友情を壊さないため、俺も警戒していたのだが理性が負けたようだ。
幸いなのは秋奈さんが普段通りに接してくれていることだろう。
そう考えていると、秋奈さんが俺の肩を叩く。
「ねえ、ねえ、加崎君」
「何です?」
「いつ結婚しよっか」
「えっ」
俺はフリーズする。
気が付くと秋奈さんが一枚の書類を大事そうに胸に抱えていた。
「あの、それって……」
「婚姻届だよ。用意してたの」
秋奈さんは嬉しそうに微笑む。
そして前のめりになって顔を近付けてきた。
「あたし、フリーランスだからどこにでも引っ越せるよ。引っ越し代も自分で出せるし」
「いや、ちょっと……」
「仕事が嫌なら養うよ? 最近、仕事の愚痴多かったもんね。加崎君、家事が得意って言ってたからあたしも助かるよ。あっ、そうだ! 諦めたって言ってたラノベ作家! 今から目指してもいいんじゃないかなっ。加崎君ならきっと実現できるよ!」
秋奈さんが早口で語る。
妙な迫力があり、途中で遮る余裕などなかった。
秋奈さんはじっとりとした上目遣いで俺を見つめながら、ダメ押しの言葉を告げてくる。
「あたし、理想の奥さんになるよ。だから……絶対に捨てないでね?」